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作品:ママにあいたい
種類:ミステリー
※3万5千字↑あるので、
時間のある時にお読みください。
※本作品に出てくる登場人物は、
実在する人物とは全く関係がありません。
「ん…んん?」
目を覚ますと雑音のうるさい場所にいた。
よく凝らして見てみると、
知らない人が目の前にいる。
「君、大丈夫?
親御さんと連絡とか…」
僕はそのとき頭が働いてなくて、
逃げなきゃとしか思わなかった。
「ちょ、ちょっと…!」
少し走ってやっと気づいた。
「ここ…どこなの…?」
走ってる最中に
4番目のお兄ちゃんと合流して、
人通りの少ない場所へと移動した。
「ねぇ…ここってどこなの?」
「さぁね。ボクにも分からないよ」
お兄ちゃんはどんな状態でも冷静でいる。
「他のおにぃちゃんたちは
どこなんだろう?」
「多分ボクたちと同じように
そこら辺にいるんじゃない?」
うーん…探すのは正解なんだろうか…。
「無闇矢鱈に探すのは
オススメしないよ。
ここ、多分ボクたちがいたところと
違うから変なことに巻き込まれそうだし」
心を読んだ!?
とか思ったけど、顔を見たら
普通に注意してただけっぽい。
「この世界がどんな場所か
分かればいいんだけどなー…」
「推測だけど、
この世界でわかってることは
いくつかあるよ」
え、あるの!?
でもさっきどこかわからないって…。
「そんなあからさまな顔
しないでくれない?
それに、ボクが分からないって
言ったのは正確な場所の話であって、
それ以外のことは予想出来るよ」
「なんか…ごめんなさい…」
「はぁ…まず、一つ目ね。
見ての通り、
ここはママの体内じゃない。
予想するなら、
ママが暮らしてた世界かな」
それは見ただけでわかるけど、
お兄ちゃんは確か産まれて
すぐ死んじゃったんだよね。
だから外に出れたのは
一瞬なのに…すごいな。
僕はそこまで頭働かないや。
「二つ目は…」
お兄ちゃんは言うのを
躊躇ってるように見える。
「…辛いことなの?」
「…人による、かな。
少なくともボクは辛い」
お兄ちゃんが辛くなることを
聞きたくは無い。
でも、情報は手に入れておきたい。
「言えるなら、話してほしい」
覚悟が決まったかのように、
お兄ちゃんは口を開く。
「二つ目は、この世界には
ドッペルゲンガーがいる」
「どっぺるげ…なにそれ?」
「ドッペルゲンガーって言うのは、
自分と容姿、声が全く同じ人が
もう一人いることを指す。
…でも、この世界はきっと
性格が反転してる」
「性格が反転?なんでわかるの?」
お兄ちゃんの顔が険しくなった。
そんな裏情報だったの!?
「…あ、あれだよ」
お兄ちゃんが指を指した先には、
正直4番目のお兄ちゃんとは
思えない表情をしたお兄ちゃんの
看板があった。
「…えっ、と…お兄ちゃん、
もしかして…」
「それボクじゃないから!
この世界のボク!」
わかってる。
お兄ちゃんの目は一つだけ。
だから人前には出たくないはずなのに、
あんなに堂々とセンターを飾っている
アイドルのお兄ちゃんがいるのは
おかしいとさすがの僕でもわかる。
「…ほ、他の人の
そっくりさんは見たの?」
「いや、見てない。
ってかボクのあの看板見られたら
絶対あいつらにバカにされるだろ!?」
あぁ…だから僕にも
見せたくなかったんだ。
「とりあえず、他の人たち探そ!
なにか手がかり増えるかもだし!」
「そうだね。
…あ、気をつけなきゃいけないことが
あるんだけど」
「? なに?」
服装…とか?
今までのままだし…。
「ドッペルゲンガーをお互いの
視野に入れちゃダメだよ」
お互いの視野に入れちゃダメ?
なんでだろう?
「入れたらどうなるの?」
「どちらかが消える」
「!? 消え、る…?」
「この世界で生き延びたいなら、
人とあんまり目を合わせない方がいいよ。
相手がアンタの双子の弟だとしてもね」
それ、見つけるの困難じゃない…?
1side
「なんでわたしがアホと一緒に
行動しなきゃいけないわけ?」
「知るかよそんなことー…」
おれは今2番目と共に
人に見つからなさそうなところに
逃げている。
2番目もさすがに
おれと二人っきりというのは
耐え難いらしい。
少し心に傷を負うけど
こればっかりは仕方ない。
おれだって弟達が心配だし…。
沈黙が続く。
う〜…気まずい…。
あ、そうだ!
「少し探検してみるか?
なんか発見があるかもだぜ!」
「…あなたは怖くないの?」
「怖い…?」
「気付いたら見知らぬ場所にいるのに
探検しようなんてわたしは思わない」
2番目の言うこともわかる。
おれだって本当はここから
動きたくもない。
「…弟達が心配だから、
しか原動力はねぇな。
あいつらがいなけりゃ
おれもここにずっと居座ってるよ」
もちろん2番目も大切な妹だ。
無事でめちゃくちゃ安心してる。
「お前だって、3番目が
心配じゃないのか?」
「それはそうだけど…」
「なら、一緒に行動しようぜ!
一人より二人の方が怖くねぇよ!」
おれがまだ受精卵だったとき、
一人だと怖くて寂しかったけど、
タネが居たときは怖くなかった。
もちろん、魂になって戻ったあとも、
2番目が来てくれて心底嬉しかった。
こいつも、
そんな気持ちになれたらいいな。
「…あなただけじゃ心配だから、
着いてってあげるわ」
「よっしゃぁ!
それじゃあかくれんぼしながら
探索しようぜ!」
「はぁ?そんなのどうやるわけ?」
「お前が先に鬼な!
十数えたら探せよ!」
「…ほんと、アホなんだから」
楽しく探索出来れば、
怖さも吹っ飛ぶだろ!
「二奈ちゃん…?」
3side
「ここってどこなんだろ?」
「さぁ…どこなんでしょうか?」
「ママの体内じゃないことは確かだな」
あたしたちは今
あたし、タネさん、5番目の
三人で行動している。
「お姉ちゃんたちとも
安全確認できないのって不便だなー…」
「オレだって6番目の安全が
確保されてるのか不安だよ。
何か犯罪に巻き込まれてたとしたら
オレ死ぬかもしれない」
重いなぁこのブラコン…。
まぁ…あたしはタネさんが無事で
安心したけど…。
それより、この後どうしよう?
探検してみるのが一番なんだろうけど、
やっぱり怖いしなぁ…。
受精卵だったときだって探索するの
ワクワクもしたけど怖かったし…。
しかもそれはお姉ちゃんがいた状態
だったんだよね…。
あれ?もしかして
今ってあたしが一番上!?
5番目に頼りない姉貴だなとか
思われてないかな!?
一気に不安になってきた…!
「とりあえず、
動かないと何も収穫ないし、
探索するか」
「そ、そうだね!」
二人の視線があたしに向く。
…やっぱり、あたし先頭?
「ま、まかせなさーい…」
強がっちゃったけどやっぱり怖いよ〜!
「3番目さん、大丈夫ですよ。
私たちがついていますから」
あたしのそんな感情を読み取ったのか
励ましの言葉をくれた。
「じゃあ、タネさんも一緒に先頭ね!」
「え!?は、はい!分かりました!」
やった!これで心強い!
「よし!しゅっぱーつ!」
あたしは勢いよく走り出した。
5side
なんでオレは目の前でカップルの
イチャつきを見せつけられてるんですか?
拷問か何かですか?
そりゃあ先頭行きたくないから
姉貴に視線送ったのはオレだけど〜…。
まさかハブられるとは思わないじゃん。
6番目の存在が恋しいぜ…。
…ま、唯一許せるのが
足があることなんだけどな。
なんなら腕もある。
オレは足をカンシに取られて、
腕も6番目が産まれるときに渡した。
なのに今も生えている。
特に違和感もない。
元々手足があったみたいだ。
そのおかげで置いていかれることは無い。
…話し声が聞こえる。
姉貴とタネ、それ以外の声だ。
「お兄ちゃん…疲れたよ…」
「ボクだって疲れてるよ。
アンタのことを考えてあげて
カンシになってないだけいいと思いなよ」
「うぅ…ありがとうございます…」
間違いない。
6番目と4番目の兄貴だ。
「6番目…!」
「ひゃぁ!?なんか声聞こえた!」
「幻聴でしょ、
変なこと言ってないで進むよ」
「本当のことだもん!
置いてかないでよー!」
このままだと先に進まれて
入れ違いになる。
「姉貴、ストップ」
「ん?どうしたの?」
オレは姉貴たちに手招きをして引き止め、
6番目たちの存在を知らせる。
「よし!あたしに任せて!」
そう言って姉貴は大きく息を吸った。
「4番目ー!!!6番目ー!!!
あたしはここだよー!!!」
とてつもなくでかい声を姉貴は出した。
「うるさい」
4番目の兄貴はそう言って
怒りながら近ずいてきた。
「二人に気づいてもらうには
これしかないかなって!」
「はぁ?隣見てみなよ」
「隣?…え!?タネさん!?」
真隣にいたタネは撃沈、
少し離れていたオレだって耳がやられた。
「…6番目?大丈夫か?」
「わぁあ!?びっくりしたー!」
「元気そうだな、よかった」
6番目にも腕がある。
…は?じゃあなんで
オレにも腕があるんだ?
まだオレに腕がなくて
6番目にあるならわかる。
でも二人共腕があるのはおかしくないか?
オレは6番目に確実に腕を渡した。
確かに記憶がある。
なら、オレらの姿は
カンシにちぎられる前の姿だと
考えれば辻褄が合うのか?
はーっ、むず。
「おにぃちゃん、大丈夫?」
「え?あぁ、心配すんな。
大丈夫だよ」
たしか4番目の兄貴はカンシと
融合したんだっけか。
6番目は一緒に行動してたっぽいから、
なにか情報を持ってるかもしれない。
聞いてみるのも一つの手だ。
「なぁ6番目、ちょっといいか?」
「ん?なぁに?」
「4番目の兄貴は、
カンシに姿を変えたか?」
「ううん、変えてないよ。
でもさっき、
カンシになってないだけいいと思いな
って言ってたから、
変えようと思えばできるんじゃないかな」
変えようと思えばできる?
でも、ママの体内での敵と、
ここの世界での敵は
共通じゃないかもしれない。
そう考えると見栄張ってただけか、
ほんとにしてなかっただけか…。
「なにか気になることでもあったの?」
「いや、大丈夫だ。
そんなことより合流を
優先させなきゃだしな」
1番目の兄貴と2番目の姉貴。
その二人とは
まだ合流できてないから心配だ。
ま、こんなこと姉貴に言ったら
『きもい』って言われるんだろうけど。
3side
合流してもあたしが一番上じゃん!!!
