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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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神社に帰った後、白夜(びゃくや)は蛛(くも)と桃(もも)によって集中治療を受けた。左肩から入り込んだ大百足の毒は確実に白夜の身体を蝕(むしば)み、苦しめていた。

「蛛、桃。白夜の具合はどうだ?」

「できるだけ毒は出したが、まだ身体に毒も穢れも残ってる。今から解毒薬を作る所だ。幸い、動脈を外れていたから今の所命に別状は無いが、…油断できない状況だ。」

紅(くれない)が聞くと、蛛が淡々と報告した。

「今は僕の桃の木の下に寝かせて休ませてるよ。木の生気を与えて毒の廻りを遅らせてる。」

桃も真剣な表情で報告した。紅はそうか…と顔に少し不安の色を浮かべた。それを見兼ねた蛛が、無愛想に口を開いた。

「あいつは体力もある。簡単に死にゃあしない。…だからその辛気臭い顔はやめな。」

「ありがとう蛛。」

蛛なりの励ましの言葉に、紅はふっと笑った。

「ねぇ紅、静璃さんの様子を見てきてくれる?静璃さん、白夜のこと、相当心配してると思うんだ。白夜のとこにいるから。」

「わかった。ありがとう桃。」

紅は桃に礼を言うと、庭に向かった。


紅が庭に出ると、桃の木の下で柔らかい草花に横たわって寝ている白夜とその横に座っている静璃(しずり)の姿が見えた。

「白夜が気になるかい?」

紅が声をかけると、悲しそうな顔をした静璃が振り向いた。

「白夜様は大丈夫なのですか?」

「平気だよ。すぐに元気になる。」

紅が応えると、静璃は再び白夜に目を落として小さく呟いた。

「…私のせいです。」

静璃は目に涙をためながら続けた。

「私があの時、兄弟神様たちを引き止めなければ…白夜様がこんな大怪我をなさることもなかったのに…。」

俯いた静璃の目から大粒の涙がぽたりと零れ、小さな嗚咽が漏れる。肩を震わせている静璃に、紅は向き直り否定の言葉を口にした。

「それは違うよ。」

静璃の肩に手を置き、優しい声色で話を続けた。

「静璃、こちらをお向き。」

静璃が顔をあげると、紅はしっかり目を見て言い聞かせた。

「自分を責めてはいけない。白夜の怪我は誰のせいでもないんだよ。静璃は優しい子だから、気に病むかもしれないが、そんな悲しい顔をされていると白夜も嬉しくないはずだ。過去をいくら悲しんだって巻き戻せない。だから、今は真っ直ぐ前を向いて進んで行くしかない。静璃は覚にだって臆すことなく立ち向かった強い心の持ち主だ。さぁ涙を拭いて。これからどうするか、一緒に考えよう。」

紅はにこりと優しい笑顔を向けた。静璃は涙を拭いて、はい、と言った。

「白夜は私が見ておくから、静璃は中へお入り。」

紅が言うと、静璃は何か言いたげな顔をした。

「どうかしたかい?」

静璃は少し言いにくそうに呟いた。

「あの…ちょっと行きたい所があるんですが…。」

「言ってごらん。」

そう言うと静璃はおずおずと答えた。

「…祖母の墓です。」


紅は白夜の看病を他の兄弟神たちに任せ、静璃と一緒に墓地へ向かった。

都のはずれににある小さな墓地には、久しく手入れをされておらず苔(こけ)が生えた墓や、墓石が崩れている無縁仏(むえんぼとけ)がちらほらと見受けられる。そんな中で唯一綺麗にされている小さな墓がとても目立って見えた。静璃はその墓に白い菊をお供えして、手を合わせた。それを見て紅も手を合わせた。

「…祖母は、私の母親代わりでした。」

静璃はぽつりぽつりと話し始めた。

「母が私を産んですぐ亡くなってから、祖母が私を育ててくれました。この簪(かんざし)は、祖母の形見なんです。」

静璃はいつも髪につけている赤い珠(たま)飾りの簪を触りながら続けた。

「陽の当たる縁側で、私の頭を撫でながらいつも昔のおとぎ話をしてくれたのを覚えてます。」

「それはどんな話なんだい?」

紅が聞くと、静璃は顔をあげて思い出す様に目を瞑った。

「確か…人間の娘と夫婦(めおと)になった神様のお話です。森の孤独な神様が、若い人間の娘に恋をしてその娘と一緒に幸せに暮らす…。そんなおとぎ話です。」

静璃は懐かしそうに頬を赤く染めた。

「祖母が語るこの話が大好きで毎日ねだっていました。祖母は語り終えると必ず最後にこう言うんです。“おばあちゃんにも昔愛していた人がいたのよ。”って。」

「それは誰だったのか聞いたかい?」

「えぇ、何回も。でも聞いてもいつも笑うばかりで、最期まで教えてくれませんでした。それが誰だったのかは今となっては分かりません。でも私はそれでもいいと思ってます。」

静璃は立ち上がって紅の方に振り返り、にこりと笑った。

「祖母が愛していた人が誰であっても、私は嬉しいから。」

紅は静璃のその優しい笑顔を見て、心がふわりと温かくなった。紅は静璃のその綺麗な心にとても惹かれた。

「お墓参りに付き合ってくださってありがとうございます。もうじき日も暮れるし、神社に戻りましょう。」

「…あぁ、そうだな。」

紅は静璃と一緒に神社への帰路を歩いた。

空から地に沈んでいく夕陽に照らされて、静璃の赤い珠飾りの簪がきらりと光った。

神のまにまに仰せのままに〜大百足編〜

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