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「家憑き精霊だってぇ?」
『はろうぃん』の騒動を受け―――
見回りに行っていたジャンさんを呼んで事情を
説明すると、片方の眉をつり上げる。
児童預かり所、その応接室で、今回の騒動の
張本人……
7・8才くらいの赤茶の短髪をした少年が、
しょんぼりと大人しくしていた。
「はい。土精霊様と氷精霊様にも
聞きましたが、本来、家に憑いている
精霊だそうです」
「だけど家憑き精霊って事はよ。
この児童預かり所に憑いているって事じゃ
ねえのか?
それがどうしてこんな真似を」
アラフィフの筋肉質の男性が、両腕を組みながら
疑問を口にするが、
「いえ、この施設に憑いているわけでは
ないと思います」
「家憑き精霊っていう通り、どこの家でも
いるの。
ただ今目の前にいるのは、代表者?
みたいな感じなの」
グリーンの髪にエメラルドのような瞳をした
少年と―――
白く透き通るような髪をした少女が一緒に
答える。
「代表者?」
「この街全体の、という事かの?」
アジアンチックな人間の方の妻と、
堀の深い顔立ちの欧米風の顔をした妻が、
その説明に聞き返す。
「何かずいぶんと大きな話になってるわねえ」
「家の精霊様……
僕の家にもいるのかな?」
「ピュウ」
リベラ所長と、大公家のお孫さんである
薄黄色の短髪の少年が、ラッチを抱きながら
つぶやく。
「以前、ランドルフ帝国のケンタウロス族に
会って、話をした事がありますが―――
精霊様はどこにでもいると言っていました。
多分、ヘンリー様のお屋敷にもいるかと」
それを聞いた彼は表情を明るくするが、
「そんで、その精霊様がどうしてこんな事を
したんだ?」
ギルド長がにらむと、家憑き精霊様はビクッと
肩を揺らし、
「ちょっと、ジャン。
そんな顔をしていたら精霊様が
怖がるでしょう」
「う……」
薄い赤色の髪をしたアラフィフの婦人が、
彼をたしなめる。
二人は元夫婦との事だけど、こういうのを見ると
過去の力関係とかわかってしまうようで、思わず
自分も目をそらす。
「でもどうしてイタズラを?
別にこの街が嫌だったとか、そんなんじゃ
ないんでしょ?」
メルが小さな子供を諭すように聞くと、
「え? だって『イタズラするぞー』って
言ってたし、しなきゃいけないのかなあって」
「『お菓子をくれなきゃ』、じゃ。
そう言ってお菓子をもらうお祭りだ。
本当にイタズラしてどうする」
アルテリーゼが呆れながら続く。
『お菓子をくれなきゃ、イタズラするぞ!』
というのが『ハロウィン』の決まり文句であり、
実際にもらえなければイタズラしてもいい、
という話ではないのだ。
「確かにイタズラ好きな精霊もいる事は
いますけど……」
「わらわたちに取っては、『どうして今ごろ?』
としか思えないの」
土精霊様と氷精霊様が、それぞれ感想を
口にする。
「まあ最近になって、力が強くなってきたって
いうのもあるけど」
家憑き精霊様の言葉に私は首を傾げ、
「最近になって―――
って何で?
いや、そもそも代表ってこの公都の代表
なんですよね?」
基本的な疑問に立ち戻り、私が問うと彼は
首を左右に振り、
「えっとねえ。
実は王都・フォルロワの家憑き精霊の代表?
