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「お前、ときどき物言いが武士みたいになるよな」


そう言われると、盛り上がっていた気持ちがスンッと収まる。


ムクリと起き上がった私は、真顔で尊さんに尋ねた。


「……なんなんでしょうね? これ。前から言ってた気がします」


「俺としては面白いからいいけど」


「いざという時の彼女の口癖が、武士だったらやじゃないです? ……直したほうがいいのかな」


「喧嘩した時に『切腹しろ!』って言わないなら、いいんじゃないか?」


「ひひひひひ」


私は笑いながら床の上にドテッと落ち、さらに笑いながらズボンをずり上げる。


「……はぁ……」


溜め息をついて座り直したあと、膝を抱えてとどめの溜め息をついた。


「……百合さん、武士みたいな孫嫁をどう思うかな」


「いいんじゃないか? 愛嬌のあるほうが好かれるよ。元気よく『なんでも食べます』って言った時点で、大体の印象は決まったと思うし」


「……マジか……」


私はボソッと呟き、額を膝につける。


「食いしん坊、気にしてるのか?」


「……なんか卑しくないです?」


事あるごとに『食いしん坊』と言われているのは、愛情ゆえのいじりと分かっている。


でも彼以外の人、特に年配の方を相手にすると、あまりいい事じゃないのかな? と心配になってしまった。


「年配の人ほど、沢山食べる若者を好ましく思ってると感じるけど」


「そうでしょうか」


「朱里さ、仔犬や仔猫がガツガツ食べてる姿を見て、『たんとお食べ』って気持ちにならないか?」


「なります」


私は顔を上げ、目をキランとさせて言う。


「俺も小さい子がわんぱくに食べてるのを見て微笑ましくなるし、そういうもんなんだよ。自分は油物とか生クリームが食べられなくなってるから、若い子が食べてるのを見ると『食えるうちにたっぷり食えよ!』って思うんだよな。……だから大丈夫だよ。アレルギーも好き嫌いなく沢山食べられる事は、卑しいんじゃなくて特技だ」


「特技?」


そう言われるとは思わず、私は目を丸くする。


「世の中、結婚していざ飯を作ろうと思っても、アレルギーや好き嫌いが沢山あって、思うように作れない、作っても文句を言われて食べてくれないとか、結構あるんだよ。朱里はよっぽど味付けが極端だったり、材料に火が通ってないとかじゃないと、『食べられない』って言わないだろ? それは誇っていい事だよ」


「……そうなんですね」


「年配の人は、色んな場所で色んな人を見ている。寿司屋に連れて行っても、いきなり『生魚が食べられない』って言い出す人もいるし、料理人の前で『まずい』って言う人もいる。料理を食べていて、嫌いな物だけ除ける人もいる。レストランを手配するにも、アレルギーに気を遣わないとならない。その分、朱里はオールラウンダーだろ? すげぇ有利じゃないか。そりゃ気に入られるよ」


不思議な事に、尊さんに励まされていると、どんどん気にならなくなってきた。


「……うん、分かりました。そう思っておきます」


「よし」


尊さんはクシャッと私の頭を撫で、額にキスをしてくる。


それから私を見つめてニヤッと笑ってきた。


「朱里、一緒に風呂入るか」


「えっ」


温泉の時はさておき、家で改めて言われると恥ずかしい。


「猫洗いさせてくれ」


「もう……」


私は真っ赤になりつつ、ちょっとむくれてみせた。






尊さんが先にバスルームに入って体と髪を洗っている間、私は洗面所で髪を梳かしてからクリップで留め、ドキドキして服を脱ぐ。


「……お、お邪魔します……」


お風呂に入ると、防水スピーカーから雰囲気のいいジャズが流れていて、小さめのアロマキャンドルが数個火を揺らしていた。


酸欠にならないように、ちゃんと窓を開けてるのは尊さんらしい。


マンションのバスルームだからユニットバス……と思いきや、ゴージャスマンションなので、作りがぶっとんでいる。

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