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翌朝、透は目を覚ますと違和感を覚えた。
——身体が、軽い。
鏡を見る前に気づいた。
視界が低い。
声も、思うように出ない。
そこにいたのは、一匹の小さな犬だった。
「……は?」
吠えようとしても、声は出ず、ただ小さな鳴き声だけが漏れる。
驚きと戸惑いで胸が高鳴る。
少し集中すると、透は人の姿に戻れた。
不思議な力に、恐怖と興奮が混ざる。
「……人じゃない方が、楽だな」
犬なら、失敗しても責められない。
期待も、失望も、向けられない。
胸の奥が、少し軽くなる。
化け犬は、いつも隣にいた。
吠えず、ただ見つめるだけ。
透の感情を、そっと受け止める存在だった。
「でも……これって、逃げてるだけかもしれない」
透は小さく呟く。
人として向き合うより、化ける方が楽だと知っていた。
それでも、犬でいることにどこか安心を覚える自分がいた。
日が差し込む窓際で、化け犬は尻尾を振った。
その仕草に、透は少し救われた気がした。
——これから、どう生きていくんだろう。