だったんだよね、僕」
「……んん?」
「はい?」
そこでジャンさんとリベラさんを始め、
全員が間の抜けた表情となった。
「―――というわけでね。
まあ代表と言っても、全員が僕であり、
みんなの分身みたいなものなんだよね」
あれから家憑き精霊様の説明を聞き……
どうも彼は統括責任者というより、全員が
情報共有するために作られた、コピーみたいな
存在らしい。
「つまりあなたを通じて、全ての家の
家憑き精霊様は、他の仲間の情報も
得られるってワケね」
「何気に凶悪な能力のような気もするが」
メルとアルテリーゼがフムフムとうなずく。
集合意識といえばいいのかな。
ある意味、未知の概念だろう。
「でも家憑き精霊は基本、その家から
離れられないはずです」
「うん。わらわもそれが気になっていたの。
どうやって公都に来れたの?」
他の精霊様たちが質問する。
確かに、その制限をどうやって外したのかは
みんなも気にかかるだろう。
まさか『ゲート』とか……
それなら氷精霊様がこの前使ってランドルフ帝国
まで行っていたし、やって出来ない事ではない。
「えーとね、何か変な糸が公都までつながって
いたんだよね。
それに乗ってばびゅーん! って」
そこでその意味に気付いた順から、『あ~……』
という表情になる。
「魔力通信機の糸かあ~……」
私が全員の代弁をするかのように天井を仰ぐ。
「精霊様ってそんな事出来るの?」
「ピュウ?」
ヘンリー様とラッチが聞き返してくる。
魔力通信機と、それに使うアラクネの糸は別に
トップシークレットというわけでも無し―――
それに彼は大公家のお孫さんでもある。
他の子供より、上の情報は知っているのだろう。
「多分、家憑き精霊は実体化する事がほとんど
無く……
純粋な魔力に近い存在だと思いますので」
「それに彼も言っていた通り、分身みたいな
ものだから、そんな事が出来たと思うの」
言外に『私たちには無理』と断っているようで、
思わず苦笑してしまう。
「でもさー、王都のみんなの間では
有名だったからねー、ココ」
「と言いますと?」
私が聞き返すと、彼はふわりと宙に浮いて、
「だってココに行ってきた人たちが家に戻ると、
全員が口をそろえて『すごかった!』
『美味しかった!』って言うんだよ?
今までの王都でそんな事なかったもん。
それでみんなの間で、いったいどんなところ
なんだろう? って噂になっていたんだよ」
「ある意味、話題の中心だもんねー」
「理解も納得も出来ようぞ」
妻たちも同意し、周囲もうなずく。
「しかしさっき、『力が強くなった』とか何とか
言っていたようだが。
それはここに来た事と何か関係あるのか?」
ギルド長の言葉に、赤茶の短髪の少年は空中から
ストン、とソファーに座り、
「そうだねー。それを確かめるため?
っていうのもあったし」
「どういう事でしょうか」
この施設の所長がやさしい声でたずねる。
「そもそも僕たち家憑き精霊はねー、
その家に住む人たちによって、
影響されるんだよ。
もっと言えば幸せか不幸かって事かな。
その家の人や家族が幸せなら、僕たちの
精霊としての力は強くなるし―――
逆に暗く不幸な家だったら、僕たちもダメに
なっちゃうんだよ」
ふむふむ、と聞いていると彼は続けて、
「でも最近はそんな家も少なくなって来てね。
いろいろな食事とか道具とかで、何か生活も
楽しくなってきたみたいで。
で、その原因っていうか大元が……
この公都だってみんなが言うから、
僕が代表で見に来た、ってところかなあ」
まあ確かに―――
食事にトイレ、入浴施設、生活様式、
治安関係などなどいろいろと……
影響を与えた事は否めないけれども。
「やっぱり原因はお前さんかよ、シン」
「そっそれはそうかも知れないですけれども!!
そこまでは責任取れないっていうか!?」
ジド目で私の方を見るギルド長に、
思わず反発する。
それを見てメルとアルテリーゼはクスクスと
笑い、リベラさんは苦笑し―――
土精霊様と氷精霊様はやや困った顔で、
ヘンリー様とラッチはきょとんとしていた。
私は話題を変えようと頭をフル回転させ、
「そ、そういえば王都の家憑き精霊様の代表って
言っていましたけど……
公都の代表もいるんですか?
ここのどこかに」
精霊様たちに話を振ると、
「情報共有するための『代表』ならいると
思いますけど」
「そもそも王都の家憑き精霊たちが、
『公都ってどんなところだろう?』
と思って出来たのがそこにいるコなの。
だからすごく好奇心や興味をそそる事が
無ければ―――
そこのコみたいに、派手に動く事は無いと
思うの」
少年少女に見える精霊様の説明を聞いて、
みんなが納得するように顔を見合わせ、
「じゃあ、一応目的は達したって事?」
「どうなのじゃ? そこのところは」
妻たちが家憑き精霊様に問い質すと、
「そうだねー、うん。
噂以上のところだったよ!
平和でみんな幸せそうで……
楽しくて面白かった!」
その平和があなたによって乱されたような
気がするんですが―――
と心で思っても口には出せず。
「あとそれとね。
あの糸をたどってくる時に、ヘンなスライムが
いたのを見たよ」
続いて出た彼の言葉に、みんなが顔を
見合わせる。
「変なスライムって?」
ヘンリー様が聞き返すと、家憑き精霊様は何かを
思い出すように天井を見上げ、
「何だっけなー、アレ。
雪を取り込んだスライム?」
するとジャンさんが頭をガシガシと
かきながら、
「いつぞやシンが倒した……
スノーバブルってヤツか?」
あー、あれか。
でもあれは氷精霊様が公都に入り浸り、
それで公都が自然と守護している認定されて
しまい―――
その影響で巨大化したヤツじゃなかったっけ。
(■139話 はじめての あわゆき参照)
「この公都の近くに来ているんですか?」
すると家憑き精霊様はふるふると
首を左右に振って、
「んー、そこまでじゃないかな?