でも人数増えたから心強くはあるな〜!
4番目はめっちゃ頼りになるし!
…でもやっぱり、
お姉ちゃんに会いたいな。
「3番目、みーつけた」
「へっ!?」
不意に後ろから声が聞こえた。
恐れることも無く後ろを振り向いたら
お姉ちゃんの姿があった。
「会いたかったよ〜!!!」
あたしは思いっきり
お姉ちゃんに抱きついた。
「3番目が無事で安心したわ。
…で、アホはそこに隠れてるんでしょ?」
ガサガサとゴミ捨て場に音が立つ。
「あっは!正解だぜ!」
そこにはお兄ちゃんも隠れていた。
会えた嬉しさの前に、
一つ疑問が浮かぶ。
「目の前にいたのに
どうやって隠れたの…?」
「? 3番目がタネと
戯れてるときに隠れたぜ?」
あたしがタネさんの耳を壊しちゃって
呼び戻してるときか…。
ま、まぁ!全員集まったしいいや!
1side
おれらはやっと全員集まったから、
これからのことについて
会議することにした。
「まず、この世界について
わかってることがある人はいるかしら?」
2番目が仕切ってくれるから話が
大きく脱線することは無いだろう。
「…誰もいないのかしら?」
発言をしようとする人は誰もおらず、
沈黙が続いていた。
「4番目のお兄ちゃんは
何個か仮説立ててたよ!」
それでも声を出したのが6番目だった。
「仮説?どんなもんだ?」
「…一個目はみんなわかる通り
ここがママの体内じゃないってこと。
ボクの予想はママが暮らしていた世界だと
思ってる」
ここがママの体内じゃないことは
早めに理解していたが、
そこから確信に近づけようとする努力は
しなかった。
もう一手先が読めてなかったのは
少し悔しいな。
「…以上」
「ん?さっき一個目って
言ってなかったか?
他にないのか?」
4番目の顔が一気に険しくなる。
おれらが理解していない中、
6番目だけは
理解しているような顔だった。
6番目には言えておれらには
言えないことってなんだ?
「えっと、…この世界には───」
そう6番目が口を開いたと同時に、
見知らぬ人が来た。
おれたち受精卵でもない、
黒い服を着た人だ。
「ここにいましたか!
勝手に移動しないでください!」
おれたち全員が理解していない中
話はどんどん進んでいく。
「他の人たちはファンですか?
はぁ…あなた、
有名アイドルグループのセンターという
自覚があるのですか?
ほら、行きますよ」
そう言われて
連れて行かれそうになったのは、
4番目だった。
「離して」
「暴れないでください!」
バタバタと暴れる4番目と、
それにもかかわらず強引に
連れていこうとする人。
「待てよ!」
大事な弟を連れていかれそうになって
つい声を上げてしまった。
「4番目は
アイドルグループなんかじゃねぇ。
人違いだ」
性格からして違うことにも気づく。
アイドルって確かみんなに
笑顔振りまくやつだろ?
正直、4番目がするとは思えない。
「…この人が言っていることは
本当ですか?」
「ボクはアイドルなんかじゃないし、
目立ちたくもない!」
「…そうですか」
やっと認めてくれる。
一瞬戸惑ったが、何とかなってよかった。
「嘘が下手くそですね。
もっと上手い嘘付けなかったんですか?」
「はぁっ!?」
想定外の返事が返ってきて、
おれはもう一度戸惑った。
なんだよこいつ、話が通じねぇ。
「おい、本人が違うって
言ってるんだから違うに
決まってるだろ?」
「片目隠しオタクは黙っててください。
これは私と一四(カズシ)さんの問題です」
空気が変わる。
これは本当に人違いだ。
「えっと…一四さんは、
この場にはいません。
あなたが連れていこうとしているのは
この方々の弟さんです」
「いいえ、この人の見た目からして
一四さんしか有り得ません。
だいたい、
一四さんの単眼症は生存率が低く、
生きて産まれてこれる人は
少ないんですよ。
単眼症で一四さんと顔が全く同じ。
本人以外ありえないでしょう?」
これはもう、話ができない。
「…わかった。
お前の言う一四を連れて行ってくれても
構わない」
「お兄ちゃん!?ダメだよ諦めちゃ…!」
「それはわたしも賛成しないわ」
おれだって心の内では反対だ。
大反対だ。
でも、相手は自分の意見を
突き通すことしか考えてない。
そんな奴と話してても時間の無駄だ。
「物分りが良くて助かります。
一つ、あなたたちの関係性は
『ファンと活動者』なんです。
下手に密会するのはやめた方が
よろしいと思いますよ」
「そうか、じゃあおれからはお前らに
一つずつ聞こう」
おれは心で聞こうと思っていたことを
復唱する。
そしてそれを覚悟し、話をする。
「まず4番目、
この世界の仮説は他にあるのか?
あるなら教えてくれ」
虫が良すぎる。
そんな表情をしながらも
4番目は答えてくれる。
「この世界にはドッペルゲンガーが
存在する。
わかりやすいね、今回のがそう。
ボクはアイドルなんかやってないのに、
この世界だとアイドルをしている
ボクがいる。
見た目は同じだけど性格は真逆。
そこでしか見極められないよ」
ドッペルゲンガーか。
確か、お互いを視野に入れると
片方が消えるとか何とか。
だから今は4番目が消える確率が
非常に高い。
もちろん、そんな気持ちはハナからない。
「二つ目はお前だ」
「なんでしょう」
おれは腹に力を入れて答える。
「4番目を返してくれ」
こいつは戸惑い、鼻で笑う。
「話が違いますよ。
約束は破る嘘つきの方なのでしょうか?」
「いいや?嘘は言ってねぇよ」
一呼吸おいて、追撃をする。
「おれが連れて行っていいって
言ったのは『一四』であって、
『4番目』ではねぇよ。
そいつは一四じゃなくて4番目だ。
早く返してくれ」
「この方が一四さんではない
証拠はあるのですか?」
「証拠って言われても…
あたしたちが何言っても
この人聞いてくれなさそうだよ?」
「そうね、一四にはなくて
4番目にあるものってなにかしら?
ドッペルゲンガーって、
性格が真反対なだけで
見た目は変わっていないんでしょ?」
おれに視線が集まる。
でもおれは視線を逸らすことしか
出来ない。
なぜなら、おれも
そこまでは考えてなかったからだ。
屁理屈言えばブチ切れて
4番目を手放すと読んで、
その隙に逃げるつもりだったけど
とてつもなく手強い。
なにか、あるのか?
一四と4番目の相違点が。
「あるだろ?
そいつになくて兄貴にあるもの」
そう言ったのは、5番目だった。
5side
「あるだろ?
そいつになくて兄貴にあるもの」
全員が諦めモードになっているのが
見てられなかった。
「おにぃちゃん?
4番目のお兄ちゃんにあるのって…」
「お前にはさっき話してたな」
そこまで言って気づいたのか、
目が輝き出した。
「それって…!」
「あぁ、カンシだ」
「それだそれ!
カンシがいたじゃねぇか!」
「カンシ…?なんですかそれ?
監視…私の存在でしょうか?」
「カンシはオレたちの
世界で言うところの敵だ。
人じゃないものと融合できるのは
オレらの世界だけだろ?」
「…そっか、それじゃあ───」
「こいつのこと、
バラバラにちぎって殺してもいいって
ことだよね?」
そのとき、不気味な音が鳴り響いた。
カーン、カーンと鳴り、
兄貴はどんどん変形していく。
「一応おれたちの後ろにいろ。
もしお前たちまで狙われたら
たまったもんじゃねぇからな」
こういうとき、兄貴は頼もしい。
まぁ姿が見えるようになったのは
6番目を見送ったあとなんだけどな。
「!?な、なんだよお前!?
一四さんはどこいった!?」
「カズシハイマセン」
恐ろしい輪っかの手が
黒い服の人の方に伸びていく。
「わ、わかったよ
お前は一四さんじゃないんだな!?
わかりずらい格好してんじゃねぇよ!」
汚い捨て台詞を吐いて
その人は逃げていった。
「…よし、あいつは去っていったな。
4番目、戻れるか?」
「スコシジカンガカカリマス」
「それでも大丈夫だ。
よし!4番目が元に戻るまで
作戦会議続けるか!」
オレらは襲われることもなく
そいつを退治できた。
「…ありがとうね、5番目。
あなたの知恵がなければ
4番目は連れていかれてたわ。
このアホのせいで…」
「それはすまねぇけど、結果的に
引き留めたんだからよかっただろ?」
「それは5番目のおかげでしょう?
あなたのおかげではないわ」
いつも通り姉貴たちは喧嘩してるけど、
それは日常が戻ってきたと感じる。
いくらオレらを
殺そうとしてきたといっても
兄弟なのには変わりねぇし、
事情も知った。
なら、助け合うのが家族ってものだよな。
「あとちょっとだったのになぁ…」
2side
4番目の奪還を完遂し、
少し落ち着くことが出来た。
「まず、この世界のことを
知らなければいけないんだけど、
その前に服装を整えましょう」
「服装って言っても何着るの?
それに、確か服を買うには
お金がいるんだよね」
「あぁ、それは…」
「おれが持ってるぜ!」
全員が驚いた顔をする。
無理もないわね、
お金という概念が体内ではなかったから
持ってないはずなのに、
アホが持っている。
わたしも最初は混乱したわ。
お金の管理だってこいつだと
できなさそうだし。
「なぜかは分からないけれどお金はある。
このお金で服を買いましょう。
グループは女子と男子、
それでいいかしら?」
「そっちに男はつけなくていいのか?
チカン?だっけか?
そういうのが起こったとき
対応できるか?」
その点に関しては正直分からない。
わたしたちのような存在に
罪を犯す人がいるのかはわからない。
「じゃあ、おねにいちゃんが
お姉ちゃんたちについて
行ったらどうかな?」
「わ、私ですか!?」
確かに、この子は性別という概念がない。
女性特有のものも、
男性特有のものもない。
この子ならまだ安心かもしれない。
アホたちと違って紳士でもあるし。
「それじゃあ、あなたはこっちに
入ってもらうわね」
「は、はい!わかりました!」
結局、
わたし、3番目、タネ。
1番目、4番目、5番目、6番目
のグループで行動することになった。
利口な子達が集まってよかったわ。
服屋
やっぱりわたしたちと
同じような服装をしている人は
いないのか注目の的になっている。
そのせいか3番目は
ずっとソワソワとしていて、
固まってしまっている。
「こんなに見られているんだもの、
緊張するのも無理ないわよね」
3番目はやっと周りが
見れるようになったのか、
わたしの方を向く。
「大丈夫よ、わたしたちは
一人で来ているんじゃなくて
三人なんだから」
「そう…だね!うん!
