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「もうちょっとください」
「やだー」
「けち。まぁいいや、から揚げも美味いから」
と、大きなお肉を一口。
ごはんも大きな一口でぱくり。
たくさん作ったつもりのから揚げも、あっという間に少なっていく。
気持ちいいくらいの食べっぷりに、ほっこりと胸が温かくなるのを感じる。
蒼のお母さんも毎日こんな気持ちでいるのかな。
「そんなに食べるとお腹こわしちゃうよ?」
「だって美味いんだもん。ほんと蓮って、料理上手いよな」
「まぁ…小さい頃から作ってたし…人並みに美味しいのは作れるから…」
ストレートな褒め言葉に顔が赤くなるのを感じながら、私は続けた。
「ほらそれに、今夜は久しぶりだけど、小さい頃はよく作ってあげてたじゃない。だから蒼にとっては第二のおふくろの味ってカンジがして、美味しく感じるんじゃないの?」
「いや、おふくろの味とはちがうし」
意外にすんなりと否定された。
「だって、『おふくろの味』って、食っるとほっこりするだろ。でも蓮のは『やべぇ』って焦る味だから」
「は?」
わけわかんない…。
どゆこと?
眉根を寄せる私を、蒼がチラっと見た。
「『男がこんな料理だされたら、一発で落ちちまうだろ』って焦る、ってこと」
…なんだそりゃ…。
けど、不覚にも、ドキドキしてきた…。
「蓮っているの?落としたい男」
なんでいきなし、そんなこと聞くかな…。
弾け始めた胸が、速くなる。
「…いないけど」
「そ。だよなぁ。いるわけないよな」
「な、なんで決めつけんのよっ!」
「だって、見かけはともかく、おまえガキだもん」
「はぁ!?」
「ほら、すぐそうやってイラッとしたりするところとか。考えなしなんだよな」
言われてみればぐうの音も出ない。
さっきのコンビニ買物の時が思い浮かぶ。
家を出る前はなんにも考えなかったけど、夜道は確かに怖かったし…、ナンパされてもどう断っていいか困ったし…。
蒼が気にかけてついてきてくれて、ほんと良かったな、って今なら思う…。
くやしいから、口が裂けても蒼には言わないけど。
「まぁとにかく。これからも蓮の料理を独り占めできるのって、俺だけってことで、いんだよな」
「…まぁね
「やり」
「今のところ、だけどね…!」
と言うのが精一杯で、私は思わずふいっと顔をそらしてしまう。
蒼がほんとに嬉しそうに微笑んで私を見つめていたから。
なによ、そのキラースマイル。
そっちこそどうなのよ。
いろんな女の子からいろんな料理作ってもらってるくせに。
と思うけど、
『俺、おまえの味が一番好きだし』
今日のお昼休みの言葉が脳裏によぎった。
そして、不意にとある事実に気づいて、私の胸はいっそう早鐘を打った。
そっか…。
私の料理を『独り占め』って言うけど、モテ男の蒼を独り占めしてるのは、私なのね…。
まぁ、正確には、『蒼の味覚』を、だけど。
でも、他の女の子を差し置いて私が蒼の関心を独占できてるのは…
けっこう、嬉しいかも…。
なんて思って、気づいた。
私、ちょっと寂しかったのかなぁ。
蒼が変わって、まわりからちやほやされて、私から遠のいていくのが。
思えばこうしてご飯食べるのも久しぶり。
昔は毎日のように食べてたのに、中学校に入ってからは、そういう機会が無くなってしまったし。
ちょっと、しゃくだけど。
あんなに仲良くしてたのに、なんか寂しいな、って…知らない内に感じていたかもしれない。
だから、どんなに蒼の周りが変わっても、こうやって特別に思ってもらえるのが、嬉しいのかもしれない。
その後は、学校のことや今受けている授業の文句なんかを言い合いながら、夕食を終えた。
そんなノリのまま洗い物を蒼と一緒にやって、一段落ついた時は、時計は十時半を差そうとしていた。
「美保ちゃん、遅すぎだよね!」
私はリビングの時計を見て仁王立ちしながら叫んだ。
残業でこんなに遅くなるのは初めてだし、泊まりがけとなったら、連絡をくれてもいいはずなのに、ちっとも音沙汰がないのはおかしい―――と思ったら、
「そう言えば、おばさんから『仕事忙しいから遅くなる』ってさっき連絡きてたよ。おまえ、スマホ部屋に置きっぱなしで気づかなかったから、俺のに連絡が来た」
蒼がさらっと言った。
「なんでもっと早く教えてくれないのよっ!」
「またかけるから、って言ってたからさ。そのうちかかってくると思って」
もう…他人事だと思って!
そっか、美保ちゃんそんなに忙しいのか…。
大変だなぁ…。
無理しないで疲れたなら泊まってくればいいのに…。
食べてくるかもしれないけど、夕食はラップして置いておこう。
あと、ビールも冷やしといてあげて…。
と準備し終わって、一息つくと、はたと気づいた。
そう言えば、あの番組今日だった…!
いつも見てるバラエティ番組が十一時から始まるんだけど…お風呂まだだったなぁ。
それ見た後だと遅くなっちゃうし、ぱっと入るか。
「蒼、私お風呂入ってくるね。もし美保ちゃんが帰ってきたら、テーブルに一応夕飯置いといたから、って伝えといてくれない?」
テレビを見ながらソファでくつろいでいた蒼は、首だけこちらを向けた。
「え、俺も入りたいんだけど」