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Eliminator~エリミネ-タ-

62 - 第62話 五の罪状⑰ 決着の刻

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2025年06月05日

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何時果てる事なく、拮抗した二人の闘いは続く。だが確実に終結に向かっている事は、誰の目にも明らか。



「ねえ……どうしてかな?」



最早結末を見守る以外、為す術の無い悠莉が二人の闘いを見詰めながら、誰にともなく呆けたように呟いた。



「友達なのに……どうして二人共」



彼女には理解出来ないのだ。



確かに以前は同郷で同僚の二人。だが現在は紛れもなく敵同士。闘い――殺し合うのは道理。



「悲し過ぎるよ、こんなの!」



それでも――やるせなかった。



悠莉の慟哭が響くが、激しさ増していく彼等には届かない。



「アイツらが……誰よりも御互いを理解している、親友同士だからだ」



同じく悠莉の腕元で見守るしかないジュウベエが、彼女の叫びに答えるように、その想いの内を明かす。



「でも、だからって」



「だからこそだよお嬢。アイツらは……きっと許せないんだ」



「許せ……ない?」



「ああ、御互い共に同じ道を歩みたいのに、進む道が決定的に違ってしまった……。御互い何とかしたいのに、何とも出来ないこの運命に――己自身に!」



それは――幼い頃から彼等と共に過ごしたジュウベエだからこそ分かる、闘い合う二人から痛い程に感じる彼等の気持ち。



相手が憎くて闘っている訳ではない。



「それでも……」



それでも悠莉には、それがとても納得出来るものではないが。



「――って、あぁっ!」



突如悠莉が何かに気付き、声を上げる。



「幸人お兄ちゃんっ――!」



拮抗が崩れたのだ。彼女のその視線に映ったのは、錐斗の渾身の一打に防御した蒼剣ごと後方へと弾かれる雫の姿。



やはり負った身体への損傷分、雫の方がマイナスの――錐斗の方へプラスのアドバンテージが有ったのだ。



すかさず追撃する錐斗。右腕が一直線に雫の心臓へ向けて突き出される。



弾かれながらも同時に、雫も蒼剣を突き出していた。



このままでは相討ち。だが――



“駄目だ幸人の方が遅い! 勝弘の方が先に届くっ――”



同時に見えたがその刹那の拍子の違いを、ジュウベエの眼はしっかりと捉えていた。



決着の瞬間。



「ゆっ――」



悠莉がその名を呼びきる前に、錐斗の右腕は雫の心臓を――身体を貫通していたのだった。



「幸人お兄ちゃんっ!!!!!」



叫びきった頃にはもう遅い。



“終わった――”



確かに錐斗の右腕は、雫の左胸を貫いている。背中から貫通した掌には、鮮血にまみれた赤黒い心臓まで掴まれていた。



完全なる決着。残酷な迄に二人を別けた明暗。



後は敗者は――砕け散るのみ。



“くっ――砕け!?”



しかし違和感に気付く。



身体が砕けるとはどういう事だろうか?



雫の身体は貫かれた支点から亀裂が入り、音を発てて崩れていく。



だが何故生身が崩れるのか? それはまるで砂の欠片のように――



「はっ――!?」



錐斗はやっと気付く。その違和感――その有り得ない事態に。



気付いた頃にはもう時、既に遅し。



崩れていく雫の身体は、生身では無い――“欠片”。



錐斗がその事に気付き、振り向いた頃には己の右腕が夜空に舞っているのが見えた。



そこには蒼剣を振り上げた雫の姿も。



「そっ――そうだったな……。お前にはそれが有った……な」



何処か微笑しながら、錐斗は右肩から無くなった腕を押さえながら、雫の前で膝を着く。



知らなかった訳ではない。間際まで気付けなかった。



地に散らばる残骸は氷の欠片――



“ゴーストゼロ・ファントムミラージュ ~鏡花水月:幻氷界”



それが写し鏡の如く、現象まで精巧に再現した氷の幻影だという事に。



雫の蒼剣は追撃する事無くその効力を失い、異能を纏わない通常の掌へと戻る。



「……何のつもりだ?」



明らかに止めを刺さないその構えに、当然錐斗は納得出来るものではない。



「異能の源を絶った処で終わったつもりかよ? それにこれは物体じゃねぇ……何度でも発現出来る。確実に殺すならそれ以外だろ?」



虚勢だった。強がった処で、もう一度ルシファーズ・アームの力を発動する事が出来ないのは、何より本人自身が一番良く分かっている。



解せないのは、この状態なら誰でも容易に仕留められる――その事を言っているのだ。



だが雫にその気配は一切無い。蒼剣を消失させた事からも、それは明らかだ。



「――早く殺れよ。生きてる限り俺は止まらねぇ。お前は俺達を止めると言った筈だ。なら最後まで貫けや!」



何時まで経っても見下ろしているだけで、止めを刺そうとしない雫へ、錐斗は業を煮やしてけじめを促した。



道を違える以上、裏を生きる彼等に残された道は、どちらかの確実なる死。それ以外無い。



「……なら逆に訊くが、じゃあ何故お前は確実に殺せた時に俺を殺さなかった?」



「そっ――それは……」



ようやく口を開いた雫の答に対し、錐斗は反応を詰まらせる。



それは心の何処かで期待していたから。だから闘い最中でも無意識に躊躇していた。



「お前が俺を殺せなかった……それと同じだよ」



それは雫も同じ。



殺し合いを演じて尚、殺したくはない。矛盾の極み。



例え本気でぶつかり合っても――“親友だから”。



御互い“裏”の姿として闘い合って尚、御互いをコードネームで呼び合う事は無かった。



「幸人……」



彼等にとって以前と何一つ変わらない、その認識こそがその証とも云えた。



錐斗はゆっくりと立ち上がり、押さえていた右肩から手を離す。



分離しているとはいえ、血液の流出は無い。最初から生体としての右腕とは違い、常時は義手として擬態した別次元のものだったのだろう。



「甘い……甘い甘い甘いっ――!! そんな甘さであの人を止めれるとでも思ってんのか!? まだだっ――」



錐斗はしっかりと見据え、止めを刺そうとしない雫を痛烈に批判。



「まだ終わらない!」



力が消失して尚、まだ闘おうと言うのか。錐斗の右肩から光の粒子が集束し、再度ルシファーズ・アームへと形成していく。



「ばっ――止めっ!!」



雫が手を伸ばそうとした、その瞬間の事だった。



何かが弾ける音がした瞬間、錐斗の身体から炎が内部から噴き出すように、燃え上がっていた事に。



「――っ!!」



それはこの世のものとは思えない黒き炎。正に煉獄の業火とも思える程の。



「ククク……」



その突然の事態に雫も、悠莉もジュウベエも言葉を失うが、錐斗だけはこの事を予測していたのか、少しばかり卑屈な笑みを浮かべていた。



「…………」



「……オーバークライシスアウト(異能容量境界線超)――」



何が起きたのか理解出来ず、口をぽかんと開けている悠莉の傍らで、ジュウベエが呟くように口を開く。



「異能過多による焼き付き。そして……全ての消失だ」



錐斗の身に起きた、その凄絶なる事象を――

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