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テラーノベル(Teller Novel)
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あれから三度、狼ちゃんからの噛みつきと爪による引っ掻きを受けたのだが、いずれもこちらが触れようとすると始めから居なかったように消えてしまっていた。

どうしたものかと悩んでいると、六度目になる狼ちゃんの急襲が仕掛けられた。

四度目の急襲が終わった時点で感覚をエネルギーによって強化したことによって、ほんの僅かな予兆を五度目の急襲時に察知することができたのだ。


そして、六度目の今。


改めて、この娘は凄い子だと思う。私は尻尾を動かして視界に映った狼ちゃんの牙を防ぐように動かす。それと同時に、視界に映る彼女に背を向け、両腕を広げて何もない空間を抱きしめる。


柔らかく、艶もあり、密度のある極上の毛皮の感触が、私の上半身を包み込んだ。


幸 せ


ついに、ついに私は、動物のモフモフを全身で堪能することができたのだ!!

フッサフサだし、フッカフカだ!堪らずに首を左右に振って、顔全体で彼女の毛並みを堪能する!

それはそれとして、狼ちゃんの全身に私のエネルギーを纏わせる。すると、これまで無色透明だった狼ちゃんの全貌が露わになった。


その毛並みは全身青白く、よく見れば透明に透き通っている。彼女が今まで無色透明だったのは、この透明な体毛の一本一本を緻密に制御し、光の屈折によって、自身の姿を隠蔽していたのだろう。


尤も、それだけでは完全に姿を隠すには至らないだろう。おそらく、狼ちゃんの縄張りに来るまでに私がやっていたような、エネルギーに意思を込めて全身に纏わせることで隠蔽力をより強化していたのだろう。


そして、狼ちゃんが突然その場から消えてしまったあの現象だ。

原理は分からないが、彼女は自分の幻を生み出し、さらにその幻を自在に操ることができるらしい。

しかも、自分の生み出した自身の幻と、自由に位置を入れ替えられるようなのだ。幻まで無色透明のため、非常に認識し辛い。


急襲の際には、自身の攻撃が当たる瞬間でのみ本体で、それ以外は幻だったのだろう。攻撃が通ればそれで良し。通用しないのならば即座に幻と入れ替わり離脱。彼女は極めて慎重な性格、ということだろう。


私のエネルギーを狼ちゃんに纏わせることによって、意思を込めたエネルギーの効果が上書きされてしまい隠蔽の効果が消失して姿が露わとなった、というわけだ。

さらには、幻との位置の入れ替えもできなくなってしまったようだな。


私でも舌を巻くほど速く、体を透明にさせ、自身と同じ姿の幻を作り、更にはその幻と自由に位置交換が可能。


うん。実際に相手取ることになったから分かるが、とてつもなく厄介だ。本当に凄い娘だよ。

彼女のことは以後、”蜃気狼”ちゃんと仮称しよう。


先程から随分と大人しい”蜃気狼”ちゃんを見てみると、なんと彼女は気絶していた。


私に抱きしめられたのが、そんなにも怖かったのだろうか?だとしたらかなりショックだ。

怖がりな性格だからあそこまで慎重だったのだろうか?彼女から腕を解き、伏せた状態にさせておく。


あぁ、待てよ?私が今しがた彼女にしたことを考えると、配慮が足りなかったかもしれない。

彼女の全身を私のエネルギーで包み込んでしまったのだ。否が応でも私の力量を理解してしまったのだろう。

“角熊”くんの時といい、似たような失敗をしてばかりな気がする。


気絶してしまった”蜃気狼”ちゃんは、どうしようか?

彼女の縄張り内とはいえ、このままにしておくのは拙いだろう。彼女の寝床に届けて寝かせておこうか?


いや、駄目だ。そんなことをすれば余計に怖がられてしまう。

気絶するほど恐れている相手に寝床の場所を知られるなど、更なる恐怖でしかないだろうからな。


私は周囲に落ちている枯れ枝やら落ち葉やらを”蜃気狼”ちゃんの周りにかき集め、それらに『隠す』と『偽る』意思を乗せたエネルギーを送り込む。


これならば、よほどの感知能力を持った相手でもない限り”蜃気狼”ちゃんを見つけることはできないだろう。

彼女を撫でまわしたい気持ちはあるが、安眠しているならばともかく私のせいで気絶してしまっているのに撫でるのは、ハッキリ言って下劣がすぎる。


このままこの場所を立ち去るとしよう。そして、そろそろ家に帰ろう。せっかく立派な家を建て、快適な寝床も作ったのだから、もっと使っていかないと。


“蜃気狼”ちゃんの縄張りから抜け出し、広場の場所を確認するため、一度上空へ飛び上がろう。かなりの距離歩いたから、普通の跳躍では視認しきれないかもしれない。


『跳ぶ』という意思をエネルギーに乗せてから足に集中させ、膝を曲げて思いっきり、垂直に飛び上がる。


検証の時に全力で跳んだ際の4倍近い高さまで一息で飛び上がる。が、これでもまだ森の端は見えてこない。本当にこの森は、どれほど広大なのだろうか?