人間の足なら2・3日くらいかかるところ?」
さすがにそこまで離れているのなら、
氷精霊様の影響とかではないだろう。
「まあ、ここの周辺は一応ワイバーンが巡回して
いるし、何かあったら言ってくるだろう」
ギルド長の指摘でいったん収まるが、
「それはともかくとして……
家憑き精霊のやった事は、後で同じ精霊として
ボクたちが街の人に謝ってきます」
「仕方ない、なの」
土精霊様と氷精霊様が申し訳なさそうに
話し……
「まあ明日もう1日やるって言っておけば、
チビたちも喜ぶだろう。
取り敢えず今日のところはお開きにしようぜ」
ジャンさんの一言で―――
一応は解決の運びとなった。
「ただいまー、シン」
「戻ったぞ、我が夫」
冒険者ギルド支部に妻たちが戻って来た。
『はろうぃん』騒動の翌日、もう一度お祭りは
再開され……
家憑き精霊様、そしてサイリック大公家は
王都へと帰還。
さらにその数日後、各国から来ていた留学生組が
里帰りする事になった。
その移動にはもちろん、ドラゴンやワイバーンが
動員され、
チエゴ国を始め、ウィンベル王国と最恵国待遇を
結んでいるライシェ国―――
新生『アノーミア』連邦……
他各国に全員が帰り、故郷で年末年始を
迎える事になったのである。
そしてその里帰りに従事したメンバーが、公都に
戻り始めていた。
「お帰り、メル、アルテリーゼ。
そっちは確かチエゴ国だっけ?」
「そうだね。北方面だった。
だからめっちゃ寒かったー」
「ムサシがうらやましいわい。
あっちはそのまま、婚約者の実家へお泊り
じゃからな」
ムサシ君とは、チエゴ国のアンナ・ミエリツィア
伯爵令嬢とカップルになったワイバーンで、
両種族公認の仲であり、人間と一番早く結婚
するのではと、群れの中でも目されている。
「まー、お疲れ様ッス」
「レイド君は確か、新生『アノーミア』連邦方面
だったっけ?」
褐色肌の次期ギルド長の青年に聞くと、
「そうッスね。
シャンタルさんと一緒ッス」
「いっせいにドラゴンやワイバーンが公都から
いなくなるので、不安の声もありましたけど、
今は他の人外の方々もたくさんおりますし……
それにランドルフ帝国との国交が樹立された
今、武力衝突する可能性のあるところは無い
ですからね」
彼の妻である、ライトグリーンの
ショートヘアーをした、丸眼鏡の女性が続く。
「そういえばギルド長は?」
メルの問いにミリアさんが少し息を吐いて、
「留学組の出入国の書類確認で、ちょっと
忙しかったので、今頃は児童預り所で
休んでいるんじゃないかしら」
そこで私は『ン?』と首を傾げる。
確かに冒険者ギルドは、今や公都のいろいろな
業務に関連しているけど……
留学組にそれほど関わっていたっけ?
するとレイド君が両手を腰につけ、
「あー、留学組の中には冒険者ギルド関連で、
臨時雇いで働いていたコもいるッスから」
「なるへそ。どこかで聞いたような気が」
人間の方の妻が驚いて声を上げ、
次いでミリアさんが、
「表向きは社会勉強というか職場体験?
ですけど―――
ホラ、亜人や人外の冒険者も増えたから。
そちらと伝手を、という要望もあったみたい
ですので」
「そういえば、魔物鳥『プルラン』の収穫でも
何人か見知った顔がいたような……
アレはそういう事であったか」
ドラゴンの方の妻も続けて感想を述べる。
「で、戦果というか成果は……」
私がたずねると次期ギルド長夫妻は、
「それなりに親しくなったのであれば、
一緒に里帰りしたんじゃないッスか?
