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「は、はあ?」
「こんな女の子、他じゃみないからね。珍しくて」
彼が手を離すと、するりと私の髪は重力にしたがって肩に落ちた。
こういうのは、ここに来て慣れてしまったのだが、一瞬だけ見えた真剣な表情に私はあっけにとられていた。年相応のラヴァインの表情に、少しだけドキリとしたのは気のせいだろう。
アルベドと幾つ離れているかは知らないけれど、思えば、彼より幼く見える。
(――――って、何考えてんの!? こいつは敵よ、敵)
甘い言葉で誘惑してきているに違いない。
いいや、別に甘い言葉など囁いていない。口を開けば嫌味や、冗談ばかりで、全く本当が混ざっていない。嘘だらけの男だ。
そんな男の何処がいいんだと。
(本編で彼が隠しキャラって言われても、攻略したくないわ……)
私は、取り敢えず落ち着くことにして、ラヴァインをみた。彼は、先ほどから何が可笑しいのかわらかないが笑いっぱなしで、目尻に涙がたまっていた。
本当に失礼すぎる。
「アンタの言葉、冗談にしか聞えない」
「冗談なんて言ってないさ。本当のことだよ」
「……嘘つき」
ラヴァインの笑顔は崩れなかった。何を言っても、彼から本音を聞き出すことは無理だと悟り、私は顔を逸らすと、彼の頭上でピコンと聞き慣れた機械音が鳴る。彼の好感度を上げたって何もとくが無いと思った。もし、彼の好感度を上げたとして、彼がこっちに寝返るなんて事あるだろうか。
もしそうだったらいいけれど、心中エンドとかはごめんしたい。エトワールストーリーだからなんとも言えないのが悔しいところではあるが。
「それで、話を戻すけど、アンタの指示で聖女殿があんな滅茶苦茶になっちゃったわけだけど、どうしてくれるの?それに、ここに来たの……偶然じゃないでしょ」
「うーんそうだね、察しが良くて助かる。まあ、指示は出したけど実行したのは彼奴らだし、俺は悪くない。ここまでは、さっきも話したけど、彼らは君を殺そうとした。けれど、失敗してメイドを刺してしまった。そこで、君がここに来ると想ったんだ。万能薬、世界に数えるほどしかない特殊なアイテムを取りに来るってね」
「……何処でその情報を掴んだの」
「いいや、ただの憶測。間違ってたら別に帰れば良いだけの話だし、ちょうど君が大蛇に襲われているときにここに来たんだ。本当にそれは偶然。ここに誰かが来るのは予想できたけど。来てみて良かった」
と、ラヴァインは嬉しそうに言った。
それが本当かどうかは分からないが、そこまでよんでいたとはさすがとしか言いようがない。本気で敵に回したくはないが、彼の機嫌取りをするつもりはない。
(でも何にしても、こいつのせいでリュシオルも、聖女殿も滅茶苦茶に……)
そう思うと、やはり怒りは収まらなかった。彼を許す気などない。
それに、あのナイフを渡したのがラヴァインであって、結局は彼は私を殺そうとしていたのだと。
「一般人にはあの毒は辛いだろうけど、君なら耐えられるんじゃ無いかなあって思った。だって、聖女だしさあ」
「そういう問題じゃ……え?」
「ただ、痛めつけたかっただけ」
最後の言葉は蛇足ではあったが、心を読むようにしてそう言ったラヴァインにゾッと背筋が凍った。よくあることではあるのだが、心の中で思っていることを見透かされて言われるのはいつやられても慣れないことだと。
私は、ラヴァインを見る。彼は、フッと口角を上げて薄く笑っていた。挑発的な笑みを浮べて。
「死んで欲しいとは思っていないよ。少なからず、ヘウンデウン教のただの教徒らとは違う。混沌や、囚われの本物は君を無傷で捕まえようとしているみたいだけど、俺はどっちでもない。君を殺したいわけじゃないし、かといって逃がしたいわけでもない」
「また、アルベドやリースにちょっかいをかけたいと?」
「そういうわけじゃないけど、まあ兄さんにちょっかいをかけたいのはあってるかも。俺、兄さんのこと好きだし。兄さんの歪んだ表情をみるのがたまらない」