周囲を見回して広場の位置を確認すれば、難なく見つけることができた。

後は、一度地面に着地した後に、あの方角へ思いっきり跳んで行けばいい。


上昇が終わり、落下が始まる。

そのまま落下したとしてもダメージを受ける心配など微塵も無いが、この高さからでは周囲に与える被害を考えれば静かに着地した方が良いだろう。

念のため『緩和する』意思をエネルギーに込めて足に送り、衝撃に備える。


その時だ。


落下中に、左右から極めて小さな空気の粒が隙間無く列を成し、高速で私に飛来してきた。つまるところ、空気の刃だ。


しかし、ただの空気の刃ではない!空気の刃にエネルギーが宿っている!?


空気の刃が当たった右腕と左腿に鋭い痛みが走り、血が噴き出る。見れば、腕も腿も大きく切り裂かれていた。


なるほど。エネルギーを宿らせた攻撃ならば、力を抑えた私を傷付けることが可能なのか。

おそらく、エネルギーには『切り裂く』に類似した意思が込められていただろう。


考察している間に腕、腿、共に再生が終わる。

落下しながら周囲を見渡して、先程の攻撃を放ったものを探す。

しかし、私の視界には映らないまま、私は地面へと着地することとなった。あらかじめ準備はしていたため、周囲に落下による被害は無い。


その辺に落ちている石を拾い、両手に持つ。石に『耐える』意思を乗せたエネルギーを込めたら、再び飛び上がる。さて、次はどう来る?


私の体が樹木の頂を越えた直後、先程と同じくエネルギーの宿った空気の刃が私の体に二方向から襲い掛かる。

が、それは私も予測済みだ。空気の刃に向けて、エネルギーを込めた石を一つずつ、回転を掛けながら空気の刃に投げつける。


空気の刃が石に当たり、お互いに爆ぜる。

良し。これならば、エネルギーを身体の表面に纏わせれば、少なくとも同じ威力の空気の刃でダメージを受けることは無いだろう。

それにしても、最初の攻撃といい先程の攻撃といい、見事なタイミングだな。


上昇を続けながら周囲を見渡せば、かなり離れた場所、おおよそ八百歩ほど先か。私の視界に真っ白なカラスが、私を直線で結びつけるように反対側には真っ黒なカラスが、高速で私の周囲を回っていた。


カラスとは言ったが、それはあくまで形状がカラスというだけだ。

カラスとして見た場合、2羽とも異常なまでに大きい。両翼を開いていた長さは、私が両腕を開いた長さよりも、ずっと長いのだ。


2羽のカラスの翼にエネルギーが集まっていく。三度、空気の刃が放たれるようだ。

驚いたことに、空気の刃は何の予備動作も無く翼から私に向けて二方向から同時に放たれた。


先程の”蜃気狼”ちゃんも凄かったが、このカラス達も凄いな。

予備動作無しで私を傷付けることができる攻撃を放てるだけでなく、常に私を中心に直線を結ぶような位置関係を保ち続けている。

更には同時に攻撃を行い、同時に私に攻撃が届くようにもしているのだ。連携が非常に上手いのである。

空気の刃が私の身体に届いたが、思った通り、空気の刃がエネルギーを纏った私の身体に傷を付けることは無かった。


さらに上昇を続ければ、二羽のカラス達も私の頭上の位置を維持するために高度を上げていく。

それにしても、空気にエネルギーを宿すという発想は無かったな。彼らに習って、私もやってみるか。


なおも上昇を続ける際、私は手に空洞を作るようにして指を閉じると、手の中の空気に『爆ぜる』意思を乗せたエネルギーを込めていく。

エネルギーを込めた空気を軽く指で弾くと、空気が小さく爆ぜ、指に確かな衝撃を与えた。


行ける。


2羽のカラス達よ。君達の攻撃のおかげで新しいことが出来るようにしてくれてありがとう。


目にものを見せてあげよう。

ドラ姫様が往く!!

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