首都のど真ん中に立つ、日本最高の標高を誇る大きな建物・知的生命体管理部。
そこには多くの民が訪れ、管理部の存在に頼った。
「仕事が終わらぬ〜…」
その管理部の丁度50階、管理人の仕事部屋とされる場所でだらけているのが私である。
「管理人様までだらけてしまうと下の者にも影響が出てしまいますよ。まだお若いとはいえ、もう少し_____」
「管理人としての自覚を持て、だろう?持っているさ。…多分?」
「ちょっと自信なくすんじゃないよ!」
この人は私の友人と呼べる者だ。
「ああ、すまないね。田中」
「一ノ瀬だよ!お前は何回自己紹介させたら気が済むんだ!!」
「苗字しか知らないんだから仕方ないだろ?ただでさえお前は警備員の下っ端なんだから影が薄いんだ」
「さらっと年上をdisるんじゃない!」
一ノ瀬は今年で22となる。
普通にOLをやれば良いものの、事情があって審査が簡単なここを選んだらしい。
と言っても簡単なのは就職手続きだけであって、管理部に入るには最難関と呼ばれる国家試験の上位10位に食い込まなければならない。
えーむずいじゃん絶対やだーっていう頭空っぽギャルが文句をつけるだろうからあらかじめ言っておこう。
くっそむずいが年収は他と比べ物にならない。
「いくら頭が優れていても、お偉いさんに気に入られなけりゃあねぇ。」
「ちょっと社会の闇見せるんじゃないよ!言うてお前も15やろがい!管理人てそんな簡単やけ!?」
「そんな訳ないだろう?あまり最高役職を舐めるなよ?お前なんて一瞬で社会から抹消できるんだから」
「管理人様まぢ愛してる神すぎわろた」
「最後のいらないね」
「そんなこと言っても、管理人様の上にはお上がいるでしょ?それって最高役職なの?」
管理部には元々無いが、私が管理人となった頃から導入された役職、「お上」。
現管理人に指示することができる、いわば管理人よりも上の役職。
「うーん、私は感覚の問題だと思うな。わかりやすく言うと、『お上』は殿堂入りというところだろうか。」
「殿堂入り…。ランキング外ってこと?随分便利な仕組みだね」
「そうだな。私も月一で定期報告に行かねばならん。面倒だ。」
「あ、そういうの言っちゃうタイプの上司なんだ」
ぶっ殺すぞ…とはギリ言わなかった。
「そんなことより、今朝のニュース見た?また物騒な事件起こってたね」
「そうだな。4年程前にも同じようなこと起こってた気がする。」
「「斬首刑遺体失踪事件」」
説明するのも馬鹿らしいが、斬首刑後の遺体がぽっかり無くなっている事件のことだ。
誰もまさか2度も同じことが起こるとは思わなかっただろう。
今回はすぐに遺体が山に捨てられていたのが見つかったからまだしも、4年前…、前回の遺体は未だに発見されていない。
管理部が唯一対処できていない未解決事件だ。
「山下さん、だっけ。殺人罪だったから早く見つかってほしいんだけど。」
「その辺の街普通に歩いてたりして」
「ちょ、やめてよ怖いんだけど!?」
被害者の名前は山下詩音。
家族3人を殺害し、逃亡するという決して許されぬ罪を犯した人間だ。
そういう方面で見てみれば、彼女は全面的に加害者である。
「そもそもそういうのってフィクションじゃないの?」
「さあな。私は信じておらぬが、幽霊とかそういう根拠のないくだらぬ物を本気で調べようとしてる奴もいる。」
「てか死んだんだから別に探さなくても良くない?捜索願とかそういうのあったり?」
「認定死亡という手段もあるが、身寄りのいない彼女には難しいことだろうね。死んだことにもさせて貰えない」
それはある意味人権損害ではないだろうかと行政機関が判断したのだから、私たちは黙って従うしかない。
「はぁ…。人権損害だわ〜」
同じことを考えるんじゃない!
ドンドンドン
「管理人様!只今報告が入りました!」
「なんだ、入れ。」
「あれあたしここにいたら問題ある系男子?」
黙れ!!
「例の遺体失踪事件、新しい情報が入りました!本人の確証はありませんが、『山下詩音』からのメールが一通…!」
「…!今すぐ読み上げろ!」
「『I am alive』…。直訳すると、」
「私は生きている…。管理人の言う通り!?」
「私のは冗談だ!!…そいつが山下かはわからぬが、冗談でこの様なメールを送っていい訳ではない。それにこんなことで世間を恐怖に陥れる訳にもいかぬ」
「捜索は一旦留置でしょうか?」
「いいや…。管理部だけで捜査する。」
「そんな、無茶な…!」
確かに警察の助け無しで捜査をするには無理がある。
だが、こんな時に警察が良い仕事をするか?
行政が仕事をするか?
司法が仕事をしてくれるか?
答えはNOだろう…!
「ならお前達は仕事をしていろ。私が探す」
「あたしもやる〜」
「け、警備員が…?」
「ちょっと〜、舐めないでよ。あたし、情報とかその辺詳しいんだから」
「まず怪しいのは地方と都市部だ。管理部からより離れているからという単純な理由、もしくは私たちの目に入らない都市部。それをわきまえた脳筋が関西辺りに逃げている可能性も充分にある…。」
「つまり全てが怪しい、と。」
「海外に進出していないだけマシだ。」
『山下詩音』の端末は日本にある可能性が高い。
だから海外進出するまでの時間との勝負でもある。
「お上には私から報告させて頂く。お前はもう戻れ。」
「は、はぁ…。」
「一ノ瀬。お前は都市部の捜索を頼む。より多くの手がかりを掴むのだ…!」
「…燃えてんねぇ、管理人さん?」
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