テラーノベル
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朝。
キッチンから、食器の音がする。
目覚ましが鳴る前に、翠は目を覚ました。
胸が、少し重い。
でも、深呼吸して、起き上がる。
廊下に出ると、もう家は動いていた。
「赫、今日はどうする?」
桃の声。
「無理なら休んどけ」
茈が続ける。
黄は、赫の前にしゃがみ込んでいる。
「顔色、大丈夫?」
テーブルの上には、
赫の好きなものばかりが並んでいた。
——赫のための朝。
翠は、少し遅れて椅子を引く。
「……おはよ」
返事は、ちゃんと返ってくる。
「おはよう」
「起きてたか」
でも、
視線はすぐ、赫に戻る。
「食べられそう?」
「途中でしんどくなったら無理せず言えよ」
赫は、箸を持ったまま小さく頷いた。
「……うん」
翠は、自分の皿を見る。
いつもと同じ朝ごはん。
——俺は、いつも通りでいい人
「学校まで、送ろうか?」
桃が聞く。
「行っても、しんどかったら途中で戻ってもいいからな」
茈が言う。
全部、赫の話。
翠は、味のしないご飯を口に運ぶ。
喉を通るのに、少し時間がかかった。
「翠くん」
黄が一瞬だけ、こちらを見る。
心臓が跳ねる。
「……無理しないでね」
それだけ。
翠は笑った。
「うん。俺は、大丈夫」
——この一言で、全部終わる
鞄を持つ時間。
玄関でも、赫の様子が中心になる。
「今日は俺が一緒に行く」
「帰りも迎えに行くから」
赫は少し戸惑って、でも頷いた。
翠は、靴ひもを結びながら、
自分の呼吸が浅くなっているのに気づく。
でも、誰にも言わない。
外に出る。
赫の歩幅に合わせて、
家族の足取りがゆっくりになる。
翠は、ほんの少し後ろを歩いた。
——俺のズレ
——誰も気づかない程度の、ズレ
校門が近づく。
「赫、何かあったらすぐ連絡しろ」
「絶対、我慢するな」
その言葉が、
翠の胸を静かに締めつける。
——我慢するな
——でも、それは“赫”に向けた言葉
翠は、黙って頷いた。
「……行ってきます」
誰の目も、
その声の震えには、気づかなかった。
朝は、
ちゃんと始まってしまう。
赫中心のまま。
翠は、“いつも通り”の役のまま。
コメント
1件

毎回言ってる気がするけど、泣きたい((( いつも通り語彙力はない( 私はほんとどうすれば(( なんかねうん救われて欲しい(