ありがとうお姉ちゃん!」
この子がハイテンションじゃないと
なんだかムズムズするから、
治ってよかったわ。
…まぁ、そうはいいつつも、
結局どんな服を着ればいいのかしら?
1side
「よし!お前ら!
このおれについてこーい!」
「馬鹿なの?ねぇ?」
おれらは2番目たちとは
別行動で動くことにした。
今最大のミッションは、
服を買うことだ。
「服とかどこで売ってるんだろうな」
「僕、何となくわかるよ!」
「よし!お前ら6番目に続け!」
「前言撤回が早すぎる」
なんで6番目が知っているかは
さておき、情報があるのは有利だ。
正直服とかなんでも良くねとは思うが、
それなりの格好をしないと
周りから変な目で見られるのだろう。
現時点でそうだし。
「多分ここ!入ってみようよ!」
いつの間にか着いていたのか、
目の前には大きな建物がある。
「なんか…いざ入るとなると
緊張するな」
「そんなん気にしてたら
生きていけねーよ!」
おれは呑気に店の中に入っていく。
後ろから
「いや兄貴死んでるだろ」
とかいうマジレスが聞こえたけど
聞こえないフリをしておこう。
中は服がずらりと並んでいた。
「すげー!!!」
「恥ずかしいから黙っててくんない?」
興奮はするけれどやっぱり
興味をそそる服はない。
まぁ適当に選べばいっか。
全員が選び終わったところで
会計をする。
「兄貴、俺が行ってくる」
「あぁ?お前できるのか?」
5番目が会計をすると言い出し、
少し焦る。
だってここはお兄ちゃんであるおれが
かっこよく札束出すところだろ!?
そんな男性はかっこいいって
ママが言ってたし…。
「こっちのセリフだわ。
兄貴身長足りねぇだろ」
返しが的確すぎて言葉を失う。
確かにおれは未熟児だから
他の奴らよりも身長はちっさいけど!
それでも会計くらいは…!
そう思い、会計をする場へ行く。
相手は真正面を向き、無言だ。
「…5番目、任せた」
「意地はらなきゃいいのに…」
5番目がその場に立った瞬間、
相手は声のトーンが上がった。
「いらっしゃいませ!」
完全に媚びてるよなこいつ。
結局世の中は身長と顔なのか?
3番目とくっついたタネですら
おれよりでかいし…。
ま、まぁ!2番目の方がまだ小さいし!
一番下じゃないだけセーフ!
そう最低なことを考えつつも
自分を納得させ、
この場でのことを
気にしないようにした。
「会計終わったぞ」
「お、ありがとな!
よし!着替えるぞ!」
おれらは少し別れ、
別々で着替えることにした。
この世界ではそれが普通らしい。
おれらは世間の波に流されるしか
生きてく道はないからな。
5side
兄貴が会計するって
言ったときはビビったな。
明らかに店員も身長でガキだと思って
相手しようとしてなかったし。
まぁ服が買えればなんでもいいか。
俺は自分で選んだ服を着て、
鏡で実際の姿を目にする。
ママの中じゃ自分を見ることは
できなかったから少し新鮮だ。
「自分の姿わざわざ見るとか
どんな神経してんの?」
4番目の兄貴は
あんまり目立たなさそうな服を
着ている。
そりゃ今の時点で
もう注目浴びてるのに
これ以上だと爆発するもんな。
「ママの中じゃ自分の姿なんて
見ることできなかったんだから
別にいいだろ?」
「その思考回路が
わからないって言ってんの」
兄貴はやっぱり冷めている。
元々兄貴は俺たちを利用して
ママに復讐をしようとしていた。
利用するつもりだった相手と
すぐ仲良くしろなんて俺でも無理だ。
ま、6番目ならできたかもだがな。
「おにぃちゃん見て見てー!
かっこいい!?」
噂をすれば、だな。
「おう、かっこいいぜ。
さすがオレの弟だ」
6番目も意外と服のセンスあるんだな。
ママに会いに行ってから
開花した才能か、元々の才能か…。
どちらにせよ、とても似合っている。
さすがオレの弟。
なんなら何着ても似合うんじゃないか?
そんな思考と
同時並行で抱えていた不安。
それは1番目の兄貴のセンスだ。
いや、あの性格だろ?
子供っぽい服を選びそうなのが
今とても怖い。
まぁ、見て回ったときに
そこまでのものはなかったけれど、
それでも逆にそっちのセンスが
あるのかもしれない。
どんなに思考を巡らせても、
どちらにせよ不安なのは変わらなかった。
「着替え終わったぜ!」
そう言って兄貴は仕切りである
カーテンを勢いよく開ける。
「…はぁ?」
オレらは着替えたあと、
姉貴たちと合流した。
「お兄ちゃーん!!!」
手をブンブンと降っているのは
3番目の姉貴。
「3番目!似合ってるぜ!」
「えへへ、ありがと!
お兄ちゃんも似合っ…て…」
姉貴は言葉をなくしている。
まぁ無理もない。
兄貴はオレの予想の逆、
ファッションセンスが良すぎたんだから。
「お兄ちゃんってそんなに
センス良かったんだね…」
「あっは!ありがとな!」
「遠回しに馬鹿にされてたことに
気付かないんだね」
4番目の兄貴が黙っていた方が
都合のいいことを口に出した。
「うぇ!?そうなのか3番目!?」
「…えーっと…ね?」
「3番目ぇぇぇぇ!!!!」
長男とは思えない程泣いている。
そんなにショックなことか?
「お姉ちゃんたちは
解釈一致って感じだね!」
「あら、そうかしら?」
2番目の姉貴はなんだか不満げだ。
愛しの3番目と買い物できて
よかったことしかねぇのに、
これ以上何を求めるんだよ。
「あはは…多分、
お兄ちゃんに負けて悔しいのかも?」
そんな俺の雰囲気を
感じ取ったのか姉貴が話す。
「負けるって、何にだ?
姉貴の服だって結構似合ってるし、
特に競う要素なんてなくないか?」
姉貴は落ち着いた雰囲気に
マッチしているような服装をしている。
ファッションセンスが
なさすぎるわけでもないんだから、
何に負けたんだ?
「実はあの服ね、あたしが選んだの」
「…え?」
「さ、3番目!?ちょっと、…!」
2番目の姉貴が3番目の姉貴の口を
優しく塞ぐ。
だが、その優しさが命取りとなった。
「お姉ちゃんはお兄ちゃんの逆で
ファッションセンスなさすぎてさ〜…
絶対似合わないような服
買おうとしてたから急いで
止めたんだよね」
姉貴を見ると顔が真っ赤だ。
妹を溺愛した結果だな。
力加減をミスったのが失敗だろう。
「それ、
2番目の選んだ服じゃないのか?」
1番目の兄貴が口を挟む
兄貴は口が軽い。
オレの弟に何も考えずに
『頭悪そう』と言いやがったくらいだ。
姉貴にボコボコにされる運命しか
見えなかった。
「…だったら何?」
「あっは!その服も似合ってるけど、
お前の選ぶ服も見てみたかったな!」
「はぁっ!?」
姉貴の顔は見たことがないくらい
真っ赤で、多分いつもなら本人が
隠そうとするくらいだ。
兄貴は思ったことは遠回しに伝えずに
ストレートに言う性格だ。
そりゃあこんなイケメン発言されたら
困惑ですよね。
「ほんっときもい!
だからあんたはずっとアホなのよ!」
「なっ!?そんなことないだろ!」
いつもの騒がしい二人に戻った。
服は変えても性格は変わらない。
ある意味で良かったのかもしれない。
姉貴たちの喧嘩が一旦終了した。
十分間ずっと喧嘩とか飽きねーの?
しかも内容から考えると関係性
ケンカップルしかないだろ。
「とにかく服が買えたんだから
少しは自由がきくようになったし、
有効活用しないとでしょ」
4番目の兄貴が仕切り直す。
こういう場で役立つんだな。
「有効活用って言っても、何するんだ?
大きな変化も特になく、
街に溶け込みやすくなったくらいな
気がするんだが…」
「まずは4番目の言っていた
ドッペルゲンガーを解明する
必要があるわ」
「でも、お兄ちゃんの話でだと
お互いを視界に入れたら
片方が消えちゃうんだよね?
どうやって解明するの?」
「その盲点を突くのよ。
お互いを視界に入れたら消えるのなら、
お互いを視界に入れなければ
いいだけの話」
つまり、目を合わせずに
相手を観察しろってか。
することストーカーと
変わりないじゃねぇか。
「つまり尾行ってことだよね。
あたし、追いかけるの得意だよ!」
「隠れられなくてバレそう」
「そっ…そんなことないし…!?」
正直言いたいことはわかる。
姉貴がこの中で一番背が高いし、
追っかけと言っても恋愛のだと思うし。
存在感がデカすぎてバレる。
それがオレの予想だ。
「…ねぇ、あの…さ」
6番目がオドオドした様子で
こちらを見る。
「なんかあったか?」
6番目の様子は意見を言いたい、
でも今それを言うことが
正解なのかわからない。
そんな言いづらさを
抱えているように見える。
覚悟を決めたのか、
真剣な眼差しで俺らを見渡す。
「えっと…あそこの隙間に
1番目のお兄ちゃんが、いる」
その発言をした瞬間、
2番目の姉貴は1番目の兄貴の目を塞いだ。
「うおっ!おい!2番目?」
「ほんとはアホに触れるのも嫌だけど、
緊急事態だから仕方ないのよ」
オレらが視線を向けた先には、
オレらの兄貴とは違う、いや、
正確に言えば容姿は同じなんだけど、
性格が真反対の兄貴がいた。
オレらの兄貴は誰かに見つかったくらいで
慌てたりもしないし、
目を逸らしもしない。
そして決定打は、
兄貴はこんな静かじゃない。
「…あんた、誰?」
「ぅあ…えっと…あの…」
話にならない。
ずっと言葉に詰まっていて、
出てくる言葉はすべて単音。
何を言いたいのか
聞き取りもできないほどの声量だ。
「…早くしてくれない?
ボクたちはアンタなんかに
時間取ってる暇ないんだけど」
その言葉でそいつはやっと、舌を回す。
「二奈(ニナ)ちゃんは…やっぱり、
そういう男の方がいいの?」
「二奈ちゃん?って…誰のこと?」
「二奈ちゃんは二奈ちゃんだよ!
