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それでは
どうぞ。
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会議が終わった後。
私たちは気晴らしに、事務所の向かい側にある公園沿いの広々とした道を歩いていた。
公園の街灯は、白くてぼんやりとした光を放っていて、周辺の木々の輪郭と、私たちの影をはっきりさせた。
私は、百花の冷たい手を握りながら、夜空を眺めていた。
空が真っ暗だからこそ、より神秘的な光を見せる星は、いつまでも見ていられるくらい綺麗だった。
💙「…ねえ、美咲。可笑しなこと言ってええ?」
🧡「…いいよ。」
私は視線を下に落として、隣に立っている百花の方へと向けた。
💙「もしもな、…耳が聴こえんくなったらどうする?」
💙「突発性…みたいな。」
🧡「補聴器買う。」
💙「わあ、美咲らしいや…笑。」
百花から重い話を振ることは滅多にない。
百花自体、そもそも重い話は好きではないだろうし、そんな事で頭を使いたくないと考えるような人だった。
なのに、今日はこんな話を振ってきた。
百花だってきっと、私が同じ質問を投げたら、数秒前の私と同じように『補聴器買う。』と答えるだろう。
つまり、百花は何か私に言いたいことがある。
わざと苦手な重い話を仕掛けないといけないぐらいの、結構大きな話を。
私は一瞬で、百花の“故意“に造られた意図を読んでしまった。
💙「耳が聴こえんくなったらかあ、……。私だったらこの仕事辞めるかな。」
🧡「、百花なら強行突破してそうなのに。」
💙「何それ、笑。」
💙「ファンの声も聴こえないし、美咲の歌声も聴けへんなんて嫌やな。」
百花は、下を向いて鼻を啜った。
軽くばらついた髪越しから見える百花の瞳は少し潤んでいるように見えた。
あの百花が泣いている。
いつも泣き虫な私を、余裕そうな顔をして馬鹿にしてくるような、涙腺が驚くほど強すぎる人が。
嗚呼、気付きたくなかったよ。
___なんでこんな時だけ、私は勘が冴えてしまうのだろうか。
いや、これはただの偶然だ。
たまたま気分が変わって、重い話をしたくなっただけかもしれない。
そうやって、嘘でもいいから自分にとって、
都合良く捉えようと必死に頭を回転させた。
今の聞こえる音は、鼓動が体中に響き渡る音だけ。
もうこれ以上は聞きたくないからと、私の身体は、自動的に耳を閉じた。
なんて好都合な身体なんだろう。
💙「若年発症型両側性感音難聴、だっけ。」
百花が口をゆっくりと開いた。
聞こえてしまった。
百花の声が。
いつもと違って震えてる声が。
いつもよりワントーン低い声が。
何もかも全部、そのまま綺麗に聞こえてしまった。
この世に都合のいい出来事なんて起きないんだよ、と
神様に現実を改めて知らされた気分だった。
それを聞いても尚、私はあのまま都合よく耳を閉じていて欲しいと思った。
人間ってものは醜い。
アーティストだって人間。
ただ、みんなを職種が違っただけ。
アーティストも、頭では分かっているのに実践できない。
分かってても、行動できるか、できないか。
どうかなんて、結局はその人間次第。
アーティストだからといって何もかも上手く行く訳じゃない。
望まない結果が訪れることは、終止符を打たない。
人間だから、自分にとって好都合で馬鹿みたいな未来を考えることだってある。
人は学ばない。
学んでいたらこんな世界になってない。
だけど、それであたらしい世界が生み出されることもある。
人間は、元々都合のいい生き物だったのかもしれない。
贅沢な環境で生きているのに、さらに上を望む。
人ってのはそんなもの。
私もそのごく一部にすぎない。
ただ表に出て仕事をしてるから。
こんなことを考えてるなんて、ファンのみんなには知られたくないけど。
💙「徐々に、…耳が聞こえなくなるんだって。」
💙「まさか私がなるなんて思わなかったな、笑。」
私は聞こえてるのに、何も返せなかった。
返したら、この関係が崩れてしまうと思ったから。
私にはそんな度胸を持ち合わせていない。
だから、その代わりに百花と繋いでる手が震える。
百花の方がもっともっと、私の倍は怖いはずなのに。
なんで私はいつもこうも弱いんだろうって自分を責めた。
💙「美咲の歌声とか、笑い声とか。もっと聴きたかったな。」
💙「なんでこんなんなるんやろうね、。」
💙「アーティストも…ずっと続けたかったな。」
💙「美咲よりも前に事務所に所属してたのに、ほんと馬鹿やん。笑」
嗚呼、嫌だ。
💙「私の今まで、なんやったんやろう。」
なんで貴女は。
🧡「なんで…そんなことを言うの。」
🧡「耳が聴こえなくなっても、私は百花に声を届け続けるから。」
🧡「聴こえなかったとしても、奇跡が起きるまで届け続けるから。」
🧡「お願いだから、そんなこと言わないで。」
💙「そっか。、そうだよね。」
ふっと前を向いた百花は、少し時間を溜めてまた口を開いた。
💙「美咲、…私達もう終わりにしようよ。」
🧡「えっ、…ちょっと、?」
💙「こんな話聞いたことある?」
💙「人は声から忘れていくっていうやつ…」
💙「耳が聴こえなきゃ、前みたいに美咲と話せない。」
💙「でも、大事なイヤモニも全部聴こえない。掛け声とかも、全部。」
🧡「嫌だよ、そんなの。終わりにする訳ない。」
🧡「百花がアーティスト辞めるなら、私も一緒に、」
🧡「百花と一緒に、静かな街で暮らす。」
🧡「私が百花の耳になる。目が見えるなら、ゲームとかできるじゃん。」
💙「美咲はそれでいいん?」
💙「美咲に迷惑かけちゃうなんて嫌だ。私が原因で諦めるなんてもっと嫌や。」
🧡「なんでそんなに私のことを思ってるの、私は百花と一緒がいいの。」
🧡「迷惑だなんて思う訳ない。」
💙「なんか、…今日かっこいいね。」
💙「惚れ直したかも、笑。」
🧡「何それ、笑。」
💙「大好き。」
🧡「私も。大好き。」
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