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私には常識しか通用しません

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私には常識しか通用しません

203 - 第203話・はじめての いたずら

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2026年01月31日

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「こ、ここは……!?」


「あ、気付きましたか?」


天狗の女性―――

という言い方が正しいかどうかは置いておいて、

とにかく介抱するために『乗客箱』の中へ

運び入れたのだが、


目が覚めた彼女は案の定というか、とにかく

困惑している様子で周囲を見回す。


「落ち着いてください。


 何かするのなら、あなたが気絶している間に

 とっくにしていますよ」


私がそう話しかけると、確認するかのように

黒髪ショートの天狗は自分の体に視線を

落とすが、


何もされていないようだと理解した後、

改めてこちらに視線を移す。


「ええと……

 鬼人族にいきなり攻撃を仕掛けたようなので、

 私が『抵抗魔法レジスト』で無効化させて頂きました。


 彼らが何かしたのでしょうか?」


とにかく事情を聞きだそうと、状況を問いただす。


「ここは我らが天人てんじん族の住まう地なり!


 我らの祖先の言い伝えで―――

 いずれ鬼人族がこの地へ来るであろう事は、

 予見よけんされておったのだ!


 侵略しに来たのであろう!?」


その言葉に、鬼人族の男女は顔を見合わせる。


「鬼人族はこの大陸に来た事があったのかの?」


黒髪ロングの、豊満な体つきの私の妻が彼らに

問うが、


「里から海の向こうに出たという話は、

 聞いた事がありません」


「1人や2人なら、物好きが船旅に出たという

 事も考えられますが……

 本格的に他の領土を侵攻した事は無いかと。


 そもそも我々は数が少ないので」


まあそうだよなあ、とアルテリーゼの疑問に

対する答えを聞いて納得するも、


「ではなぜこの地に来たのだ!?

 そのような人数で―――」


と言っても、今回は鬼人族が乗るので人員カット

しており、全員で十五人ほどだ。


「まずは落ち着かれよ」


「そもそも攻めて来るのであれば、こんな

 人数では心もとないであろう」


古風な着物をまとった山の主夫婦が、やんわりと

客観的な意見で天人? とやらに注意するも、


「そ、それは偵察であろう!

 この後に軍勢が控えていて……!」


ああ言えばこう言うし、らちが明かない。

そこへ外で飲み物を温めていた冒険者の一人が

戻って来て、


「ええと、あの女性の方は大丈夫でしたか?」


「あ、ちょうどいいところに。

 とにかく一息つけましょう」


その冒険者が持ってきたのは―――

例のチョコレートを煮て溶かしたものだ。


甘い香りがふんわりと『乗客箱』の中にただよい、

みんなに配られていく。


「な、何だ? その不思議な匂いの物は……」


天人族の女性はそれをのぞき込むように問う。


「チョコレートというものです。

 美味しいですよ。

 それに体も暖まりますし」


「興味があれば飲んでみるがよかろう」


アルテリーゼからそれを受け取ると、彼女は

まじまじと見つめていたが―――


「ま、まあ……

 確かに今さら、毒など盛らぬであろう。


 では有難く」


そう言って口につけると、目を丸くして見開き、


「あまっ!!

 な、何だこの飲み物は!?

