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この店に入る前から高樹は、一安の恋愛事情を聞きたいと考えていた。それはあくまで相談ではなく、世間話程度におさめなくてはならない。
何故なら、今後の人間関係も対等に、尚且つ円滑にするための策だからだ。
男というのも、案外面倒くさいものだなと高樹は意識していた。
ふと、これまでの人生を思い返してもそうであった。
男とは、ことある度に地位にこだわり、威厳や虚栄を気にかけている。
「いきなりどうした。てかさ、お前結婚もしてないじゃん。それにだ、離婚なんて大変だぜ、オススメしないよ、金もかかるし時間もかかる。いちばん良いのは結婚しないこと!どうせ人間はいつか死ぬんだ。ひとりで産まれて、ひとりで死んでいくんだよ。だからさー」
そこまで言いかけて、一安はすこし考える素振りを見せた。
そして、腰を浮かせるようにしながら、
「ははあん、さてはお前、並木靜子に本気になったんだろ。女優とマネジャーの秘め事ってやつだな。ほどほどにしとけよ。それと、女には気をつけろ。あんまり信用しない方がいいぜ」
「…そんなんじゃないから」
「いや、図星だな、顔に書いてある」
「何言ってやがる…だったらお前はどうなんだよ、彼女やら奥さんやら信用してないのか?」
「ほら、やっぱり図星だ!」
高樹はグラスの焼酎を飲み干して、あからさまに不機嫌な顔をした。
一安は豪快に笑った後、時間をあけてから言葉を続けた。
その言い草は、独白に近いゆったりとした響きがあった。
「興信所なんてさ、仕事の依頼の大多数が浮気調査なんだぜ。名探偵コナンみたいにゃいかねえよ。まあ、金になるから始めたんだが、男女間の憎悪とかおぞましいもんがあるよ。男も女も変わりやしない。疑心暗鬼になった人間ってのは怖いね。実に怖い。殺人事件が起こるのも分かるような気がするよ。とは言ってもだな、子供いるのに浮気がばれて嫁に三行半突き付けられた俺が言うことでもないが、いいか、心して聞けよ。不倫はやめとけって、あちらさんには旦那がいるんだろ?」
「ああ、だけどうまくいってないみたいだ」
「それそれそれ、本当にそうか?言ってるだけだよな、変わり映えのない毎日に飽き飽きして、ちょっとした火遊びなんてこともあるぜ。あ、なんなら俺が調査してやろうか?」
「いいよ、わかったよ」
「よろしい」
「すまないな、変な話して」
「いいよいいよ、もう一杯いくか?」
「そうだな」
酒気で頬を赤らめた高樹は、靜子に会いたい衝動を堪えてスマホをそっと閉じた。