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趙雲は、愛馬にまたがり、駆けていた。


行き先は、言わずと知れた、孔明の屋敷──。


「あらあらまあまあ、昼は千里を、夜は五百里を走ることができる、白龍と、お出ましだなんて、趙雲様、また、どのような難問を、お持ちになられたのかしら?」


変わらずの黄夫人の出迎えに、趙雲は、眉をひそめた。


「まっ、身の丈八尺の大男に、睨まれたら、これは、縮み上がるしかありませんわね」


言い返そうとする、趙雲を、黄夫人は、少し、落ち着くようにと、制した。


「白龍をご覧なさい。役目を果たして、あんなに、おとなしくしておりますよ」


馬丁に預ける訳でもなく、その場に、いわば、放置している趙雲の愛馬は、黄夫人の言葉通り、主人の用件が終わるのをおとなしく待っているように伺えた。


「……ああ、すみません、至急のことで、つい……」


「構いませんよ、では、ここで、お話を伺いましょう」


ここ、屋敷の門を潜った、前庭で、と、言われても、趙雲に異存はなかった。


持ち込んだ話は、一刻を争うものだったからだ。


「いや、なんだか、表が、騒がしいと、侍女に言われて来てみましたが……黄夫人、なぜ、趙雲と、立ち話などしているのですか?」


「孔明様!」


趙雲は、屋敷から出てきた孔明に、すがりつくかの勢いで、駆け寄った。


「いや、いや、人より頭一つ二つ抜きん出た体躯で、迫られましたら、これは、降参するしかないですねぇ」


あっと、呟き、趙雲は、あわてて、孔明から離れた。


「実は、今朝から、阿斗様のお姿が!」


ああー、と、長いため息を孔明夫婦がつく。


「申し訳ございません。劉備様が、視察と称して、兵を連れてのご出立、その、どさくさにまぎれて……」


「……ご出立、これはまた、意図的か、偶然か、まったく、孫夫人も、やってくれますねぇ」


孔明は一人呟く。


「孔明様、お分かりだったのですか?」


「いいえ、もしかしたら、が、大当りしただけの話です。で、孫夫人は、どちらへ?」


「国元へ、母上様がご病気だそうで……」


「そんな、向こうの都合など、どうでも良い!趙雲!白龍で、駆けなさい!」


趙雲の返事に、孔明は、いきなり、苛立ちを見せた。


「いいですか!呉との国境にあたる辺りの、長江を封鎖するのです。最悪、船通しの小競り合いが起こるかもしれないが……」


孔明は、いたく、真顔で語った。それは、戦場《いくさば》の陣営にて、指示を出す時のものだった。


「孔明様!阿斗様は!」


「忘れなさい!!何より、呉の船を近づけてはなりません!」


確かに、二国間を横断している、長江《かわ》を使うのが、得策だ。


直結し、そして、余計な、砦なども、ない。陸路から攻め入る負担を考えれば、俄然、水路からと、誰でも選択するだろう。


しかし、と、趙雲は、解せなかった。


もしもに、備えるのは、分かる。だが、阿斗の行方を探さなくてよいのだろうか。

乱世の刀自(とじ)

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