そ、そこの…
おれに似てるやつの目を塞いでる子!」
そいつが指した先は、
2番目の姉貴だった。
2side
冗談じゃない。
こんなアホと二人も
知り合いなわけないでしょ?
「やっぱり、そうなの?
おれみたいなヘタレよりもそういう…
陽キャの方が好きなの?
だって、そいつおれと
見た目変わらないじゃん。
それなら原因はおれの中身だろ?
そうなんだろ?なぁ?」
なにこいつ、ヒステリックでも
起こしてるんじゃないの?
「…お姉ちゃんは、
お兄ちゃんのこと好きなの?」
「好きなわけないでしょ、
こんなアホなんて大嫌いよ」
「なっ!?直接言われると傷つくぞ!?」
「アホ、うるさい」
こんなアホを好きになる
なんてどうかしてる。
わたしが転生したとしても
ないでしょうね。
「なんで…?二奈ちゃんから
告白してきたじゃん…!
おれ、そのときの二奈ちゃんの顔と
告白の言葉一言一句全部
忘れたことないよ…!」
「こ、告白って…お姉ちゃん、
お兄ちゃんと付き合ってたの!?」
「こんなアホと付き合うわけないでしょ」
もちろんそんなの記憶にない。
っていうか、告白してたとしても
わたしは『二奈』じゃない。
…でも、もしちゃんと
ママに会いに行けてたら…。
そのときは、『2番目』じゃなくて
『二奈』だったのかもしれないわね。
…さて、雑談はここらにしといて、
こいつを追っ払わないと。
「なら試しに言ってみなさいよ。
わたしは言った記憶なんてないから」
向こうのアホは一息吸った。
「『一生(イッセイ)君は教室とかでいつも一人だったよね。あ、もちろん馬鹿にしてる訳じゃないよ!?ただね、一匹狼って言うのかな、一人孤独な狼さんって考えたら、なんだか可愛く思えてきちゃって。教室から外眺めるときの憂いげのある顔とか、趣味のお話してる時とか…一生君の全部が好きです。わたしと付き合ってください。』って時々顔赤らめながらおれに告白してくれたじゃん!おれ、ずっと、ずっと覚えてて…!」
「なにそれ、きも…」
告白の言葉。
アホの必死さ。
一息で言える文の長さ。
異常な記憶力の良さ。
全部がきもい。
「…お前、誰だよ!?
二奈ちゃんは『きもい』
なんて言葉言わない!」
「あら、やっと気が付いたの?
それに、なんだか責められてるような
雰囲気だけどそっちが勝手に
勘違いしただけでしょう?」
そいつはまた黙る。
「用がないならさっさと
どっか行ってくれ。
オレらはすることがあるんだ」
「お、お前みたいに
ハーレム築こうとしてるやつが
後々痛い目見るんだからな!ばーか!」
そう捨て台詞を吐いて、
この場を逃げるように去っていった。
1side
目の前が一気に明るくなる。
暫くは目が慣れず、瞬きを何度かする。
「なんだったんだろう?あの人…」
「多分あれが、
ドッペルゲンガーなんでしょうね」
視界は塞がれてたが聞いていた限り、
おれの偽物が出てきたらしいな。
「2番目ありがとな!
塞いでくれなきゃ
多分おれ目開けてたぜ!」
「そのまま死ねばよかったのに」
「あー?塞いだの2番目だろ?」
「うるさい、死ね」
「はぁ!?」
これがいわゆる
『ハンコーキの娘』ってやつ?
まぁよくわからないけど
とりあえず命の恩人ってことだもんな。
もし2番目の前に偽物が出てきたら、
お兄ちゃんとして守ってやらねぇとな!
「そういえば、
結局『二奈』って誰なんだろう?
お姉ちゃんのこと指してたよね」
「ドッペルゲンガーの
わたしのことじゃないかしら。
ほら、4番目は『一四』
って言われてたし、
多分あのアホは『一生』って名前」
「じゃあオレたちにも
こっちの世界での
名前があるってことか…」
こっちの世界での、名前…。
「…『一生』、か」
「何か引っかかりますか?」
「…え?おれか?」
「もー、今の発言で
お兄ちゃん以外に誰がいるの?」
おれは気付かぬうちに
声に出していたらしい。
「それで、『一生』って
名前に何か引っかかることでもあるの?」
「あっは!別にそこまで深くは
考えてねぇよ!ただ…」
おれは言い淀む。
「お兄ちゃん?」
「…いや、なんでもねぇよ。
ただ少し考え事してただけだ。
お前らには関係ねぇよ」
「その考えを教えろって言ってんの。
やっぱり未熟児だから
そこまで頭回んない?」
「よ、4番目…!
そこまで強く言わなくても…」
「事実でしょ」
ごめんな、4番目。
でも、言えない。
こんな、お前…いや、
お前らを傷つけてしまうような思考。
おれらがもし生きてたら
こういう名前だったのかな、なんて…。
復讐を考えてたおれが、
今でも復讐したいお前に、
言えるわけねぇよな。
「夜も近づいてきたし、
そろそろ移動しようぜ。
ホテルっつーところに
行ければいいんだけどなー」
話を打ち切るために寝床の話題を出す。
周りを見ると納得してない人が過半数。
あっは、許してくれよ。
長男なりの気遣いなんだ。
「…着いてきて」
6番目がまた先陣を切る。
雰囲気が少し違うが、まぁいい。
この中で唯一ママに、
ちゃんと会いに行けたのは6番目だけだ。
生まれた後のことはよく知らないが、
きっと幸せに生きているんだろう。
…まぁ、そんな6番目が
なんで元の姿になって
おれらと一緒にいるかは
わからないけどな。
とにかく今は、
着いていく以外の選択肢がなかったため、
おれらは大人しく着いて行った。
6side
何かに惹かれるように足が動く。
これは僕の意思なんだろうか、
それとも誰かの魂が入っているのか?
僕の身体なのに、わからない。
「あ…」
気付くと目の前には、
普通のホテルがある。
前には誰もいない、後ろには沢山いる。
僕が先導したんだ。
一番下なのに、人生の先輩みたいだ。
「…着いたよ」
道は僕もよく覚えてないけど、
明日はきっと新しい道を進む。
きっと大丈夫だろう。
「えっと、
…七名今から入れる部屋って
ありますか?」
「すみません。
現在満室となっておりまして…」
「そうですか、わかりました。
ご親切にありがとうございます」
空室はなかった。
今日は野宿かなー。
「いえ、またのご利用を…
え?キャンセル?」
どこでやり過ごそうかな、森とか?
でも動物とかに襲われそうだな。
「あの、お客様!
四名様のご予約だったお部屋が
空いたのですが…いかが致しますか?」
「え?あ、お、お願いします…」
「それではこちらがお部屋の鍵です。
ごゆっくりお過ごしください」
…部屋、とれちゃった。
野宿覚悟だったんだけど…
諦めないのって大事なんだなぁ。
「部屋、空いてたか?」
おにぃちゃんが僕に問いかける。
「最初は満室だったけど、
途中でキャンセルが出て部屋取れたよ。
でも、元々四人の部屋だから
結構狭いかも」
「泊まれるだけ感謝、
ということでしょうか」
「そうだね!
あたしは別にタネさんと一緒でも
気にしないし!」
「そう言ってもらえて嬉しいです」
仲良いなぁ、お姉ちゃんとタネさん。
それに比べて、
1番目のお兄ちゃんと
2番目のお姉ちゃんは…、
「こんなアホと一緒とか死んでも無理」
「あっは!
もう死んでんだから関係ねぇだろ?」
…一周まわって仲がいいのかも…?
「はぁ…外で寝るよりマシか」
4番目のお兄ちゃんは
乗り気じゃないらしいけど。
「とにかく、部屋に行こ!」
立ち話もしすぎた。
個室に行った方が
会話を聞かれる心配も減る。
…みんな急いでよー!
3side
あたし、こういうの憧れてたんだよね!
みんなでお泊まり!みたいな!?
正確に言えばみんな家族だから
お泊まりじゃないんだけど…。
それでも、みんなと寝てみたかった!
「四人部屋と言えど、
ベッドは二つなんだな…」
「分け方どうする?多分、
一つのベッドに
三人が最高だと思うけど…」
「ボクはこの椅子で寝る」
「えぇ!?4番目も
同じところで寝ようよ!」
「そうすることで
なんかいい事でもあんの?」
「うーん…寝起きが安心?」
「ボクは一人でも平気」
「あたしは心配!」
ぐぬぬ…4番目とも
一緒に寝たいのに〜…。
「ならくじ引きで決めようぜ!」
「なんでわたしが
こんなアホなんかと…!」
「あっは!
こればっかりは運だから恨むなよー!」
「ねぇボクを挟んで
喧嘩しないでくれない?」
「一つのベッドに四人は
流石にキツくないか…?」
「えへへ、僕がおにぃちゃんに
ぎゅってくっついてるから大丈夫!」
「ならあたしもタネさんと
くっついてよーっと!」
「やはり、少し恥ずかしいですね…」
分け方としては結局
お兄ちゃん、お姉ちゃん、4番目。
あたし、タネさん、5番目、6番目
の分け方をした。
「はぁぁぁ…寝るわよ」
そう言ってお姉ちゃんは
部屋の電気を消す。
やっぱり、何だかワクワクするなぁ。
でも、この暗さは
カンシを思い出すかも…?
いや、今はみんないるし、大丈夫だよね!
さてと、寝よ!
数時間後
『ほんっとにあんたと相性合わないわ!』
『はぁ?こっちのセリフなんだけど?』
「な、なんの声…?」
流石に声が大きすぎて目が覚めた。
なんだか、少し怖い。
「大丈夫ですか?」
「タネさん…」
タネさんは眠そうな目を擦りながら
そう聞いてくれた。
「ごめんね、起こしちゃって」
「いえ、気にしてませんよ。
それよりも、何かあったんですか?」
「…隣の部屋の人かな?
声が大きくて目が覚めちゃったみたい」
「…それなら、
私があなたの耳を塞いでおきますね」
そう言われて
タネさんは耳をカバーするように、
優しく手でかぶせた。
嫌とは感じない、
でも、恥ずかしさは少しあるかも…?
「…ありがとう、タネさん」
「いえ、良い夢を見ることを願っています」
そんなタネさんの声に安心して、
あたしはもう一度眠りについた。
さっきの声が聞こえても
もう起きないような、深い眠りに。
『瑚種…だからあんたはいつまで経っても
彼女できないし、クズなのよ!』
『三恋、そのセリフ
そっくりそのままお返しするよ』
翌日
あたしたちはホテルで寝て、
次の日に街へと出た。
「すっげぇ!
