風呂から出ると、部屋の空気がなんか重くなってた。湿気じゃない、明らかに柊るかの機嫌の悪さだ。
ソファに座ってスマホをいじってるけど、指の動きが荒い。
(たぶんタイムラインで誰かにムカついたんだろうな…)
「…タオル濡れたまま放置しないでくんない?」
不意に言われた。
「え?」
「洗濯機の横。どうせ明日も使うとか思ってんでしょ?キモい」
「あー……ごめん。乾かす場所わかんなくて」
「考えろよ。脳あるんでしょ?」
心臓を爪で引っかかれるような言葉。
でも、俺は怒る気にはなれなかった。
「わかった。次から気をつける」
「……ほんとに?」
「ほんとに」
すると、彼女はスマホの画面から目を逸らさずにポツリと言った。
「だったらルール決めよ。生活ルール」
「ルール?」
「掃除は週1。洗濯は別。冷蔵庫の棚は半分こ。風呂は30分以内。あと、夜中に音鳴らすの禁止」
「了解」
「あと、うちが無言でも話しかけんな。スルーしてたら“話しかけんな”の合図だから」
「……うん」
「わかってんのかよ」
「わかってる。じゃあ俺からも一個だけ」
「は?」
「寝るときはイヤホンつけて。夜中にTikTokの笑い声流れると地味に怖い」
彼女は数秒無言になって、
ふっと鼻で笑った。
「はあ……しょうもな」
そのくせ、その夜はイヤホンつけて、静かに寝たらしい。
ベッドに横になった俺は、
薄暗い天井を見つめながら思った。
(絶対、めんどくさい。…けど、なんか、放っとけないかもしれない)
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