浴槽は三、四人は入れそうな円形のジェットバスだし、その周囲にはアロマキャンドルなど飾り物を置ける場所があり、コーナーには観葉植物もある。
シャワーヘッドはよく分からんブランド物の奴だし、バスチェアとか洗面器も大理石柄の高級感溢れる物で統一されている。
バスルームの外にはシャワーボックスのみもあるし、サウナもある。
脱衣所は空調が効いてるから、夏でも冬でも心地いいし、ブランド物のボディソープが沢山あって、気分によって匂いを変えているらしく贅沢だ。
「まあ座りたまえ」
尊さんがバスチェアを示して言うので、私は「ぶふっ」と噴き出してしまう。
「何キャラですか。……えと、先に大事な所は自分でサッと洗いたいので、先にお風呂に入って後ろ向いててくれますか?」
「分かった」
彼が浴槽に入っている間、私はシャワーでササッと秘所を洗う。
そしてお湯に浸かろうと思って尊さんの後ろ姿を見て、悪戯心が芽生える。
「尊さん」
「ん?」
彼は後ろを向いたまま返事をする。
「右手を上げてくれますか?」
「ん? ……ああ」
尊さんは言う通り、右手を軽く上げる。
「左手上げて」
「『右手下げない』とか言うのか?」
「頭を下に」
「●ケキヨか!」
突っ込まれ、私はケラケラ笑いながらバスタブに入った。
「尊さん」
「ん?」
「両手を上げて」
彼は言われた通りに両手を上げ、私はススス……と彼の側に寄った。
「朱里ちゃんを抱き締めて」
「喜んで」
そういう要望なら、と尊さんは笑顔で私を抱き締めてくれる。
けれどなんだかむず痒くて、「ひひひひ……」と笑ってしまう。
「なんだよ」
「自分で〝ちゃん〟づけしちゃった。しかも『抱き締めて』とか」
今のはノリでやったけれど、素だと恥ずかしくてなかなか言えない。
「いいんじゃないか? 朱里は可愛いし、どれだけでも甘えてくれよ。俺は甘えに飢えてるから」
「……の割には、係長が『話聞いてくださいよー』って泣きついた時は、軽くあしらってますよね」
「朱里限定だっつの。これ、これこれこれこれ」
そう言いながら、尊さんは私の鼻先をツンツンつつく。
「やめて……っ、豚になっちゃう……っ」
「こうか」
尊さんが私の鼻先をクニュと押し上げたので、思わず期待に応えて「ぶひぃ」と言ってしまった。
その途端、尊さんは手を放して笑い始め、私もつられて笑う。
二人で笑ってお湯をチャプチャプさせたあと、なんとなく二人で抱き合い、黙ってジャズに耳を澄ませた。
「……お前が愛しくて、どうにかなっちまいそうだ」
けれどいきなりそんな事を言うので、照れて耳まで真っ赤になってしまう。
「おだてても、粗品ぐらいしか出ませんよ」
「使用済みタオル?」
「やだもう!」
ペチンと尊さんの胸板を叩いたあと、また二人でクスクス笑う。
「……でも良かったぁ……。これで何かあった時、すぐに百合さん達の所に行けますね」
「……そうだな。もう少ししたら五月、六月になるし、母の日……とか、孫がやったら変かな」
「いいと思います!」
私はパァッと表情を明るくし、うんうんと頷く。
「確かに、子供、孫世代から色々もらってるかもしれませんが、みんな尊さんの境遇は分かっています。『受け取ってほしい』って言ったら、きっと快くもらってくれますよ」
「そうかな。……じゃあ、あまり負担にならない物を考えておくか」
「はい!」
返事をしつつ、私は自分のところの両親にも何か贈らないとな……とぼんやり考える。
「朱里」
「はい?」
思考にふけっていたところ声を掛けられ、私は顔を上げて微笑む。
尊さんは私を見つめて何だか複雑な表情をしていたけれど、ぎこちなく笑って言葉を続ける。
コメント
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らぶらぶお風呂🛁だけど、尊さん?何を隠してるの?