ママの中になかったものが
たくさんあるぞ!」
「ガキみたいにはしゃいでんじゃねーよ…」
「あはは!お兄ちゃん楽しそう!」
お兄ちゃんだけがハイテンションに
街中を見渡しているように見えるけど、
実はあたしも内心ワクワクしすぎている。
あたしは生まれて生きるどころか、
みんなと違ってママに会いに行くことすら
できなかったから、お兄ちゃん以上に
ワクワクしてるんだよね。
綺麗な街並みを個人的に堪能していたら、
いつの間にかお兄ちゃんの声も
聞こえなくなっていた。
不思議に思って周りを見渡すと、
お姉ちゃんも、タネさんも、弟もいない。
これがいわゆる迷子ってやつ…?
一人ってこんな寂しかったっけ?
前はいつもタネさんかお姉ちゃんと
一緒にいたから、
孤独なんてあんまり感じたこと
無かったし…。
こういう知らない場所の方が
一人になるのって怖いんだな。
最初ここに来たときに
一人ぼっちじゃなくて
本当に良かったかもしれない。
「…あれ?」
人混みの奥の方に見覚えのある
後ろ姿が見えた。
でも、少し雰囲気が違う…?
「とにかく、合流できてよかった!」
そう思い込み、あたしはその人に
話しかけに波の流れに逆らいながらも
進んでいく。
「タネさん!ここにいた、んだ…ね…」
振り向かれたその顔は
あたしの大好きな
タネさんそっくりだった。
でも、違う。
タネさんはいきなり
話しかけられたからって
こんな機嫌悪そうな顔はしない。
「んだよ…お前が
どっか行けっつったくせに
追いかけるとか脳みそ
どうなってんだよ」
口調も違う。
「おい、お前聞いてんのか?」
タネさんはお前なんて言わない。
「あなた…誰なの?」
泣きそうな声を我慢して問いかける。
ドッキリでした、
そんな優しい声をあたしは期待している。
そう信じないと、立ち直れない。
「なんだなんだぁ?
今度は悲劇のヒロインごっこかぁ?
そうだな〜…うん。
顔はタイプだけど
中身がゴミだから無理だな。諦めな」
初めての感情が込み上げる。
今まではあまり感じてこなかった、怒り。
「もう話しかけてこないで!」
あたしは弱いから
ここでもう逃げ出しちゃった。
これ以上タネさんに嫌われるなんて、
嫌だから。
タネside
「あの子、どこいっちゃったのかしら…」
私たちは今、迷子になってしまった
3番目さんを捜索中です。
「すみません…
私が少し目を離してしまって…」
「あっは!
タネがそこまで気にする必要はねぇよ!
3番目だってそこまで
ガキじゃねぇんだからな!」
「どっかのアホとは違ってね」
「は、はぁ!?どういう意味だよ!?」
「喧嘩してんじゃねーよ。
今は姉貴探すことだけを
考える時間だろ?」
「…きも」
「正論言っただけなんだけど?」
「おにぃちゃん!喧嘩しちゃダメ!」
「弟さんの言う通りです。
今は3番目さんの捜索のみ考えましょう」
お姉様の機嫌が少し悪いのが
見てわかってしまう。
きっと、彼女を大切に思っている証拠
なんでしょうね。
「…?おねにいちゃん、
後ろから人が──」
そう教えてもらってすぐに後ろから
思い切り引っ張られる感覚がした。
「──…さ、3番目さん…?」
容姿は彼女そのものだと
言えるほどに似ている。
けれど、顔つきが全く違う。
彼女はこんなに目が鋭くなかった。
ゴミを見るような目を
したことがなかった。
「…3番目、?大丈夫?」
「あんた、あたしと分かれて
すぐにナンパとはいい度胸してんね。
あたしなんか眼中に無いってこと?」
口調も違うし、彼女は
相手のことを『あんた』とは呼ばない。
「あ、あの…多分、人違いかと…」
「ハイハイそういうのいいから、
やっぱりあたしがいないと
ダメなんじゃないの?」
私はそう言われ、その方は視線を逸らし、
2番目の方へ告げる。
「なんか勘違いしちゃったらごめんね〜?
でもこいつさぁ、
あたし以外といざ話すってなると
ほんっとゴミ以下のコミュ力してるから
変な期待しないでおいた方がいいよ〜?」
これは…俗に言う牽制、
というやつでは…?
そんなことが脳裏によぎるけれど、
私はこの方を知らない。
「本当にすみません…
多分、人違いだと思います…」
そう言って、
その方は私のことをジロジロと見る。
「…違いっつったら、
口調くらいしかねーんだけど。
そんなもんいくらでも
偽装できるからなー」
偽装、と言われましても…。
私にとって、
敬語は癖なので直せませんし…。
「…あなた、名前は?」
「え…?」
2番目の方がこの方に
名前を聞くということは、
やはり本人では無いのでしょうか?
「はぁ?なんであんたなんかに
教えなきゃいけないわけ?」
「あっは!それもそうだよな!
いきなり知らないやつに
話しかけられても気まずいしな!」
1番目の方がそう仲裁した瞬間、
首の向きが勢いよく変わる。
「え待ってイケメンじゃん
あんた名前は?年齢は?
住んでるところは?連絡先教えて!」
「お…おぉ…?」
その方はお兄様の手をぎゅっと握る。
普段そのようなことは無いのか、
お兄様も混乱している。
それでも、意外な方が動いた。
「これってあれでしょ?
いわゆる面食いってやつ。
こんな未熟児にいい所なんて
あるわけないし」
4番目さんは言葉にトゲはありつつも、
1番目の方を庇う言い方をした。
「え…!?一四さんもいるの!?」
「アンタ、早くどっか行かないと殺すよ」
「あははっ、ジョークがこわーい!」
その方は4番目さんのお話を
冗談としか思ってなさそうに見える。
「…今思うとそんな中に
瑚種がいるわけないよね。
めっちゃ似てるからビビったわ」
そう私にその方は向かって言う。
「じゃあね〜!」
嵐のようにきて、去っていった。
もう姿も見えなくなってきたところで、
口を開く。
「あんな性格悪いのが
3番目なわけないでしょ」
皆さん同意見なのか、頷いている。
「やっぱり、
お姉ちゃんの性格と真反対だね」
「そうだな。
1番目の兄貴は大人しかったし、
さっきの姉貴はクズが全開だったしな」
性格までもが同じだったら
見分けがつかなかったかもしれない。
そう考えるだけでも鳥肌が立つ。
「彼女とあの方が遭遇して、
目を合わせないことを願いたいですね…。
消えてしまうなんて、嫌ですから」
「へー、目合わせたら消えるんだ。
…あははっ!おもしろそーなこと
思いついちゃった!」
3side
結局、タネさんと喧嘩しちゃったから
元に戻ることも出来なかった。
あたし、言いすぎたかな。
でも、あっちも悪いよね。
あたしのこと、ゴミって…。
そんなこと言われたの、
あたしが溶けて消える前に
ママから聞いた以来だな。
あたしは要らない子。
そんなことは最初からわかってた。
じゃなきゃママはあんなこと言わない。
ママの顔、見てみたかったなぁ。
でも、タネさんがいてくれたから
悲しくもなかった。
代わりに弟が会いに行ってくれたしね!
「…3番目さん!」
ふと、後ろから声が聞こえた。
視線の先にはさっきのタネさんがいた。
「…さ、さっきはごめんね。
あたし、言い過ぎちゃった」
「…大丈夫だ…ですよ!」
タネさんの口調に違和感を覚える。
「タネさん…?えっと、それで何か用?」
「あぁ!少し3番目さんに用があって!
着いてきてもらいたいんだけど」
タネさんはいつも敬語で話す。
でもこのタネさんは砕けてる口調だ。
まるで、
さっきのタネさんみたいな───。
「───あなた、誰…、?」
??side
はぁ?もうバレたの?
いや、まだ隠せるかもしれない。
「何言ってるんですか?私ですよ」
「じゃあ、名前は?」
んな事聞いたところで
なにになるんだよ、めんどくせぇな。
なんだっけ、こいつ私のこと
タネさんとか言ってたっけ。
「私はタネですよ、3番目さん」
「…じゃあ」
何回聞いてくるんだよしつけぇな。
「あたしの兄弟の名前…全員言える?」
言えるわけねぇだろ、バカかよこいつ。
「…はぁ、ここまでだな。
めんどくせぇ…」
そう言って、電話をかける。
「…あ、もしもし?
私だけど、失敗したわ」
『はぁ?使えなさすぎでしょ!
もうちょっとあたしの役に立てよ!』
「うっせーな、
もっと女らしさ出しやがれ」
そんな痴話喧嘩をしている隙に
逃げ出そうとしてるやつを捕まえる。
「こいつどうする?失敗したから殺す?」
『…今この電話ってスピーカー?』
「違うけど」
『スピーカーにしてよ!
その子に言いたいことがあるの!』
こいつが我儘言い出したら
もう一歩でもこいつは譲らない。
そんな経験を私は山ほど積んでる。
「あい、スピーカーにした」
『聞こえてるー?もう一人のあたし?』
「な、え…失敗、って…?」
『そゃあ困惑するよねー!
今ここに、君のところの
瑚種がいるんだよね』
「こたね…?そ、それって…」
『うーん…君の今隣にいるやつの
ドッペルゲンガー!
今すっごく弱っててさー、
今虫の息なんだよね。
このまま殺しちゃってもいいんだけど、
どうせなら楽しみたいじゃん?
だから、君が消えるとこ
見せてあげようと思ったんだけどー、
失敗しちゃった』
「…場所は?場所はどこなの?」
『んーっと…──倉庫の中だよ』
『3番目さん!来ては行けません!』
そう電話口から聞こえた瞬間、
そいつは飛び出して行った。
私にそっくりな声のやつには
聞く耳も持たずに。
「はぁ!?待てよおい!」
ちっ、逃げ足が速いやつだよ。
『あんたは黙ってて。
…瑚種、逃げられたでしょ?』
「黙れ」
『あはは!お前も来る?
絶望する自分の顔が見れるよ!』
「行くかよカスが」
私は電話を切った。
それにしても大誤算、
まさか逃げるなんてな。
いや、多分あれは迎えに行ったー
とかのだと思うけど。
そんな友達一人の為だけに
命かけるとか、私には絶対無理だな。
??side
「勝手に通話に入ってきちゃダメだよ。
それに、自分のために命かけて
走ってきてくれる子とか
そうそういないよ?大切にしなね〜。
ま、この後消えちゃうけど」
「…何が目的ですか」
あたしはさっきこっそり拉致った
瑚種の偽物を監視している。
正直瑚種の顔面は
めちゃくちゃどタイプなんだけど、
性格で減点されてる。
でも、こっちの瑚種は性格もいいし、
顔も変わらない。
こんな最高な獲物、逃すわけなくない?