そういうラヴァインは少し興奮気味に顔を赤らめた。
彼が作り出した、黒い炎のおかげで辺りは結構明るくなったが、どうして黒い炎が辺りを照らせるのかは謎だった。突っ込まないことにしても、足下に広がった大蛇の血を見ていると吐きけがする。
この大蛇を一発で倒したラヴァインは、やはり敵に回したくはない。
「何でって顔してる」
「何……よ」
「何で、大蛇をこんなに簡単に倒せたのかって知りたい……みたいな顔」
「うっ」
アタリでしょ? とラヴァインはクスクスと笑った。その通りなのだが、見透かされるのは気分が悪い。私が眉間に皺を寄せれば、ラヴァインはまた何が面白いのか腹を抱えて笑っていた。
殺気も何も感じずに、一発で大蛇を倒した男。私じゃ手も足も出なかったのに、きっと彼の風魔法で、それを刃のように鋭く早く撃ったことで大蛇の首がゴトンと落ちたのだろう。それにしても、そんな威力とスピードを良く出せたものだと思う。
確かに、暗闇の中では闇魔法の魔力は増幅されるし、他の元素の魔法を使っても同じように威力が二倍や三倍にまで膨れあがる。だとしても、元の魔力が低ければ何の意味も無い。多少は強くなるだろうが、ここまで強くはならないはずだ。ということは、やはりラヴァインの魔力は……
「暗闇では、闇魔法の魔道士の魔力は倍になる。暗ければ暗いほどね。元々の魔力量にも寄るけど、俺は結構魔力を持っている方だし、あの大蛇ぐらいなら一発だよ」
「で、でも、凄く堅かったから……」
「ほら、エトワールは光魔法じゃん。威力は半減されるし、あんなのじゃ、大蛇の首は落とせない。鱗にも傷つけられなかったでしょ?」
「……堅かったから」
そう私が言えば、ラヴァインはそれだけじゃない。とでも言うように、笑う。
何を言っても言い返しても笑うものだから、私はムッとしてしまう。私が如何にも魔法を使い慣れていないとでも言うように。
でも、確かに彼のいうとおりなのかも知れないし、魔法が使いこなせていないのは事実である。
元々、魔法なんてない世界で生きてきたわけだし、いきなりぽいっと召喚されて魔法が使えますよ~聖女ですよ~何て言われて一応は学びながら使ってきたけれど、未だにイメージをして感情を落ち着かせてなど、よく分からないことだらけだった。
この間だって、そのせいで暴走してしまって。
魔法は私が思っているより奥深いもので、扱いにくいものなのかも知れない。便利であれど、やはり危険もあるものなのだと。
リースはあまり好んでいないと言っていたが、確かにそれも一理ある気がした。
「エトワールは、魔法に不慣れなんだよ。まあ、実践であまり使ってこなかったってのもあるし、相手に対して殺意がない。それって、結構大事だからね」
「殺意を乗せて魔法を撃てと?」
「エトワールには出来ないことだろうけど。俺はそういうのためらいがないから。まあ、エトワールはそうならなくていい。でも、本当にそうしなきゃいけなくなるときが来るかも知れないし、そうカッとなって魔法を撃つ日が来るかも知れない。俺にはどうでもいいことだけど」
と、ラヴァインはいって自分の唇を撫でた。
「なんで、助言……そんなこと言ってくれるの?」
「うん?」
「だって、ラヴァインって敵なんでしょ?」
私がそう聞くと、彼はまた目を丸くして、何を言っているんだとでも言うように、口を開いた。けれど、何処か傷ついたような表情をしていたので、私は違和感を抱く。
彼が敵じゃないと少しでも期待してしまっているようで恥ずかしい。
ラヴァインは少し考えるような素振りを見せた後、もう一度自分の唇を撫でて、落ち着かせるように息を吐いた。
「敵、敵ねえ……エトワールはどう思う?」
「どうって、だから、敵……だと思ってる。だって、アンタ、ヘウンデウン教の幹部だって」
