「お母さん、本当に1人で大丈夫なの?」
「大丈夫に決まってるでしょ。あなたはちゃんと祐也君とカナダに行きなさい。いずれは日本に帰ってくるんだし」
「でも、3年だよ。そんな長い間、お母さんのこと1人にできないよ」
「何言ってるの? 朱里がいなくても私は寂しくないわよ。常連さん達もいるし、それに……常磐社長もね。毎日みんなとわいわい過ごしていくから、心配なんてしなくていいの」
確かにお母さんのことだから、1人でも十分やっていけるだろうけど……
きっと私が親離れできてないのかな。
「灯り」はお母さんの大切な場所だから、一緒にカナダに行こうとは言えないし。
「祐也君、あなたのことが大好きなんだから。あんな良い青年いないわよ。向こうでしっかり祐也君を支えてあげなさい。大事な旦那様をね」
常磐社長に紹介してもらったイケメンな彼に一目惚れされ、猛アプローチを受け、その愛情の深さに思わずOKした。祐也君のことは……好き。
だけど、繊維メーカーの御曹司として海外での勤務は必須みたいで……
最初は諦めようかと悩んだけど、お母さんに「絶対祐也君と結婚しなさい」と言われ、ようやくカナダに行くことを決意した。
なのに、いつまでも気持ちが揺らいでしまう。
「わかってるけど、日本に帰ってきてもまた海外に行く可能性もあるんだよ。祐也君の会社は、本当に海外拠点が多いみたいだし……」
「いいじゃない。海外生活、素敵だと思うわ。英語を勉強してそのうちペラペラになったら、私にも教えてちょうだい。いつか、私も外国に行ってみたいしね」
「もう、そんな簡単じゃないよ。お母さんは私がいなくても本当に寂しくないの?」
「だから言ったでしょ、寂しくなんかないって。朱里が幸せなら、それでいいの。あなたの幸せが私の1番の願いなんだから」
「お母さん……。私だってお母さんには幸せになってもらいたいんだよ。ねえ、私の幸せばっかり考えないで、そろそろ常磐社長の気持ち、受け入れてあげたら?」
「……常磐社長とどうとかなることは有り得ないわ。お母さんは『灯り』で料理を作って、それを食べてもらうことが幸せなの。でも、もし私が常磐社長と結婚したら、双葉ちゃんの義理の母になるわね」
お母さんは笑ってる。
本当に……一生、1人でいるつもりなんだろう。それが、昔から、お母さんの強い意思だから。
それから数週間後、私はカナダに飛び立った。
向こうで結婚式を挙げ、祐也君と2人、夫婦になる。
お母さんの生き方と私の生き方は全然違う方向に別れていくけど、だけど、お互いを思う気持ちは絶対に変わらない。
ずっとずっと親子二人三脚で生きてきた。
今まで大切に育ててくれてありがとう。
私は、お母さんと、お母さんの料理が大好きだよ。
だからね、これからも……末永くよろしくね。