「そういえば、
なんであたしがその…3番目?だっけ。
そいつと違うことに気づいたの?」
拉致る前にデートできるかなーとか
考えてたんだけど、
なんか途中でバレたんだよね。
「それは……
あなたのすぐそばにいた方が
道に迷っていたときに、
見えているのに見えていない振りを
していたからですね」
「別にふつーじゃん。
面倒事には巻き込まれたくない性格なの」
なんでわざわざ途中にいたおっさんに
道教えなきゃいけなかったの?
それこそ意味がわからない。
「彼女は、
困っている方を簡単に
見捨てられない方ですから…。
男女問わず、全員に優しいのです」
「ふーん…だからそっちのあたしは
命捨ててでもあんたを救いにくるんだ」
「いつもは私の話を
聞いてくださるんですけどね…」
あたしは少し、嬉しく感じた。
「そんなので良くあたしが
別のあたしってことに気づいたよね」
「ど、どういう意味で…」
「そいつも変わらないじゃん。
聞こえてるのに聞こえてない振りをして
あんたを助けに来てる。
あたしが無視したのと何が違うの?」
「それは、
なんのために行動してるかが──」
「でも、無視したのには
変わりないよね?」
おっと、ぐうの音も出ないかな。
ここで最後のひとさし。
「まぁ、あんたの声が届いてたとしても、
そいつは来るだろうね。
だってそいつは───」
あたしはわざと間を開けて、
ゆっくり言ってやった。
「困っている方を簡単に、
見捨てられないんだもんね?」
3side
タネさんが虫の息?殺す?何の話?
よく分からなかったけど、
とにかく走らなきゃって思った。
あたしが一人のときに
ずっとそばに居てくれたタネさん。
なのに今は離れ離れなんて、嫌だ。
勢いよく倉庫の扉を開ける。
「タネさん!」
「3番目さん!何を言われても
私だけを見ていてください!」
目が合って一番最初に
言われた言葉がそれだった。
「それってどういう…」
『3番目さん!後ろ!』
「後ろ…?」
「見ちゃダメです!」
遅かった。
目が合った。
お互いを視野に入れてしまった。
身体が溶けていく感覚がする。
懐かしいな、
6番目に脳を渡したときのことを
思い出す。
お兄ちゃんのかくれんぼに
付き合ったり、
お姉ちゃんが楽しそうに話す姿、
4番目の憂いげな目、
5番目の少し呆れた顔。
一気にみんなとの思い出が
浮かび上がる。
消えるっていっても魔法みたいに
パッと消えるわけじゃないんだな。
「3番目さん!私を!
私を見てください!
こちらを向いてください!」
それでもあたしは、目を向けられない。
向けられなかった。
まるで、催眠術にでもかかったように。
「あはは!ちょろいね、
そっちのあたし!
この声は瑚種だし、
目の前にあんたにとっての本物がいるし。
パニックで判断力が
低下しちゃったのかな?」
タネさんはあたしの目を塞いで、
優しく全身を包んだ。
「…私は、あなたを失いたくありません」
あぁ、もうちょっとで消えちゃう。
もっと、話したかったな。
「あたし、みんなと生きてるみたいで、
この世界楽しかったよ。
だから、後悔はない。ないけど…」
もう出なくなりそうな声でも、
涙で上手く発音できないのを
堪えて伝える。
「タネさんと、もうちょっとだけ…
一緒にいたかったなぁ…」
じゃあね、みんな───
──大好きだったよ。
タネside
あなたはいつまでも、優しい方です。
そんな人を、守れなかった。
不甲斐なくて、
今すぐにでも逃げ出したい。
ここで消えてもいい。
でも、このことは伝えなければならない。
彼女を愛していたみなさんには、
伝えなきゃいけない。
私が消えるのは、そのあとにしましょう。
「ねぇ、あんたの彼女、消えたよ。
あたしならそいつと顔も
一緒だから不自由ないと思うんだけど?」
私はその方を横目に、
この空間から出ていく。
「犯罪者なんかに惹かれはしません」
舌打ちが聞こえても気にしない。
報告をするためだけに、私は走った。
そこには
休憩しているであろう方々がいた。
お兄様たちは兄妹喧嘩、
弟さんたちはじゃれ合い、
4番目さんは…カンシと
会話でもしているのでしょうか?
姿は見えない。
この雰囲気のまま知らせるのは愚策だ。
何とか和ませてからの方が
いいと思ったが、
期待をもたせるのもそれはそれで
嫌だと思った。
「彼女は、消えました」
私の少ない一言。
たった、そんな一言。
それだけで場は凍りついた。
「消えたって…迷子って意味かしら、
あの子は好奇心旺盛だもの。
それくらいは視野に
入れとかないとだったわね」
「ドッペルゲンガーを
お互いの視野に入れ、消えました」
「…お前は、どうしてそんなに
余裕そうに言えるんだ」
私もこの後消えて、
彼女に会いにいくから。
そんな都合の悪いことは言えなかった。
「私と彼女は一心同体だから…ですかね。
元々この身体も彼女のものです。
私がお借りしているだけなので、
返さないといけませんからね」
もちろん私も彼女の消えた原因を
詳しく言うのは胸が痛む。
なぜなら、私が殺したも同然だから。
私が、あの方なんかに
巻き込まれなかったら、
きっと彼女は生きていた。
生きることの出来なかった人生を、
生きることが出来た。
もっと、そんな経験をしてほしかった。
こんなことを今更願ったって
叶うとは思わない。
それは、
ママの中でたくさん願ってきたから。
彼女が生きて産まれることが
できますように。
何度願ったか。百は願ったに違いない。
それでも叶わなかった。
だからこそ、
今という時間を楽しんでほしかった。
「あの子とは…もう、
会えないってこと…?」
「…心苦しいですが、恐らく…」
2番目の方は泣き崩れた。
姉という威厳を感じないほどに泣いた。
しかし、こうでもしないと
2番目の方は私と同じ手段をとるでしょう。
それは彼女が悲しんでしまうから、
なるべく避けたい。
避け切れるとは限らないけれど。
「でも、これでようやくわかったよね」
さっきは見ることも出来なかった
4番目さんの姿が見える。
「わかったって…なにが?」
「お互いを視認すると、
本当に消えるってこと」
そう、私たちは油断していた。
この何億人といる人口のうち、
自分と全く同じ人に会うわけがない。
そう心のどこかで誰もが思っていた。
「…あいつの犠牲を、
無駄にしないように生きようぜ」
そうですね、と
賛同することはできなかった。
「私は少し、散歩をしてきます」
とにかく一人になろう。
巻き込むわけにはいかないから。
「待て、オレも行く」
「いえ、心配しなくても大丈夫ですよ」
5番目の方の意見を
無下にしてしまったのは
申し訳ないけれど、仕方がない。
私は皆さんを背に向け、歩き出した。
「3番目…?」
私はあの方のいた倉庫へと向かった。
重たい扉を開いた先に、その方はいた。
なぜ移動しなかったのか?
気にはなったけれど、
今はどうでもいい。
私にはするべきことがある。
「あんたは…どっち?
瑚種?それとも偽物?」
「あなたの言い方で答えるなら、
偽物の方ですね」
皮肉を交えて言葉を発する。
こんな姿、彼女が見たら
どんな反応をするでしょうか?
「やっぱりあたしの方が
良かったって気づいたってことだよね!
でもあたし、
告白は絶対向こうからって
決めてんだよね。だからしてくれる?」
はいともいいえとも答えず、
私は口角を上げて近付く。
大丈夫、成功する。
私の復讐は、失敗しない。
??side
運が回ってきたなー!
瑚種の顔で性格がいい、
なんて好都合すぎる。
裏があるんじゃと疑っちゃうくらい。
でもこんなのに限ってないでしょ、
そんなのは。
偽物の瑚種が近付いてくる。
これ、キスされるやつじゃない!?
告白の前にってこと!?
断られたらどうするんだろ。
でもそんなのどうでもいい。
男を手に入れられるってだけで
あたしは人生勝ち組。
正直瑚種の性別って
よくわかんないけど、まぁ男でしょ!
そんなことを考えながら目を閉じて待つ。
時間が長いな、とは思った。
でも、初心者なんだと思えば平気だった。
そう、思っていた。
突然、息が吸えなくなった。
正確に言えば、
吸えはするけれど、落ち着いて吸えない。
まるで、
首を絞められているような感覚が
喉元を襲う。
「ぁ…」
声も出ない状態に驚きつつも
必死の思いで目を開けると、
怖い顔をした瑚種がいた。
見たこともない顔だった。
そんな瑚種にムカついて反抗したが、
それでも女と男。
向こうの方が断然力が強い。
やばい、死ぬかも。
そう直感的に思った。
あんまりこういう手は
使いたくなかったけど仕方がない。
命に代えられるものはない。
「…タネ、さん…?」
少し力が緩まった。
よし、動揺してる今に漬け込むしかない。
「また会えたのに…
あたしまた消えちゃうの…?」
偽物の瑚種の顔が歪む。
あたしとあたしの偽物を
別のものだともう一回自分に
信じ込ませようとしてるって感じ?
それはまずい、でも
あたしもそこまでバカじゃない。
そうなる前に終わらすよ。
「あたし…ずっとタネさんと
一緒にいたかったんだけどなぁ…」
偽物の瑚種の表情が変わる。
「…3番目、さん…」
あ、やっと話した。
これは勝ち確だよね〜。
そう思って、気を抜いてしまった。
「もう、一人にはさせません」
「タネさん…!」
「ですが──」
…ですが?
あたしはきょとんとしてしまった。
「あなたを消した張本人を、
消さないわけにはいきません」
「……!」
首に加わる力がさっきよりも強くなった。
まずい、これじゃあ本当に死ぬ。
…声も出ない、視界も悪くなってきた。
「この方を消してから、
私はあなたに会いに行きます。
大丈夫です、心配いりませんよ」
…あー、そういうこと?
あたしに対する復讐ってわけね。
騙されちゃったなーあたし。
てか色仕掛けとか瑚種めっちゃやりそう。
こいつ、本当は本物…?