 とても甘く、そしてほろ苦さも―――


 これは鬼人族のものか!?」


その質問に彼らは首を横に振り、


「いや、我らもこちらの大陸に来て初めて

 飲んだものだ」


「鬼人族も人と交わって久しいですが、

 まだまだ未知の味というのはありますよ」


身長二メートル前後の男女が、暖かい

チョコレートを口に付けつつ答える。


「そういえば申し遅れましたが……

 私はシンと言います。


 ウィンベル王国の者であり、そして彼ら

 鬼人族は、さらに西の海の向こう、

 クアートル大陸から来た方々です」


私の説明に、角の生えた亜人たちは頭を

下げる。


「ああ、先ほど海の向こうから来たと

 言っておったか。


 ならば予見は勘違いか偶然という

 事なのかも知れぬ」


そこで山の長夫婦が、


「その言い伝えの事なのですが」


「鬼人族が襲って来る、攻めてくると残されて

 いたのでしょうか?」


すると彼女は少し悩むようにうなり、


「ううむ……

 ただ鬼人族が来るであろう、との予見だったと

 思う。


 それゆえ警戒していたのだが」


アルテリーゼがその話に加わり、


「確かパチャママが一番最初にこの山に来た

 鬼人族であろうし―――


 予見そのものは合っておるが、敵対とか

 そういう話では無いのでは?」


妻の話に、天人は力なくうなだれる。


「まあでも、そういう言い伝えってほとんど

 危険や脅威に対するものを残しますから……

 用心してしまっても仕方の無い事かと。


 あ、それと探索は途中だったと思いますが、

 何かありましたか?」


話題を変えようと、食材探しに来ていた事を

思い出し、鬼人族たちに話を振ると、


「見た事のある野草や、実のなる木を見つけた。

 ここは海を挟んだ大陸だというのに、不思議な

 事だ」


「パチャママ様からの報告でも、それは聞いて

 おりましたので……

 改めて探せばもっと見つかると思います」


やはりというか、鬼人族の―――

言い換えれば日本に近い土地柄なのかも

知れない。


「しかし、羽狐ウィング・フォックスたちとこの山を住処すみかとして

 久しいが……

 天人、というのは聞いた事がありません」


「いったいいつくらいから、この地に住んで

 おられるのでしょうか?」


山の主夫婦が自身の経験からの疑問を

口にすると、


「いや、そもそもここに人が住んでいたとは

 知らなかったのだ。


 確かここは、大きな白い獣が長をやっていた

 土地だと認識しているが」


すると夫婦は顔を見合わせ、


「……恐らく、それが我らかと」


「人の姿になれるようになったのは、

 つい最近の事ゆえ」


それを聞いた天人の女性はまた目を丸くし、


「そうだよ、ほらっ」


小さな獣耳を頭にのせた少年が、くるっと

その場で宙返りすると―――

白いテンのような一匹の獣の姿となり、


「は、はあああっ!?」


再び彼女は混乱に叩き込まれた。




「人の姿になれる人外、か……


 噂では聞いた事があるが、まさかこの目で

 見られる時が来ようとは」


五分ほどして、やっと落ち着きを取り戻した

彼女は、目の前の現実を受け入れる。


ドラゴン魔狼まろう、ワイバーン、ロック・タートル、

 フェンリル、羽狐、土蜘蛛が今のところ―――

 変身出来る種族じゃな。


 あ、それとそこの主夫婦と息子もだが」


アルテリーゼが天人に説明するが……

改めて聞くと結構多いな。


ライシェ国のミマームさんもグリフォンで

変身出来るけど、そっちはまだ公表してないから

黙っているんだろう。


「今の人間は、彼らと生活するくらいに

 寛容かんようなのか」


「んー……まあ協力し合うとお互いに利益も

 大きいですしね。


 獣人族のボーロなんかも、もうアレが無いと

 生きていけない人いるんじゃないですかね」


「ボーロ?」


それを聞いた彼女は首を傾げるが、


「あー、じゃあ一度公都に来て頂ければ―――

 見てもらった方が早いでしょうし」


「ふむ、百聞は一見に如かずだ。

 ここまで来たら同行しよう。


 それとまだ名乗っていなかったな。

 それがしの名はミナト。よろしく頼む」


こうして私たちは帰りに天狗の女性を乗せて、

公都『ヤマト』へ戻る事になった。




「テング、なあ。

 それもお前さんの世界にいたヤツか?」


冒険者ギルド支部で事の次第を報告すると、

ジャンさんがやや呆れ気味に話す。


「鬼と同じく、伝説上の存在ですけど……」


そこでレイド君とミリアさんも脱力しながら、


「しかしまた人外ッスか」


「シンさん、人間以外を引き寄せる匂いとか

 出していません?」


「出してないですよそんなモン!!」


思わず大声で反発してしまう。

そんな私を見て筋肉質のアラフィフのギルド長が

カラカラと笑い、


「まあだいたい最初に関わっちまうのが

 シンだからなあ。


 で? どうするんだそのミナトとやらは」


