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清心が持つ、匡のスマホ。その画面には、「永月」と表示されている。
「匡、だろ。俺の親友……お前の心がずっとここに留まってるから、現実のあいつは空っぽで大変な人生を送ってるよ。そろそろ一緒になって、自分を楽にしてやんなよ」
「……」
白露……いや、匡は目を細め、それに触れた。
初めての感覚だった。パソコンやゲームの画面に触れた時のような、あのつるつるした感触。
ちょっと前はスマホなんてなかった。携帯電話が普及して、誰もがメールでやり取りをしていた時代。
十年も経てば、知らないことだらけ。
でも現実の“自分”は波に飲まれながらも何とか生きているんだろう。
現実に置いてきた“自分”は元気だろうか。
匡は瞼を閉じ、深く息をついた。
回り回った世界を止め、自分の殻に閉じこもるのは難しくなかった。
都内の中学校に通う少年、永月匡。
彼は幼い頃から病弱で、外より家で過ごすことが多かった。友達が中々できず、家では本ばかり読んでいた。
本だけが友達と言う気はないが、他に暇を潰せるものもない。新しい本を漁ったあとは、一度読んだ本を読み返す。このループにハマってから尚さら室内に閉じこもった。
怪奇的な世界に惹き込まれたのは中学校に上がってからだ。ただでさえ人付き合いが下手なのに、気味の悪い本ばかり読んでるせいでクラスメイトからは奇異な目を向けられた。
それを気にして爽やかな本でも読めば良かったのかもしれない。しかし迷惑さえかけなければ、どんなジャンルを読んでもいいはずだ。友達がいなくても本があれば楽しいし、寂しくない。
結局、中学校の二年間は面白味がなく終わった。本に夢中になって、コミュニケーションを怠った自分の責任だ。もっと現実に目を向けていれば、今頃もっと明るい青春の日々を送れていただろうに。
そんな後悔が、二割。本に出逢えて良かった、という喜びが八割。
自分が『普通』に近付く日はまだ遠そうだ。
せめて卒業までは大人しく過ごそう。二年間で植え付けた印象はそうそう変えられないから、やり直すとしたら高校からだ。
今年一年は今までどおり地味に過ごす。
そう思って、クラス替えした教室へ向かった。
お気に入りのUFO特集号を開き、自分の世界に浸る。すると隣にひとりの生徒が座った。横目で見る。背が高い上に端麗で、一目で女子にモテると悟った。