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ーー広大な森を見渡せる崖の上。其処に大勢の黒装束を纏った者達が集結していた。
「あの森の奥深くに夜摩一族。そして光界玉が隠されている……か」
そう呟くのは長い黒髪を全て後ろに結い上げ、綺麗に整えられた顎髭が熟練の剣士を思わせる、狂座第二十四軍団長クウガ。
「ククク、いよいよ我等の出番ですなアザミ様」
同じく黒装束を纏い、顔には奇妙な眼帯。両腕に装着した鈎爪を舌なめずりし笑うのは、狂座第三十七軍団長ショウキ。
「何でも特異点が居るとの事ですね」
長身痩躯、長い黒髪を靡かせ、腰に差した鍔元から鞘に至るまで漆黒の刀を携えて森を見ているのは、狂座第八軍団長リト。
そして、その中心に立つ人物ーーアザミ。
当主直属部隊のアザミを筆頭に軍団長三名、一般兵卒から選りすぐられた精鋭四十八名、総勢五十二名が此処に集結していた。
「ああ、奇襲を仕掛ける。目的は光界玉及び特異点の首。その他邪魔な者は皆殺しにして構わん」
アザミの言葉に全体の士気が一気に上がる。歓声を上げる者も居た程だ。
「総員、サーモの電源は落としておけ。情報は全てこちらにある以上、最早無意味だ」
アザミがそう伝えると、統率が取れているが如く、一斉に全員が腕に装着したサーモの電源を落とす。
必要無いのは勿論だが、特異点との遭遇で全員のサーモが裏コード移行の警告音を鳴らされたら、全軍の士気が乱されかねないとアザミは判断したからだ。
アザミは恐ろしい迄に冷酷で、冷静だった。誰もがその佇まいに畏怖と尊敬の念を抱いている。
アザミは全員を見回し、高らかに告げる。
「総員、進軍開始ーー」
***
ーー降り続く雪は次第に辺りに広がっていき、肌寒くなっていく。
明日にはきっと積もり、辺り一面の銀世界となる事だろう。
「家に帰ろ……ユキ」
早く暖かい部屋へと。温かい飲み物でも飲んで身体を暖めないと、風邪を引きかねない。
「はい……」
ユキの素直な返事に、アミは安堵する。
二人で戻ろうと踵を返した時、アミは異変を感じ取った。
“えっ!?”
森がざわめいている事。それはこの地に、邪悪な何かが侵入してきた警告でもあった。
「大勢の邪悪な者達が……まっすぐこっちに向かってきてる? これは……狂座!!」
アミはそう言い、その方向に目を向ける。
ユキもすぐにアミの異変を察知した。
森のざわめきは破滅への幕開けーーと。
“こちらから出向くつもりが、先手を取られてしまいましたね……。だが、狂座が総力を挙げて来たのなら、此処でケリをつけるーー”
「アミ! 貴女は急ぎ村に戻り、闘えぬ者達の避難と村への防衛網を! 此処は私が食い止めます」
ユキはその邪悪な者達の侵入を感じ、震えていたアミの目を見据えてそう伝える。
「駄目よ! 敵の数が多過ぎるわ! ユキ一人で全部背負うのはやめてと言ったでしょう!? 私も一緒に闘う!」
ユキの言葉に、はっと正気を取り戻したアミはそう応える。
これは一人一人が並大抵では無い。それが何十と此方に向かって来ているのだ。
「この手勢では一人も二人も同じ事でしょう。それに……」
ユキは少し困った様な顔で、でも寂しげな笑顔でアミに向き合う。
「足手まとい……なんですよ」
ユキは戸惑うアミの額へ、人差し指を軽く押し込んだ。
「ーーえっ!?」
それと同時にアミの身体から力が抜けたかの様に崩れ落ち、意識も混濁していく。
「ユキ? 何……をーー」
意識を失っていき崩れ落ちていくアミを、ユキはしっかりと抱き止めた。
辺りは雪がちらつき、寒くなっていく。
ユキはすぐ近くに、無氷による力で氷の形状を創りだした。それはさながら、氷のかまくらの様に。
「此処なら外より暖かいですから……」
ユキはその氷のかまくらの中に彼女を寝かせる。
「すみませんアミ、こんな事をして……。でも貴女をみすみす危険な目に遭わせる訳にはいかないんです」
“私は貴女を護る為の刀なのだから”
そうユキはそっと立ち上がり、目を閉じて横になっているアミを見据える。
「大丈夫です。目が醒めた頃には全てが終わってます。アミ、ありがとう。そしてごめんなさい……。これは自分で選んだ道ですからーー」
ユキは氷のかまくらをそっと後にし、降り続く雪がその姿を掻き消す様、森の奥へと消えて逝くのだったーー。