そんなことを考える間もなく、
視界が遮断されていく。
「痛…」
あたしは突然喉元を開放された衝撃に
耐えられず噎(ム)せた。
「何してんのお前?」
あたしにそう声をかけたのは、
本物の瑚種だった。
タネside
あと少し、という所でしくじった。
まさかのこの世界の私が来るなんて
思ってもなかった。
突然の出来事に脳の処理が追いつかない。
でも、目を合わせなければ私は消えない。
目を合わせずに、この方を消せば…。
「とにかくさぁ、
あんたとりあえず消えてくんね?」
私と少し違う、同じ声が聞こえる。
私に話しかけてるに違いないことは
明白だったため、私は反応しなかった。
「無視しちゃダメって、
ギムキョウイクで習わなかったのか?」
「…ギムキョウイク…?」
聞き馴染みの無い言葉だ。
きっと、弟さんなら
理解ができたのでしょう。
なんせ彼は、
ママにあいにいくことができたのだから。
「…ちっ、無視してんじゃねぇよカス」
そう言われ、
髪の毛をぐしゃっと持ち上げられる
感覚がした。
反射的に目を瞑る。
目を合わせたら
消えてしまうかもしれない。
これが最善策だ。
「…はっ、
最後に見れる景色が真っ黒なんて、
可哀想な私だな」
そう言われ、目に光が入る。
身体に力が入らなくなった。
「なんっ…で…」
私の身体は、溶け始めていた。
「なんでこうなったかわかんねぇって
顔してるな。
なら、優しーい瑚種さんが教えてやるよ」
そう言われ、
私は後に聞く原因に驚きを隠せなかった。
「目瞑られてても無理矢理開ければ
お互いを視界に入れられるだろ?」
なんて、クズなんだろう。
私はこの方と姿が同じだなんて、
恥ずかしいと感じる。
「後ちょっとで消えちゃうな、お前」
みなさん、すみませんでした。
私が身勝手に行動したばっかりに。
どうか、みなさんは───
ご無事に、この世を生きられますように。
瑚種side
「何してんだよお前」
自分が消えたところで、
そこでぐったりしてる奴に話しかける。
「黙れ、死にかけたやつにかける言葉
第一声それかよ」
「仮にお前が窒息死したところで
疑われんのは私だろ?
犯罪者になるよりかはマシだよ」
指紋まで一緒かどうかはわからないが、
もし同じだった場合、
疑われるのは絶対に私だ。
「ところで、
なんでお前油断したんだよ?
学校じゃ『負け知らずの三恋(ミレン)』って
呼ばれてるくらいのお前がよ」
こいつはこれでも勘がいい。
瑚種かタネかなんて
分かりそうなもんだが。
「あたし、瑚種の顔面だけは
好きだからさ、
同じ顔して性格のいい瑚種がいるって
知って彼氏にしないわけなくない?」
「ゴミだなお前」
「なんとでも言いなよ負け犬」
「絞殺されかけたやつが
負け犬を私に宣言してんじゃねぇよ」
ま、一件落着か。
さーてと、
三恋以外にいい女いないか探すの
再開するか。
5side
まさか、タネまで消えてしまうなんてな。
オレはこっそりタネを尾行していた。
そのときの挙動は、
怪しい以外の何物でもなかった。
とりあえず、一旦戻ろう。
情報共有が先だ。
戻ってきて、オレの方を見てきた姉貴は
察したのだろう。
オレは姉貴達に
「タネを追いかけて連れ戻してくる」
と伝えていた。
そのタネがこの場にいない。
それが、何よりも失敗を感じさせていた。
「わたし…また、あの子のことを
守れなかった…お姉ちゃんなのに…」
そう嘆いている姉貴からは、
3番目の姉貴に対する
溺愛っぷりが伝わる。
だからこそ、
生きる気力を失っていそうだった。
「仕方ない。
ここからはオレたちが主に動こう。
1番目の兄貴は姉貴の介護をしてくれ」
相性が合ってるのかはわからないが、
姉貴に妹ができるまで
話し相手だったのは恐らく
1番目の兄貴だから、適任だとも思った。
「任せろ」
これで少しは整った。
「今一番の問題は食料の不足だ。
だから、4番目の兄貴とオレ、
それから6番目で集めるぞ。
姉貴は動けそうにないから、
1番目の兄貴と留守番だな」
「気をつけて行ってこいよ」
「僕たちなら大丈夫だよ!
お兄ちゃんもお姉ちゃんが
元気になれるように頑張ってね!」
「おう!任せとけ!」
オレ達は一度、この場を離れた。
2side
どうして…なんで…?
なんでわたしから3番目を奪っていくの?
あの子は大切な私の妹なのよ?
それに…3番目と
くっついたタネも消えた。
この世に『3番目』という存在が
完全になくなってしまった。
そう考えるせいで、
余計に立ち直れなくなる。
「…あっは、元気出せよ!
それに……正直おれは、お前の気持ちは
少ししか理解できない」
は?
なにそれ、
3番目が消えても別に良かったってこと?
「きもいのも
いい加減にしてちょうだい。
わたしが今どんな気持ちか
わからないの?アホだから?」
そう言うと、アホは焦って言い訳をした。
「もちろん大切な妹だぜ?
消えたのは結構ショックだったよ。
でも、アイツはお前に懐いてたからな。
お前の方がダメージが
でかかったってことだ」
「…だから、気にすんなって?」
「ん〜…難しいな。
気にしなさすぎるのも良くないし、
気にしすぎるのも良くな…ん?」
自分で言っといて自分で混乱してる。
やっぱりアホね、こいつ。
「と、とにかく!
悲しみは心の内のどっかには
絶対入れといて、
次に進まなきゃ意味がねぇってことだ!」
アホがなんだか良さそうなことを
言ってることに驚いた。
「…そうね」
でも、その通りだと思った。
これで3番目に会ったときに
「かっこ悪い」なんて言われたら、
それこそ立ち直れないもの。
「…い、一応礼を言っとくわよ…
…ありがと、う…」
顔が熱いのを感じる。
なんだかアホに負けてる気分になって
癪だけれど、腹を括るしかなかった。
「あっは!どういたしまして!」
こいつのこの笑顔、
今の感情だと
いつもよりきもく感じるわ…。
「2番目、後ろを向くな」
「へ?」
突然のトーンに動揺して
後ろを向きそうになるけれど、
わたしの視界をアホが塞いだ。
「はぁ!?何!?きもい!」
「今それどころじゃないんだって!
お前のドッペルゲンガーが
後ろにいるんだよ!」
背筋が凍った気がする。
「…わたし、消えるの…?」
「大丈夫だ。おれが守る。
だから目瞑ってろ」
今は大人しく従うしかない。
「一生くん!ここで何してるの?」
わたしよりも声のトーンが高く、
自分じゃないように感じた。
それでもアホの反応を見るに、
本物なんだろう。
「もしかして…浮気!?
そんな…わたしのこと死んでも
ずっとずっと愛してるって
言ってたじゃん!嘘つき!」
「えっと…多分人違いだ。
おれはお前に愛してるとは
言ったことないしな」
「むぅ…もー!一生くんの意地悪!」
本当にこいつは
わたしのドッペルゲンガーなの?
自分と違いすぎる性格に吐き気がする。
「そもそもだぜ!
おれは一生じゃない!」
「んぅ?でもでも、
見た目も声も、ぜーんぶ一生くんだよ?
そうだ!
デンワをかければわかるんじゃない?」
わたしの偽物はそう言って
デンワとやらをかけた。
「…あれ?もしもーし…
一生くん今喋ってるよね?
テレパシー使ってる?
……あははっ、
一生くんはおもしろい冗談を言うね♡」
語尾が異様に上がっている声色が
きもくて仕方がない。
「うん…ごめんね、また後で会おうね♡
ばいば〜い♡………はぁ、きっしょ…」
最後に小声で聞こえてしまった言葉に、
わたしは驚愕した。
これが所謂『ぶりっ子』
というやつなのだろうか。
あまりわからないけれど、
性格が悪いのはわかる。
「君と一生くんは違ったみたいだね!
ごめんね、勘違いしちゃった…」
「大丈夫だぜ!」
「それじゃあね!ばいばい!」
「…2番目、もういいぜ」
アホがそう言ったのを合図に、
わたしは目を開ける。
「わたしのドッペルゲンガー、
あんなにきもいのね…」
つい口から出てしまった。
でも仕方がない、
思っていたことなのだから。
「やっぱり、
一生ってやつとアイツは
恋人っぽいな」
「わたしがアホとカップルだなんて、
死んでも認めないわよ」
「向こうの話なんだから
おれらは気にしないでいいだろ!」
気が緩み、いつも通りに会話していると、
後ろから声がかかった。
「お姉ちゃん、久しぶりだね」
そこに立っていたのは、3番目だった。
1side
なんで3番目がここにいるんだ?
タネの情報だと消えたって…。
「3番目…」
2番目は潤んだ目をしながら
この3番目に抱きついた。
「あははっ、泣きすぎだよお姉ちゃん」
だって、と言い訳をしながらも
感動の再会を果たしたように見えていた。
「…実はね、お姉ちゃんに
見せたいものがあるんだ」
「…?なにかしら?」
「それはねー…」
3番目の後ろから物音がする。
もしかして───
「2番目!目を閉じろ!」
────あぁ、バカだなぁ…。
出てきたのは、さっきの2番目だった。
「見てないわ、わたし…なんにも…」
そう呟く2番目だったが、
身体が少しずつ消えていっているのが、
お互いを視界に入れた
なによりもの証拠だった。
「2番目…!」
おれが2番目に近付こうとすると、
後ろから手を抑えられた。
「二奈ちゃんのお願いは断れないんだ…
ごめんね。
でも、ずるいよ。なんでお前なんかが二奈ちゃんに好かれてんの?なんでおれじゃないの?姿も声も同じじゃん。身長だって。何がダメなの?おれの何が気に食わないの?教えてよ、ねぇ。どうして?性格?おれの性格が気に食わないの?特にどの辺?おれ二奈ちゃんのためならなんだって直すよ。教えてよおれに、ほら、ねぇ」
早口な声、
あと半分聞き取れなかったけど
ヒステリック気味な意見。
この条件に当てはまるのは
おれのドッペルゲンガーである
一生だけだった。
「…3番目、ごめんね。
情けないお姉ちゃんで…」
3番目。
その相手は目の前にいる3番目ではなく、
消えてしまった3番目に対してだろうか。
どちらにせよ、
別れの言葉としては成立していた。
「2番目…ごめんな…
守るって、言ったのに…」
おれ、あんなにカッコつけて
言った割には2番目が消えるところを
ただ見てるだけだ……あっは、ださいな。
すごい、もどかしい。
もういっそ、おれも消えてしまおうか。
…あぁ、そうか。
あのとき、お前はこういう気持ちを
抱いていたんだな。
この気持ちを理解できない
なんて言えば、そりゃあ怒る。
「…なぁ、2番目。
3番目が消えて落ち込んでたとき、
お前はこういう気持ちだったんだな。
変に気遣って…ごめんな…」
おれは正直な言葉を伝え、
その気持ちを受け止めたくないのか
自然と下を向いていた。
「…きもいわよ、それ…」
おれは返ってこないと思っていた
返事に対し、驚いて顔を上げる。
「別に、アホが言うことなんて
真に受けちゃいないわよ…
それに、アホのくせして
深く考えないでちょうだい、
きもいわよ」
「そっ…そんなアホって言うなよ!」
「最後くらい、
本音で話したっていいじゃない」
その時点で2番目の身体のほとんどが
消えていた。
「最後って…お前…」
「…未熟児だったなら、
生きれなかった人生を生きなさいよ。
アホ」
そのときの2番目の顔は、
魂になる前の──
2番目の、無邪気な笑顔だった。
また、独りだ。
あのときとは違う寂しさを感じる。
「ね、ねぇ!二奈ちゃん!
