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イチの部屋を出たルシアンは、

静かな廊下を歩いていた。


胸の奥が

妙にざわついている。


エリオットの死。

イチという少女の存在。


どれも

答えを拒むように

静かで、苦しい。


すると――

角の先から、

足音が近づいた。


「ルシアン」


声で分かる。

セリーヌだ。


蝋燭の火に照らされた彼女は、

昼間の柔らかな表情ではなく、

冷静さを帯びた瞳をしていた。


「イチは?」


「眠った……と思う」

ルシアンは小さく息を吐く。


「日記を渡した。

読めなかったが……

大切にしていた」


セリーヌの目が揺れた。


「……そう」


やはり彼女も

胸に去来するものがあるらしい。


二人は

人気のない応接室へと入り、

向かい合って腰を下ろす。


蝋燭の火が

静かに揺れていた。


―――


最初に口を開いたのは、

セリーヌだった。


「……あの子は、

いったい何者なの?」


ルシアンは

眉間に指を当て、少し黙る。


「正直、わからない。

森にいた理由も。

エリオットと暮らしていた理由も」


「声が出ないこと、

感情が薄いこと……

それも普通じゃないわ」


「ただ、危険な存在には見えなかった」

と、ルシアン。


「むしろ――

怯えているように見えた」


その言葉に

セリーヌの表情が柔らぐ。


「ええ……

あの子、誰かに触れられる時

少しだけ肩が強張るの。

そして……

すぐに力が抜ける」


「拒まないんだな」


「きっと、

拒む力も、

知らないのよ」


その言葉は

痛みを含んでいた。


セリーヌは続ける。


「だからこそ……

知りたいの。

――なぜ、エリオットといたのか。

どうして追われていたのか」


ルシアンは深く頷いた。


「俺も同じだ。

あいつが死んだ理由は

“逃亡者だったから”じゃ説明できない」


―――

エリアスが見つけた情報――

帝国兵の動き。

住人たちの証言。

日記の内容。


全部が

ひとつの真実を指しているようで、

核心には触れられない。


「帝国兵が森にいた……

つまり、帝国内部で

エリオットを狙う命令があった」


「陛下の指示?」

セリーヌが眉を寄せる。


「……可能性は高い」

ルシアンは低く言った。


「だが――

何のために?」


「冤罪で処刑されたという噂は本当なの?」


「……真実は隠されたままだ」


ルシアンはゆっくり続ける。


「エリオットは聡明な男だった。

剣より、知識で戦うタイプだ。

陛下にとって、

“邪魔な存在”になったのかもしれない」


「何かを知ってしまった……?」


「あるいは、

何かを持っていた」


セリーヌの目が細くなる。


「……イチ?」


ルシアンは静かに頷く。


「可能性はある。

彼女が連れて行かれなかったのは――

気づかれなかったか、

知られたくなかったか」


「隠された?」


「そうだ」


セリーヌは、

胸元へ落ちた自分の手を見つめる。


「……あの子を狙う者が

また来るかもしれないわね」


「だから守る」

ルシアンの声は

揺らがなかった。

セリーヌ

「……エリオットを追わせたのは、

王の意志なの?」


ルシアン

「確証はない。

だが、兵が動くということは

“上”の命令だ」


セリーヌ

「陛下……

エルドリックの指示、ということ?」


ルシアン

「可能性は高い」


―――


セリーヌ

「……でも、わたしたちが動いて

大丈夫なの?」


ルシアン

「もともと我が家は

帝国北辺の警備を任されている。

森での不穏な動きがあった以上、

調査する大義はある」



「それに――

エリオットは俺の幼なじみだ。

死の理由を捻じ曲げられて

黙っているつもりはない」


―――


ルシアン

「帝都にいる古い伝手を使う。

兵が動いた理由を探る」


エリアスは

公爵家付きの忠臣という形で同行できる。


セリーヌ

「……危険よ」


ルシアン

「分かっている。

だが――

誰かが動かなければ

また誰かが消える」

ひとかけらの記憶

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