テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
部屋には窓がなかった。
正確には、あったはずの場所が塞がれていた。
日帝は目を覚ました瞬間に、それを理解した。そう監禁されていたのだ。
空気の流れ、音の反響、光源の位置――冷静に状況を把握する癖は、こんな時でも役に立つ。
「……拘束はない。鍵は外側……か」
声に出して確認する。
自分が落ち着いていることを、むしろ不自然だと感じながら。
「さすがだな」
聞き慣れた声が、背後からした。
ナチスは壁際に立っていた。
銃も刃物も持っていない。ただ、逃げ場を完全に計算した配置。
「……説明しろ」
日帝は静かに言った。
怒りも恐怖も、声には乗せない。
ナチスは少しだけ目を伏せる。
「……お前が消えそうだった」
それは答えになっていない。
だが、日帝は続きを待った。
「俺の知らないところで、勝手に消耗して、
俺の手の届かない場所で壊れる気だっただろ」
ナチスの声は低く、抑えられている。
抑えきれなかった感情の残骸だけが滲んでいた。
「だから、ここにいる」
日帝はゆっくりと息を吐いた。
「これは監禁だぞ?」
事実確認。感情評価はしない。
「……そうだ」
ナチスは否定しなかった。
「お前を守るためだ」
「守る方法としては、最悪に近い」
「分かってる」
即答だった。
迷いのない声が、逆に危険だった。
ナチスは一歩近づく。
「でも他に選べなかった」
日帝はナチスを見つめた。
冷静な瞳。その奥で、ほんのわずかに揺れる警戒。
「お前は、俺を信用してないのか?」
「違う」
ナチスの声が震えた。
「信用してるから、閉じ込めた」
日帝が言葉を失う。
「お前は合理的だ。
目的のためなら、自分を切り捨てる選択をする」
ナチスは距離を詰め、日帝の前に立つ。
「だから、俺が選択肢を奪った」
それは独占だった。
愛情と呼ぶには歪みすぎている。
「……ナチ」
日帝の声は、相変わらず落ち着いている。
「お前は、自分が何をしているか理解してるのか?」
「してる」
これも即答だった。
「片思いだってことも、
お前が俺を選ばないことも、全部分かってる」
ナチスは微かに微笑んだ。
「それでも、離すよりマシだ」
沈黙が落ちる。
日帝は逃げようとしない。
叫びもしない。
それが、ナチスをさらに縛った。
「ここにいる間は、安全だ」
ナチスは言い聞かせるように続ける。
「俺が全部管理する。 任務も、接触も、判断も」
日帝は目を伏せた。
ナチスは日帝の前に膝をつく。
命令ではなく、懇願に近い姿勢で。
「俺の世界にだけ、いてくれ」
日帝はしばらく考えたあと、静かに言った。
「お前は、壊れかけてる」
「お前のせいだ」
その言葉を、日帝は否定しなかった。
監禁は始まりでしかない。
これは保護ではなく、執着の形をした檻。
ナチスの片思いは、
もう戻れないところまで来ていた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!