「でも、別に俺は世界が滅んで欲しいとは思っているけど、彼奴らのしようと思っていることに賛同しているわけじゃない。反対もしていないけど、正直どうでもいい。まあ、幹部って言う役職には喜んでついたけどね。何事も、一番がいい。幹部は一番じゃないけど、人を顎で使える位置にいるって気分がいいじゃん」
と、ラヴァインは答えた。
結論は何なのだと。
私が、渋らず言ってと言えば、彼はお喋りに付合ってよと言わんばかりに肩をすくめる。生憎、そんな気持ちは持ち合わせていないため、私は答えだけを求めた。
攻略キャラになったから、彼が改心するとは思っていないけれど、敵でもなく味方でもないポジションにいてくれさえすればそれでいいと思った。それなら、いいと思った。
「敵だよ」
「……ッ」
「今のところはね。でも、エトワールが味方について欲しいって言うなら考えなくもない。けど、その場合エトワールが俺の味方になってよ」
と、彼は私の顎を掴んで顔を寄せた。
濁った満月の瞳には野心やら執着やら色んな感情が渦巻いていて、それが彼の瞳を濁らせている原因なのでは無いかと思った。そして、何処か妖美で彼の面影を感じ気を許してしまいそうになる。
「俺か兄さんか、選んで……俺を選んでくれたら、エトワールには危害を加えないし、俺が守ってあげる」
「断ったら?」
「別に何もないよ。ただ、敵同士ってだけ。今と変わらないかな……」
ラヴァインはそう言うとパッと手を離した。
本気で言っているのだろうか。けれど、彼が味方についたところで、アルベドが敵に回るわけでもないだろうし、結局は彼は味方についてくれないと言うことになるのではないだろうか。
兄弟同士の喧嘩には巻き込まれたくないし。
そう思っていると、彼の瞳と目が合う。やはり苦手だ。
「嘘、って思ってるかも知れないけど、俺本気だよ。エトワールの事好き」
「…………本気で好きなら、力を貸してくれてもいいじゃない」
「だから、助けたんじゃん」
と、ラヴァインは悪戯っ子のように笑った。
けれど、彼の好感度は7%と低い。それなのに、好意を抱いているとは思えない。きっと嘘なのだろうと私は決めつける。
「一目惚れって奴。俺も、兄さんと女の子の趣味似てると思うからさ。真っ直ぐで馬鹿で、可愛くて……危なっかしい女の子のこと、好きになるのかも」
「ねえ、殆ど悪口に聞えるんだけど」
「褒めてる、褒めてる」
ラヴァインはそう言いながら笑っていた。馬鹿にされている気しかしない。
だが、実際彼が助けに来てくれなければ私はあのまま大蛇に丸呑みにされていただろう。そこは、感謝している。どういう意図があれ、命がたかればどうにかなるから。
感謝を伝えるべきか、伝えたら誤解されるかも知れないと迷っていると、足下にスッと赤黒い魔方陣が浮かび上がった。
(転移魔法!?)
バッと顔を上げれば、ラヴァインが私に向かって手を振っていた。一体何処に転移させるつもりなのだろうと。
「これは、助けたついでにプレゼント。安心しなよ。転移先は、君のよく知っている人の所だから。あまり、彼の元に行かせたくないけれど、これが一番いいかなって思って」
「ちょ、ちょっと」
「また、会おうね。エトワール」
彼に手を伸ばした瞬間、私は転移魔法の光に包まれた。最後に見た彼の顔は、嬉しそうで「また、会おうね」というその言葉が現実になるんじゃ無いかと思った。
「……ぅ」
転移魔法は荒く発動されたのか、かなり酔ってしまい次に目が覚めたときには、一面ピンク色のチューリップ畑のど真ん中にいた。チューリップがお尻の下敷きになっていまい、この美しい光景を汚してしまったことに罪悪感を覚える。
けれど、その見慣れた光景に、たった数回しかいったことのないその場所に私は目を大きく見開いた。
「お、おい」
少し低いそして焦ったような声が、私の耳に響いた。
ゆっくりと振返れば、視界に鮮やかな紅蓮が映り込む。
「エトワール……お前、なんでここに?」
「アルベド?」
奇跡の再会のような、そんなロマンチックはなかったけれど、彼と顔を合わせたときふと心が軽く、温かくなったのは何でだろうか。