🧡焦ったぁ……反則や、あんなん…
向井は近くの目についたドラッグストアに駆け込んだ。
ダッシュして来たせいで息が上がっている。
密室で二人きり、体調の悪い相手にときめいてしまうなんてどうかしている、と思う。
でも、心配しているのは本当だ。
渡辺の家には水くらいしかない。
店に入って、頭痛薬やゼリー飲料やスポーツドリンクなどをカゴに入れた。
すると、ポケットの携帯が震えた。
目黒からだった。
渡辺の家に行く前に、目黒にメッセージを入れていたのを向井は思い出した。
🖤康二、しょっぴーどんな感じ?
🧡あーかなり辛そうや
🖤そっか
🧡今、薬とか買いに来てる
🖤俺も行こうかな?
🧡え、来れるん?
🖤うん。今仕事終わった
🧡それは心強いな。俺も一人だときついし…
🖤なんで?
🧡な、なんでもない!!
🖤じゃあ行くね
🧡待っとる!!!
危うく変なことを口走るところだった。
つい渡辺に欲情してしまう、などとはいくら相手が目黒でも言うわけにはいかない。
向井はすぐに戻って早々に二人きりになるのを恐れ、必要ないものまで店内を見て回り、ゆっくりと時間を潰してから戻った。
🧡しょっぴー、戻ったで
ベッドに横になっている渡辺は、相変わらず青白い顔で今は目を閉じていた。
唇がやけに赤く感じる。
メイクはしていないのに、やたらと色っぽい。
向井はキスしたい衝動に駆られる。
いけない、と慌てて唇から目を逸らす。
それにしても静かだ。
🧡あれ……寝とる?
耳を澄ますと規則正しい寝息が聞こえてきた。
何を話そうかと緊張していたので、向井は急に力が抜けた。
話したいこと、聞きたいことはいっぱいあるのに、本人を目の前にすると何もできない。
ベッド脇に座って、向井はただ、愛しい人の寝顔を見ていた。
🧡…カメラ持ってくればよかった
向井はぼそり、と呟く。
せめて、よく目に焼き付けよう。
向井は渡辺を飽きずに見つめていた。
インターフォンが鳴った。
渡辺は目を覚さない。
向井が代わりに出ると、目黒がカメラに映っていた。
🖤来たよ
🧡今、寝とる
🖤そっか
家に入って来た目黒は向井にスーパーの袋を見せる。
中には食材が色々入っている。
話し合い、二人で協力して渡辺のために消化に良いものを作ることにした。
向井はネギを刻み、目黒は卵を割る。
卵で簡単なお粥を作っている。
🧡さっき、しょっぴーに好きな人おるって言われた
🖤ん?振られたってこと?
🧡わからん。相手が誰かは聞いてない
🖤ふーん。康二だったりして?
🧡…えっ
🖤嬉しそう
🧡そら嬉しいやろ!
🖤ふふ
🧡でも、期待して落ち込むのは嫌やから考えない
🖤康二らしいなあ
🧡ぬか喜びしたくないねん
向井は気合を入れ直して手元に集中する。
優しい味のお粥が出来上がった。目黒が味見する。
🧡どう?
🖤うん、美味しい。これなら具合悪くても食べられそう
そんな時タイミング良く寝室から向井を呼ぶ声が聞こえた。
向井は目黒と目を合わせて微笑み、渡辺が待つ寝室に向かった。
💙…あれ、めめも来てたの?
🖤心配して来ちゃった
💙悪いな
🖤全然
🧡お粥できたで。食べ
💙食欲ない
🧡ちょっとでええから。お粥食べたら、薬飲んで
💙…んーん
渡辺の顔がさっきより赤い。目尻には痛みのせいか泣いた跡もある。
もしかしたら少し熱があるのかと向井は渡辺の額を触った。
🧡熱い。体温計ある?
渡辺は部屋の戸棚を指差す。
目黒は体温計を渡した。
渡辺は怠そうにしている。また目を瞑った。
🖤39度近くあるね
🧡病院行くか?
💙いい。動きたくない
🧡でも
💙二人がいてくれたら、いい
🖤……わかった。じゃあ、少しだけでも食べてね?
💙ん……
向井は目黒と渡辺のやりとりを見ていて少し焼きもちを焼いている。向井と渡辺も仲がいいが、目黒と渡辺は言葉にしなくても通じ合ってると思う時がある。
向井はそれが寂しかった。
同時に、今はそんな場合ではないのにそんなことを考える自分が嫌だった。
どんどん嫌な人間になっていく。
宮舘といい、目黒といい、なんでこんなにやきもきする相手が多いんだろうと向井は思った。
みんながつい構ってしまう、魔性のようなものが渡辺に備わってるとしか思えない。
そう言えばメンバーはみんな、渡辺に甘い気もする。向井は今、自分以外のみんなに嫉妬していた。
🖤はい。食べなきゃだめだよ
💙ん……ありがと
渡辺は一口、二口と、目黒の手からほんの少しずつお粥を口にした。
本当に食欲がないようだ。
🧡しょっぴー!薬も飲んで!
向井は目黒に対抗するように薬を渡す。子供っぽい感情だと思ったが、止められなかった。
頭痛薬の他に、念の為にと買っておいた解熱剤も渡す。ぐずぐず店内を回ってた甲斐があったというものだ。
渡辺はすべて終わると、また横になった。
💙康二
🧡なに?
💙悪いんだけど、めめと二人にして
思わず、目黒を見る。
目黒は何も言わずに頷いた。
向井は頭に血が昇って、どうしようもなく胸がちりちりするのを感じながら、言った。
🧡……わかった。じゃあ、俺もう帰るわ
💙うん。康二、今日はありがとう
🧡ほな、めめも、また
🖤またね
向井は意識的に二人を見ないようにして部屋を出た。
寂しい。
渡辺の家を出てから向井は泣いた。
渡辺の好きな人は一体誰なんだろう。
まさか…。
考えたくないけど、考えてしまう。
向井は目黒を気軽に呼んだことを後悔し始めていた。
コメント
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これは…どっちだ!?しょっぴー!
よしよしよしよしよしよし!!!これはさいっこーな展開が待ってる予感.....!!!!