「ルウ?何を言っているんだ?」
「‥‥」
「まさか、傷の具合が悪いのか?」
「‥‥」
「傷は‥‥大丈夫」
「では何故?」
「‥‥」
少女は黙ってこちらを向いた。それは今にも泣き出しそうな顔だった。
「ルウ?」
次の瞬間、少女がこちらにものすごい速さで飛びかかってきた。
「なっ!?」
起き上がろうとしたが、少女の力にねじふせられて動けない。
「ルウ!!何をする!!」
「黙れ」
その言葉は首に鋭い剣先をあてられたようすな声をふくんでいた。
「お前もどうせ言うんだろう?思っているんだろう?」
「?」
「俺の事を化物って。」
笑っていたが、その声は震えている。
「この先はお前だけでいけよ。化物と一緒にいたらきっと後悔する。」
少女の瞳からぼたぼたと涙がこぼれおちる。男は違う、そんな事ないと言いかけたが、言葉を飲み込んだ。この少女に対して恐怖を抱いたのは事実だし、きっとそんな言葉は今のこの少女には届かない。だけど、
「確かにお前に恐怖を抱いたのは事実だ。」
「なら‥」
「だが」
「俺はルウ命をかける」
「!?」
「お前は殺されそうになっていた俺を無償で助けてくれたし、その身をていして、俺を守ってくれた。そんな命の恩人に命をかけることを許してくれないか?」
すると首に生暖かい感触が触れた。
「今、この場でお前の首を食いちぎる事だってできるんだぞ?」
「構わん」
「お前がいかした命だ。」
少女の赤い瞳と男の氷色の瞳が静かにぶつかる。
「じゃあせっかくいかした命だからな。」
ゆっくりと男から離れ、抱きついた。
「?」
「ありがとう」
その声は意外なほど、優しかった。
男はその頭を優しく撫でた。
「お前、本当に変な奴。」
少女はうっとりと目をとじ、喉をならしている。
「俺はな‥‥ロウ。」
「うむ?」
「人間は嫌いなんだ。」
「なんでだ?」
「覚えてない。」
「そうか‥‥」
「でもな、俺はお前が好きだぞ。」
「俺もお前が好きだぞ?」
二人は顔を見合せどっと笑う。
少女は肩を震わせくすくす笑う。
「人間にも、面白いやつがいるんだなぁ‥」
「俺は‥きっとお前となら居れる。」
「あの男は今、どこにいるんた?まったく‥‥」
いろいろな種類の書類に判をおしながらルキア王子がスロバキアに相談する。「やはり単独でここを目指して来るんでしょうな。」
「やはり‥‥あいつ派の武将達は全員抑えているしな‥‥‥。」
「ではこういうのはいかがでしょう?」
「‥‥‥。」
「まったく‥名案だ。スロバキア。」
「お褒めお預かりありがとうございます。」
ルキア王子はパイにナイフをぐさりと突き刺した。
「くくく‥‥ロウ、お前の首が地に転がるのも、そう遠くない未来だな‥。」
「ええ‥‥我らが兄王子‥‥」
ゆっくりと目をつぶる。足に芝がもえ、清々しい夏の風がほほをかすめる。
ドキドキしながらゆっくりと目をあける。
空が青い!!世界が美しい色で彩られている!なみだをこぼし、天に祈りを捧げる。ああ‥もう一度見る事ができた。あの子が愛した世界が、動物達が。
そしてかんじる、あの子がこの世界に居る。道端にあった紙で、てきぱきと飛行紙を折る。空に向けてついっと飛ばすと、ゆったりと正面の道に飛んでいく。
「そっちね。」
ああ‥何と足が軽いのだろう。早く会いたいな。
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さすがっす!