俺は新生『アノーミア』方面に送り届けて
来たッスけど、それなりにいたと思うッス」
「北方方面は、メルさんとアルテリーゼさんの
方が詳しいかと」
そういえば、妻たちは留学組の里帰りを手伝って
帰ってきたばかり。
そのまま二人に視線を送ると、
「確かに、獣人や魔狼の子―――
あと羽狐もいたような」
「ラミア族やハーピィーはいなかったが……
人に変身出来る者がいれば気付かなかったかも
知れん」
ドラゴンやワイバーンばかりに目がいくけど、
こちらは規格外なだけで……
他の人外も、実はかなりの戦力になるんだよな。
人外で一番多いのは獣人族だが―――
昨今の『神前戦闘』人気も相まって、
今は差別意識もかなり改善されていると聞く。
そこへちょうどギルド長が戻って来て、
「おう、シン。いたのか。
メルとアルテリーゼもご苦労だったな」
「お疲れ様です、ジャンさん」
部屋の主が帰ってきた事で、一家であいさつを
返す。
「ほれ、ラッチだ。
どうせ迎えに来るつもりだったろ?」
「ピュー!」
小さなドラゴンの子供が、母親の胸に
飛び込んでいく。
「お疲れ様ッス、ギルド長」
「お帰りなさい。
児童預り所はどうでした?」
すると彼はどっかとソファに腰を下ろし、
「後はまあ、年越しまでのんびりってところか。
ああ、そういや―――
風精霊サマ見なかったか、お前ら」
「風精霊様、ですか?」
私が聞き返すと彼はうなずき、
「何でもよ、ここ2・3日姿が見えねえそうだ。
まあ今までもそういう事はあったし、
なんて言っても精霊サマだ。
それほど心配はしてねぇんだが、一応な」
確かに、風精霊様は氷精霊様以上に気まぐれと
いうか……
文字通り風の向くまま気の向くままという
イメージだ。
「2・3日ですか。
ちょうど留学組の人たちが、国に戻った時期と
重なっていますね」
何気なく私の口から出た言葉に、
「そういえばそうだねー」
「基本、ひとっ飛びだからのう。
どこかに紛れ込んで行ったのかも知れんな」
「ピュウ」
家族が答えた後、レイド君とミリアさんが
顔を見合わせ、
「あれ? 風精霊様って確か……
チエゴ国の侯爵家の一人息子といい仲に
なっていたんじゃなかったッスか?」
「え? 違うわよレイド。
そもそも風精霊様の性別がどちらか
わからないので、うやむやになったと
聞いているけど?」
そこでしばらく沈黙が支部長室を支配し、
「うん、まあ……帰ってくりゃわかるだろ」
全員が微妙な表情になった後―――
私たち家族は一礼して、支部長室を後にした。
「おー、じゃあ今のところ順調ですか」
「はい。具合の悪い者が出たという話は
聞きません。
あと海苔がこちらでも作られるように
なりましたから、海苔巻きとかも人気
ですよ」
翌日……
私は『ガッコウ』で、鬼人族たちと一緒に
料理実習を行っていた。
そこで例の『生食計画』について進捗を聞いて
みたところ―――
特に問題らしい問題は起きておらず、
年末か年明けには、被験者たちの本格的な
健康診断と、
安全性について中間報告が行われる運びに
なっているらしい。
「口に入れるものですから、安全確認に
時間がかかるのはわかりますが……
少しもどかしいですな」
「パックさん主導で計画は進めてもらって
いますけど、あくまでも慎重にと、私からも
要請していますからね」
それに今は冬。食材が痛む速度も遅い。
そこも加味して安全性の確保を考えなければ
ならない。
「しかし、魔法で出した水で魚や貝を飼うと、
大きくなるというのは驚きました。
海水を模した塩水でも、ワカメや牡蠣が大きく
なりましたからなあ」
「あの技術は絶対に持ち帰ります!
もちろん、生食技術も……!
