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深夜2時。寝付けなくて、リビングの方から水の音がするのに気づいた。
(まだ起きてんのか…)
トイレかと思って廊下に出ると、
キッチンの明かりだけがぽつんと灯っていた。
覗くと、柊るかが洗面台の前に立ってた。
鏡の前で、両手で顔を覆ってる。
肩が、小さく、小さく、震えていた。
(泣いてる……?)
気づかれないように引き返そうとした、その瞬間。
「……なに見てんの」
ドスの効いた低い声。
目が合った。けどその目は、
さっきまで泣いていた証拠みたいに、赤くにじんでた。
「……ごめん、起こした?」
「うるさい。何も見てないなら早く寝て」
「いや……泣いてた、よな?」
るかは無言で視線をそらす。
言い返さないのは、珍しい。
「大丈夫か?」
「…うちって、ほんとクソでしょ」
ぽつりと、毒でも吐くように言った。
「うるさくて、口悪くて、八つ当たりして、
SNSで人の幸せにキレて、夜中に泣いて…クソ以外なに?」
「……」
俺は返す言葉を探して、
出てきたのは、思ってたよりシンプルな言葉だった。
「クソじゃないよ」
「は?」
「ちゃんと“ごめん”って言えるし、
ルール決めてくれたし、…TikTokもイヤホンしてくれたし。
俺はわりと、助かってる」
るかは少しだけ目を見開いた後、
手元のグラスを持ち上げて、一気に水を飲んだ。
「……うざ」
「うん、それも知ってる」
小さく笑ったら、
彼女はチッと舌打ちしながら、
リビングの奥へ戻っていった。
でもその背中は、
ほんの少しだけ軽くなったように見えた。