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夢を見ていた。
足元ははっきりしないが、空だけは妙に澄んでいる。
夕方とも、夜の手前ともつかない色だった。
目の前に、母が立っている。
何かを言おうとしているようで、けれど声は聞こえない。
ただ、穏やかな表情だけがはっきりと見えた。
ふと横を見ると、父が立っていた。
その腕の中で、まだ幼い妹が眠っている。
小さな体が、父の胸にすっぽりと収まっている。
寝息は聞こえないのに、深く眠っていることだけは分かった。
父は前を向いたまま、何も言わない。
その横顔は、なぜか少し遠く感じられた。
母が、ゆっくりと指を伸ばす。
その先に、東京タワーがあった。
夢の中のそれは、現実よりも大きく、静かにそびえ立っている。
赤と白の色は鮮やかなのに、輪郭はどこか曖昧だ。
「あれがね、東京で一番高い場所だよ」
母の声だけが、はっきりと響いた。
歩夢は、何も答えられなかった。
ただ、顔を上げ、タワーを見上げている。
そのとき胸の奥がふっと浮くような感覚がした。
——誰かに抱えられているような感覚。
そう思った瞬間、景色がゆっくりと遠ざかっていく。
家族の姿が滲み、東京タワーの光だけが残る。
母の声も、父の横顔も、妹の寝顔も、
すべてが薄れていく。