今から里に戻るのが待ち遠しいですよ」
料理人として連れて来た鬼人族の中には女性も
おり、ガッツポーズのように構える。
こちらでもそうだが、冬は魚などの供給が
減るのだそうだ。寒いし凍るし……
それが大きく出来るという事だけでも、
望外なのだろう。
あと驚いたのは、鬼人族も昔は
『食べないと生きていけない』種族だった
という事だ。
私と同じ世界から来たのだとしたら当然といえば
当然なのだが、基本異世界では魔力さえあれば
食べなくても生きていける。
もしくは最低限で何とかなる。
例外として魔力制御がうまく出来ない子供は、
常に食べる必要があるけれど―――
大人になれば魔力が生命維持の代用となるので、
食事は必ずしも必須ではないのだ。
今の鬼人族は混血が進み、魔法もそこそこ使える
ようになり……
食事を摂らなくても生きていけるようになった
らしいが、
先祖は私と同じく食事が当たり前の生活を
送っていたので、そのライフスタイルを
引き継いで今に至る、という事だ。
「しかし鬼人族の方々が来てから、
劇的に食事の質が変わりましたからね。
本当に感謝してもしきれません」
「いやいや、シン殿から受けた恩恵も
数え切れません。
料理にしても、我らの知らぬ事ばかり。
むしろ教えて頂く事も多いですから」
そこで一緒に作業をしていたメルと
アルテリーゼが、
「そういえば、山芋をつなぎに使ったつみれ、
あれもすごく美味しかったよー」
「何かふわふわした食感だったのう。
ラッチが喜んで食べておった」
「あれも我々鬼人族伝来のものですよ。
ひと工夫、といったものでしょうな」
と、雑談をしながら手を動かしていると、
「シンさん、いますか」
「レイド君、どうしました?」
そこへ次期ギルド長がたずねてきて、
私が応対する。
「例の、家憑き精霊様が言っていたと思われる、
雪を取り込んだスライムが現れたッス。
空中巡回をしているワイバーンの一体が
見つけたそうッス!」
あの精霊様は、魔力通信機に使っていた
アラクネの糸をたどって来たと言っていた。
そこから考え、王都と公都を結ぶライン上を
警戒してもらっていたのだが、それが見つかった
という報告だ。
「わかりました。
メル、アルテリーゼ」
「りょー」
「すぐに飛べるぞ」
私は妻たちと共に、早足で『ガッコウ』を
後にした。
「やれやれ。でもどうして私なんだろうか。
手に負えないと踏んだのかな?」
「んー、わかんない。
アルちゃんはどう?」
アルテリーゼの『乗客箱』に乗った私たちは、
先導するワイバーンについて飛んでいた。
『まあシンは討伐実績があるからのう。
経験者に任せた方がいいとの判断ではないか?
もし何か異常があっても、シンがおれば
どうとでもなるし』
信頼があるのはいいんだけど、何でもかんでも
私頼りになるのは避けたいんだけどなあ……
と思っていると、
『! シン、到着したようじゃ。
降りるぞ』
伝声管から妻の報告があり―――
やがて前方のワイバーンに続き、下降を始めた。
「この辺りですか?」
「はい。白いスライムのような物体が、
うごめいていたのが見えましたので」
ワイバーン騎士隊の若い青年が、周囲を見渡し
ながら答える。
林、というほどのものでもない木々の中を、
私たちは見て回る。
「もう移動したのかな?」
「まあここから公都まで30分は飛んだしのう。
その間にどこかに行ってもおかしくはない」
メル、そして人間の姿になったアルテリーゼと
辺りをぐるりと見渡し、それらしきものを探して
いると―――
「あれじゃありませんか?」
青年が指さす先に、直径七・八メートルほどの、
ブクブクと泡立つ雪のような物体があり、
「あー、あれかも知れませんね」
私が近付くと、
「クアーーーッ!!」
彼の相棒である、ワイバーンが雄たけびを
上げる。
「ど、どうしたんだ? 落ち着け!」
「なになに? どったの?」
「警戒しておるのか? スライムに……」
妻たちもワイバーンの行動に、わけがわからず
困惑していると、
「うおっ!?」
急にスノーバブルが立ち上がった。
いや、正確には伸びたと言った方が正しいか。
しかしその高さは、一気に五階建ての
ビルくらいになり―――
そしてその体は先ほどまでの真っ白な色から、
赤黒く変わっている。
「な、何だこれはぁ!?」
「キイッ!!」
ワイバーンが相棒の騎士をかばうように、
その片方の翼を彼の前に差し出す。
同時に彼の視界はふさがれ、私はすかさず
メルとアルテリーゼにアイコンタクトを取り、
「(今のうちにやっちゃおうか?)」
「(そだねー)」
「(ここで燃やすと被害も大きそうだしのう。
シン、頼む)」
家族の同意を得ると、私はその巨大な
スノーバブルを見上げる。
しかし何というか毒々しい色だ。
いろいろと無効化させる必要があるのかも
知れない。
『魔力溜まり』という事もあるだろうし、
私は一歩近づいて、
「雪を取り込むスライムなど―――
そして、
理性を保てなくなる、正気を失う……
そんな魔力など
・・・・・
あり得ない」
そう小声でつぶやくと、
「うわっぷ!」
雪で出来ていたビルは上から崩れていき、
大きな水飛沫が私たちを襲った。
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