「時期的に『オセイボ』のシーズンと重なり

 ますし、適当にお土産を持たせて帰らせ

 ようかと。


 彼女の故郷に鬼人族の訪問を予知するような

 言い伝えがあるようですので、まずは友好を

 示しておく必要があると思いまして」


『オセイボ』とはもちろんお歳暮の事で、

年の暮れに贈り物をする事を、『故郷の風習』

として去年あたりからやっている。


この世界だと、年が変わるのは当たり前の

事だとして、あまり年末年始のイベントは

無いのだが―――


私が何かしても、『また妙な事を始めた』と

受け止められるのと、もらえるのであれば損は

無いという事で……

さほど問題なく受け入れられていた。


「ああ、それと『はろうぃん』の件だけどな。

 サイリック前大公様が息子夫婦と孫を連れて

 参加するようだ」


「あれ? 確か王都でもこの祭りを広げて

 欲しいと、話を通してあったんですけど」


するとジャンさんは一通の手紙を取り出し、


「これによるとどうも、孫のヘンリー様が

 ラッチに会いたがっているようでな」


褐色肌の青年と、丸眼鏡のタヌキ顔の女性が

それを聞いてうなずき、


「あー、それは仕方無いッスね」


「可愛いですもんね、ラッチちゃん」


まあそれは認めるけど―――

それに前大公様の事だ、恐らく王都は誰かに

任せて来るのだろう。


「じゃあその前に、天人族の件は片づけて

 おかないと……」


「そうだな。長く拘束すると彼女の一族が

 心配するだろうし」


次いで次期ギルド長夫婦が、


「そういえば今年の『オセイボ』って何に

 するッスか?」


「今年は鬼人族からの物が結構手に入ったので、

 あとランドルフ帝国からの物も含めてセットに

 しようかと」


「それは楽しみですねー」


話はお歳暮の中身へと移り―――

しばらく歓談した後、私はギルド支部を

後にした。




「世話になったな!

 お土産もこんなに」


公都『ヤマト』郊外で、天狗の女性が

頭を下げる。


ミナトさんが公都に来てから三日後……

彼女は一族の下へ帰る事になった。


こちらから敵対の意思は無い事、

鬼人族はもう何百年も向こうの大陸から

出ていない事、


もし鬼人族と同様、人間の国と交渉する

つもりがあるのなら、仲介する用意があると

伝えて欲しいと要請してある。


「しかしまあ、大量だねえ」


黒髪セミロングのアジアンチックな人間の方の

妻、メルがその量を見て感想を述べる。


羽狐、そしてテン君の山には定期的にキクラゲや

その他の山の幸を補充しに行っていたのだが、


そこへ行き来した事のあるワイバーンに、

彼ら用のコンテナのような荷箱でお土産を

運んでもらう事になり、


そしてワイバーンが羽ばたくと、天狗である

ミナトさんもまた羽ばたき―――

上空へと消え去った。


「ま、あれだけのお土産を渡したんだ。

 少なくとも敵対の意思は無いと通じるだろう」


「むう。思ったよりもチョコレートを持って

 行かれたのは痛手だが」


「ピュウゥウ~」


最初に飲ませたのがアレだったもんなあ。

それに今回の『はろうぃん』の目玉でもあるし、

何とか量産しないと。


そんな事を考えながら、私は家族と一緒に

公都の中へと戻っていった。




「とりっく・おあ・とりーとー!!」


「お菓子をくれなきゃ、イタズラするぞー!!」


数日後の夜。時刻にすると午後六時を回った

頃だろうか。


子供たちの声が、公都『ヤマト』の中を

めぐり始めた。


やり方は去年とほぼ同じく、仮装した子供たちが

夜の公都で方々の家を回り……


そしてだいたい五・六人に対し大人が一人、

護衛と見張りを兼ねて同行し、お菓子を家々から

もらっていた。


「始まったなー」


「アレを聞くと、もう1年経ったのかと

 思うねー」


「今頃ラッチは、大公のお孫さんと一緒か」


屋敷の玄関先で、私は妻二人とスタンバイする。


去年用意したお菓子は、


・干し柿

・木の器に入ったプリン

葛餅くずもち

・フルーツをコーティングしたアメ

・クッキー


等だったが、今回のお菓子は新たに、


・各種フルーツの寒天ゼリー

・チョコクッキー

・ぼた餅

・アンパン

・ジャムパン

・クリームパン


などを用意した。


特に鬼人族から小豆ともち米がもたらされた事が

大きく、


さらにカボチャやさつま芋もあるので、

甘味かんみとして小豆あんと一緒にいろいろな

スイーツとして利用され、


アンコは今では公都に一般的に浸透しんとうし、

様々なオヤツやスイーツになっている。


「とりっく・おあ・とりーと!!」


「お菓子をくれなきゃイタズラするぞ!!」


そこへ、獣人族とラミア族、ハーピー、それと

ハニー・ホーネット、ロック・タートルの子供で

あろう亀の一団がやって来て、声を上げる。


「はい、じゃあお菓子ね」


「ありがとー!」


「あれ、パン?」


「これ知ってるー!

