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事故は、突然だった。
体育館の裏で、透は完全に犬の姿になってしまった。
戻れない。
人の気配。
逃げられない。
胸が締め付けられる。
——終わった。
そう思った瞬間、声がした。
「……透?」
視線が一気に集まる。
ざわめき。混乱。
逃げたいけれど、足が動かない。
でも、誰も叫ばなかった。
「すごい……」
「怖いけど……」
「でも、透だよな」
透は震えながら、人の姿に戻った。
息が荒い。
心臓が喉まで上がってくる。
「ごめん……」
誰かが静かに言った。
「謝ることじゃなくね?」
その一言で、胸の奥がじんわり温かくなる。
拒絶ではなく、受け入れられる感覚。
透は、人として立ち上がることができた。
化け犬は足元で静かに座っている。
もう、ただの影じゃない。
仲間のように、心を支えてくれる存在だった。
——これからは、逃げなくてもいいのかもしれない。
透は、そう小さく呟いた。