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/午後5時18分.ーー覆間高等学校 ?????/
『━━━━』
「…………」
『━━ぃ━━て━』
「………ぅん?」
『━━━おーい、起きて』
「……はっ!」
勢いよく顔を上げ、目をパチパチさせる歩。
「僕…なんで寝て━━━ってうわああ!?」
目の前に立つ青年を見て、さっきの出来事を思い出し、ズササッ!!、と後ずさる。
「おわっ、え、え?」
(…なんか僕まだ生きてたー!!)
歩は、頭の中でガッツポーズをする。だが、不安はすぐに襲い掛かってくる。
(でも目の前にアイツ居るー!!怖いー!!)
起きて早々、体も頭の中も騒がしい。
『そんなに大声上げて逃げなくても…いや、仕方ないか』
歩に警戒されている事を再認識した青年は、少し恥ずかしそうに頭をかいた。
『…さっきは変なことしてごめん』
「…え、」
『その、許してくれないか?』
そう言い、頭を下げる青年。
「…………」
(…謝ってる?なんで、?)
次は何をされるのかと内心ビクビクと怯えていた歩にとって、青年の発言は想像とは真逆のものだった。
先ほど敵意丸出しで囁いてきた悪魔と同一人物なのか、一瞬疑ってしまうほどに。
こっちを見つめてくるので、歩は思わず目を逸らしてしまう。
返事ができず固まる歩を見て、青年は困ったような表情で言った。
『……ああ、言葉だけじゃあ足りないかな。…えぇっと、じゃあ…』
青年は、動揺している歩に、今度はそっと近づく。
そして、膝を付き、歩の手をとった。
(手、手を触られた…!?な、なな、何を━━━)
『…ん』
チュ…
それは一瞬の出来事であったが、歩にとってはとても長く感じられた。
青年は、歩の手のひらに、キスをしたのだ。
「……ぇ!?」
『これで、僕の気持ち…伝わったかな…?』
「きっ気持ち……!?」
歩は、またもや青年の意外過ぎるの行動に、動揺してしまう。
(気持ちってどういうこと!?え、いや、え?ちょ、えぇ?)
唐突で、何しろ初めてされたキスに、だいぶ焦っている。
(………よし、一旦深呼吸だ)
歩は深呼吸をして心を落ち着かせようとする。
(スゥ~、ハァ~………よし)
さすがにこの状況に慣れてきたのか、多少は落ち着きを取り戻せた歩。
思考を巡らせ、青年の行為について、じっくりと考える。
(考えよう。何を彼は伝えようとしたのかを………
………いやわからん。全くわからない)
冷静であっても、結局理解はできなかったようだが。
「あ…えっと、ごめん…ごめんなさい、わからない…」
歩は、とりあえず思った事をそのまま伝えてみることにした。
「どうして、その…キ、キスなんて…」
言い慣れない単語に、思わず言葉が詰まってしまう。
そんな歩の質問に、青年はしまった!とでも言うような表情で言った。
『……手のひらへのキスは、懇願の意味があるって、本で読んだ事があったから』
『謝罪の気持ちは行動で伝えた方がわかりやすいかな、と思ったんだけれど…余計だったな』
青年は、下を見てちょっと残念そうな顔をする。
「そうだったんだ…いや、僕が無知だっただけ……だから、えっと、その」
いつもの癖で、歩は青年を励まそうとするが、思うように言葉が出ない。
まだ、キスをされたことに、ドキドキしているのかもしれない。
青年は顔を上げ、歩に向かって、嬉しそうな顔で微笑む。
『そんな無理に励まさなくても大丈夫だよ。…ありがとう、君は優しいね』
「ぅあ、ごめん…」
『そこで謝らなくても良いのに…』
気まずそうな顔をする歩に、青年は形が整った綺麗な手を指し述べる。
『…改めて謝るよ。ごめんね。』
歩は、その手を取り、立ち上がる。
その手にこもった温かさを感じながら。
「うん…わかった。手、ありがとう…」
『どういたしまして…って僕のせいだけどね(笑)』
青年は はにかみながら、そう言った。
悪魔らしからぬその笑顔に、歩もつられて笑ってしまう。
(…手、温かかったな)
太陽が、暗い夜へと沈んでいく。
人気のない放課後の図書室は、夜の闇に包まれ始める。
そんな中、優しい笑顔を輝かせる、二人であった。