 中に甘いのが入っているヤツだ!」


甘味入りのパンはすでに出回っていたのだが、

さすがに砂糖やメープルシロップはまだまだ

貴重。

作り方も結構手間がかかるので、普通のパンの

2・3倍はすると聞いている。


ただアンコの場合は小豆で量を増やす事が

可能だ。

なので他と比べそれほど高くなく、ちょっと

お高めな軽食ポジションといった感じ。


そしてアンパン・ジャムパン・クリームパンの

三セットは、上級ではないが一般層のゼイタクと

して、人気を博しているらしい。


「とりっく・おあ・とりーとー!!」


「お菓子をくれなきゃ、イタズラするぞー!!」


そうこう考えている内に次が到着し、


「はい、お菓子だよー」


「落とさないよう注意するのだぞ」


今度はメルとアルテリーゼが手渡しし、

『はろうぃん』の夜は更けていった。




「へ!? ラッチがイタズラ?」


中央地区・児童預かり所へ呼ばれたのは、

『はろうぃん』が始まってから小一時間ほども

経った頃。


リベラ所長からの伝言で、私たちは一家で

慌てて駆けつけ―――

事の次第を聞いていた。


「何でもねぇ、ラッチちゃんが露店の商品を

 崩したり、他の子供に火を吐いて驚かせたって

 言うんですけど」


児童預かり所の応接室で、薄い赤色の髪をした、

五十代くらいの上品そうな婦人が、困惑した

表情を浮かべながら説明する。


そしてその隣りにはラッチが、薄黄色の短髪の

少年に抱かれ、きょとんとしている。


「そんな事、絶対にありません!

 だってラッチは僕とずっと一緒にいたん

 ですから!」


ヘンリー様はそう言ってラッチをかばう。


「どゆ事? 事?」


「我もラッチがそんな事をするとは思えぬが、

 妙な話になっておるのう」


妻二人も、事情を聞いて首を傾げる。


「いえ、来て頂いたのは実はラッチちゃんの

 事だけじゃなく……」


リベラ所長がどこか言い辛そうにしていると、

そこで応接室のドアがノックされ、


「しょ、所長! またです!

 今度は魔狼の子供が商品を盗んだと苦情が」


「あらまあ……」


それを聞いて私たち一家は顔を見合わせた。




「子供たちのニセモノが?」


「はい。あの、この預かり所にいる子供たちは

 みんな素直でして―――


 いくらお祭りとはいえ、こんなハメを外す

 ような事をするとは思えないんです」


ため息をつきながらリベラさんが語る。


確かに、大人しくない子もいるにはいる

だろうけど……

ここは人間・亜人・人外が入り混じった施設。


みんなラミア族やワイバーン、ドラゴンの

お姉さんお兄さんを見ているのだ。

いたずらや悪さをしようものなら、

あっという間に捕まってお仕置き―――

それくらいの事はわかっているはず。


何より生活レベルは比較的高く、不満もそうそう

あるとは考えにくい……


それに子供たちは単体で出歩いている

わけじゃない。

五・六人に引率者として大人が一人ついている。

その目を盗んで悪さをするのは、かなり難しい

はずだ。


「誰かが化けている、とか?」


「あー、確かそういう魔法あったよね」


擬態魔法ミミックリィ……だったかの?

 でもあれは人間以外にもなれるものなのか?」

(■44話

 はじめての ぶりがんはくしゃくりょう参照)


メルとアルテリーゼの言葉に、私もどこか

違和感を覚える。

あの魔法では人間の子供に化けられたものの、

ラッチや魔狼など、人外に化ける事は可能なの

だろうか?


「だけど、それより問題は目的だな―――


 何のためにこんな事をしてるんだ?」


確かあの時、ホールドさんが擬態魔法を使った

目的は……

子供の誘拐とその人数合わせ、そして計画が

ダメになった時のかく乱だった。


「―――!

 こ、子供たちの人数は!?」


「児童預かり所に来ている子供たちはすでに

 確認済みです。


 苦情が入った時、すぐに子供たちを集めるよう

 指示を出し、数えましたから」


以前、誘拐事件があったからか、そういう対応は

早いようだ。


「他の子供たちは?」


「公都に来たばかりの家なら、子供だけで

 夜の外出を許す事はありません。


 もし貴族や豪商なら、必ず護衛を

 付けるでしょう」


まあそうか。

自分も異世界こちらに来て長いが、ここは日本じゃ

ないのだ。

危機管理は私よりよほど徹底しているだろう。


「僕も複数で行動しておりましたが、

 サイリック大公家から護衛を2人ほど

 付けられましたので」


ヘンリー様もそれを追認するように語る。


「ジャンさんはこの事を?」


「あの人は何らかの陽動作戦だと見て、

 見回りに行っています。


 それに今、この施設にもワイバーンや

 ラミア族の保護者たちが詰めて、警戒して

 くれていますから」


リベラさんの言葉にホッと一息つく。

それならここは万全だ。


「しかし、何が狙いなのかねー」


「命知らずもいいところぞ」


妻二人がしみじみと話す。

まあ確かに正気の沙汰さたじゃないだろう。


イタズラにしても手が込んでいるし、

何より人間以外も敵に回す可能性が

あるんだから……ん?


「あの、そういえば―――

 人間の子供たちに何か苦情は?」


「それが、それだけは来てないんです。


 ラミア族だったり魔狼だったり、獣人族

 だったりで。あと精霊様も」


う~ん……

人外との融和ゆうわ策が続いているから、それに

対抗するため、とか?


バレた時のリスクが高過ぎる気も―――


「あっ、あの所長!

 ラッチちゃんが戻りまし……えっ?」


そこへ職員らしき女性が駆け込んでくるが、

少年に抱かれたラッチを見て固まる。


「んんん?」


「ほぉ、わざわざ来てくれたのかのう?」


私は視線を、ラッチとアルテリーゼの顔を

行き来させ、


「えっと?

 アルテリーゼ、こっちが本物だよね?」


「違いない。

 匂いが間違いなくラッチじゃ」


母親のお墨付き得て、自分も安堵する。


「えっ? えっ?

 ど、どういう―――」


女性職員がパニックになる中、その後ろから

もう一体『ラッチ』が飛んで来て、


「ピュー!?」


「ピュー!!」


応接室でヘンリー様に抱かれたラッチと、

乱入してきたラッチが対峙した。


「ええっ!? ど、どっちがラッチちゃん?」


「な、何がなんだか……」


所長と職員は混乱し、それを見て楽しむように

宙に浮かんでいる方の『ラッチ』は口元を

ゆがませる。


まるで見破る事など出来ないだろう―――

という自信に満ちているようだ。


しかし誤算は、そこに実の母親がいた事で、


「我が子をかたるとは……

 覚悟は出来ているのであろうのう?」


魔力は抑えているようだが、アルテリーゼの

言葉からは殺気がほとばしる。


「窓は抑えたから、入口はアルちゃんが

 抑えて!」


「わかったぞ、メルっち!」


次いで二人は息ぴったりに、逃走経路を

遮断しゃだんする。


一人はドラゴンの影響を受け、ゴールドクラスに

匹敵する実力のシルバークラス。

もう一人はドラゴンそのもの。

飛んで火にいるなんとやら、だ。


「でもどうする、シン?

 ラッチの姿をしているし」


「そうだのう。

 このまま倒すのも、ちと気が引ける」


さすがに今の自分の状況がわかったのか―――

単独でいる『ラッチ』は目を白黒させる。


「えーと……

 リベラさん、職員さんはヘンリー様を

 お願いします」


そこで私は彼らを部屋の片隅へ移動させるのと

同時に、


「相手の姿かたちはともかく……

 その質量、飛行能力まで擬態ぎたいする、

 そんな魔法や生態など、

・・・・・

あり得ない」


そう私が小声でつぶやくと、


「んなっ!?」


「!?」


男の子の驚くような声と共に、7・8才くらいの

少年―――にキバを生やしたような子供が床に

落ちて、


「待ってください!!」


「待ってなの!!」


と、そこへ緑色の髪とエメラルドのような瞳を

した少年と、透き通るような白い髪をした少女が

飛び込んで来て、


土精霊アース・スピリット様と氷精霊アイス・スピリット様が

飛び込んで来て、


「やっぱり、ですか」


「イタズラ好きにしてもほどがあるの!

 ちゃんと謝るの!!」


突然の事態に、周囲をその成り行きを見守って

いたが、


やがて土精霊アース・スピリット様と氷精霊アイス・スピリット様に

促されるように、その子は、


「ご、ごめんよぉ」


とみんなに弱弱しい声で謝った。


「えっと、もしかして彼も精霊様?」


私の問いに、土精霊様がコクリとうなずき、


「彼は家憑き精霊ハウスホールド・スピリットです」


その言葉に、精霊以外の全員が顔を見合わせた。


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