おれ…ちゃんとできてたよね!?
褒めてよ!」
「はぁーい!
よしよし、よくできまちたね〜」
2番目の偽物に撫でられている
おれの偽物に、殺意が湧く。
いや、どちらに抱いているのだろうか?
どうせこいつらは死ぬことの痛みを
知らないんだろう。
「えーっと、どっちが二奈の彼氏?」
「わたしの近くにいるのが
一生くんだよ♡
そっちのそっくりさんは知らないかな♡」
「へー?」
3番目の偽物はおれを
品定めするかのように見てくる。
「一生に似てんね、こいつ
さっきのあたしみたいな…あ!」
おれが3番目の兄弟であることに
気付いたのか、表情が変わる。
「身長的に…弟?
お姉ちゃんがいなくなって寂しい?
あたし達が慰めてあげようか?」
「弟なんかじゃねぇよ」
つい口が滑ってしまい、
反論してしまった。
「あっそ、そこはどうでもいいよ。
てかさ、あたしと遊ばない?
瑚種がどっか行っちゃって
暇なんだよね」
「瑚種って、もしかして…」
「あぁ、そっちでいう
『タネさん』かな?
顔面ちょー好みだったから
誘ってみたんだけど、
結局消えちゃったんだよね。
まぁあたしのこと
殺そうとしてたくらいだし、
天罰としては適してるよね!」
こいつは2番目と3番目だけじゃなく、
タネも消えたことに関わってるのか?
「…お願いだ、もう…──」
「は?何?」
おれは、心の中で何度も復唱する。
実際に叶うまで、何度でも。
───頼むから、死んでくれ。
おれはその辺に落ちていた
鉄パイプを思い切り投げつけた。
6side
僕達はお兄ちゃんにお姉ちゃんを
任せたあと、分担した方がいいと
さらに別れた。
食料を集めると言ったって
お金には限界がある。
えっと…僕の所持金は三千円くらい?
学生のお小遣いと同じくらいの値段で
僕らは食料調達をしなければならない。
三千円は買えるものも限られる。
高価なものはあまり買えないし、
かといって安物ばかり探していれば
日が暮れてしまう。
これは判断力も必要だ。
そんなこんなで商店街付近に辿り着く。
売ってある野菜の値段を見て驚愕した。
物価高が酷い、
こんなに高かっただろうか?
…?
やはりおかしい。
この世界に来てからというもの、
自分でも理解のできない考えを
抱くことがある。
高かった?
なぜ過去の話をしているのだろうか?
僕って、生まれてたんだっけ…?
「う゛っ…」
頭に亀裂が入るかのような
頭痛が起こる。
僕は、元々腕と脳がなくて…
脳はお姉ちゃんからもらって、
腕はおにぃちゃんから…あれ?
でもおにぃちゃんに腕はあったし、
足もあった…。
そんなことを考えすぎて
頭がパンクしそうになったところ、
僕は通行人とぶつかってしまった。
「ご、ごめんなさい!
怪我はないですか?」
急いで謝罪をし、
相手の怪我を確認する。
「いや、大丈夫だよ。
こっちこそごめんね」
相手の顔色を見ようとしても
深く被られていた帽子で
見えずらかったため、
覗き込むような姿勢で見る。
サングラスもかけられていて
よくは見えなかったが、
その顔には既視感があった。
「ちょ、ちょっとこっち来て!」
僕が言葉を発する前に、
その人は僕の腕を掴み、
人目の少ない場所へと連れていった。
「いきなり引っ張っちゃってごめんね。
痛かったかな?」
「……大丈夫…」
そう言って、その人はサングラスを外す。
「…お兄ちゃん……?」
「おに…?
えっと、ボクは一四だよ」
姿と声は4番目のお兄ちゃん
そっくりだった。
「えっと、その…連れてきたのって
バレたらダメだからっていう理由…
ですよね?」
そう僕が意見すると
「そうだね。
自分で言っちゃなんだけど、
今って結構売れてる方だからさ。
あんまりプライベートの素顔とか
晒さない方がいいかなって」
「そうですか…」
真相がわかったところで
僕が戻ろうとすると、
この人は僕の腕を掴んだ。
「あ、えっと…
また急に掴んでごめんね。
実はお願いがあってさ」
その人の目つきは真剣だった。
受け入れるかは別として、
僕は話だけでも聞くことにした。
「…この前かな、
キミとボクのそっくりな人が
会話しているところを見たんだ」
多分4番目のお兄ちゃんのことを
言っているんだろう。
「単刀直入に言うとね、
ボクとその人を交換してくれないかな」
「…へ?」
言っている意味がわからなかった。
「うーん…
やっぱり説明が必要だったね。実はね、
ボク、アイドルに疲れちゃってさ…。
でも、その人とボクを
良い感じに入れ替えれば
ファンの子達は気付かないし、
ボクは周りを気にしない生活を送れる。
ボクのそっくりさんだって、
きっと周りからチヤホヤされるから
利益はあるはずだよ」
「それは僕じゃなくてお兄ちゃんに……」
しまった、と口を急いで閉じる。
この発言は軽率だった。
だって、ドッペルゲンガーは
お互いを視野に入れると片方が消える。
お兄ちゃんは二分の一を
当てないと消えちゃう。
その事を知らないこの人に伝えたって
会おうとするだけだ。
「…確かに、キミに伝えるより
ボクのそっくりさんに
伝えた方が早いかも。
うん、その通りだね。
連絡先とか持ってない?」
運悪く、聞かれていた。
どうしよう、これじゃあお兄ちゃんが…。
「…持ってなさそうだね。仕方ない、
マネージャーに探してもらおう」
「や、やめ…!」
その人は電話をし始める。
僕の声はもう耳に達することなく、
流れるように消えているようだ。
僕が戦犯なことはよくわかってる。
だからこそ願う。
頑張って生き残って、お兄ちゃん。
4side
食料調達をしつつ、様々なことを考える。
生まれてからママに殺されて、
カンシと融合して、頼み事をされ、
結局裏切られて心中…。
どうして二度も死ななきゃならないのか
わからないけれど、この際どうでもいい。
ボクはなんでこんな世界を生きてんの?
自分そっくりな
ドッペルゲンガーがいて、
互いを視野に入れると消えるとかは
百歩譲って良いとして、
なんでこの世界でボクは
アイドルなんかしてんの?
自分の姿が醜くないの?
兄弟と姿が違って、
奇形で生まれなければよかったって、
思わないの?
ボクは今、この世界のボクに対して
怒りしか感じていない。
アンタが生まれて愛されるなら、
それをボクに寄越せよ。
みんなに愛される
アイドルなんかじゃなくてもいい。
たった一人だけでもよかった。
ボクは、愛されたかったんだ。
視界が少し歪む。
情けない。
そんな感情を自分自身に抱き、
急いで目を乾かさせてから
本来の目的である食料調達に戻った。
調達を終え人目のつかない場所に
移動したときだった。
黒い服を着ている人達がたくさん
ボクに掴みかかってきた。
「はぁ!?離せよ!」
「黙れ!一四さんの命令なんだよ!
逆らったら俺らがクビになるんだ!」
アンタらの人生なんて知らねぇよ。
そんなことを頭の隅に思いつつ、
これはまずいと感じる。
多分、一四とやらはこの世界のボクだ。
なんのためにボクを捕まえるかは
正直わからない。
でも、ここで捕まえられたら
きっとボクは消える。
確証は無いけど、そんな気がする。
こんな世界、ボクは生きたくもない。
ボクはママに愛されたい。
愛情をもらいたい。
幸せにされたい。
ボクはママを大好きになりたかった。
でもボクはママに殺された。
気持ち悪いって言われた。
2番目の姉貴にも利用された。
約束したのに、裏切られた。
信じられるのは自分だけになった。
誰も信じられない───。
──でも、この世界に
ボクたちの偽物がいるなら、
ママの偽物もいるんじゃないか?
それに、この世界のボクらは
性格が真反対。
ママも、愛してくれるんじゃないか?
愛情を与えてくれるんじゃないか?
優しくしてくれるんじゃないか?
…そうだ、ボクは愛されたい。
なら、愛されるまで消えられないよ。
急いでカンシの姿になり周りの人を
驚かせたあと、
急いで大通りの方へ出る。
こんな大人数がいる中、
探せるとは思えない。
でも、ボクは見つけられる可能性に
賭けてみる。
だってボクは今、
生きられなかった人生を歩んでいる。
一回だけでも人間らしいことをしたって
いいじゃないか。
「───そうね、でも───」
しばらく探し続けると、
聞き馴染みのある声が聞こえる。
この声は間違いなくママの声だ。
なんたって、ママの中で何度も聞いた。
ボクに対する罵詈雑言。
新しく産まれる弟たちへの思い。
ボクのときとは違いすぎて
腹が立ったのを覚えている。
そんなボクでも
ママを見つけることはできる。
なんたってボクは、
ママの血が流れている。
この世界でいい、一度だけ…
一度だけでも、ボクは愛されたい。
「ママ…!」
「───あの子は、
もう手に負えないわよ」
思考が停止する。
「学生という立場を
乱用しているように感じるの。
あの子には…
そうなってほしくないのよ」
「───────?」
「さぁ…わからないわ。
でも、なんだかそんな気がするの。
軽い気持ちで罪を犯してはいけないって」
───違う。
この人は、違う。
ボクが愛されたいのは、この人じゃない。
あぁ、そっか。そういうことか。
ボクは後ろから来ていた追っ手に
抵抗もせずに捕まり、
大人しく車に連れ込まれた。
「……すごいね、
本当にボクと瓜二つだ」
顔を伏せているから、
目の前の情報は得られない。
けれど、これだけはわかる。
ボクが顔を上げたらどちらかが消える。
常にボクが言い続けていたことが
本当になる瞬間を
目の当たりにするだなんて、
どれほどの奇跡なんだろうか。
「さて、本題に入ろっか」
向こうの人がしゃがんできて、
咄嗟に目を瞑る。
「ボクはアイドルをやっている一四。
キミは…見る限り一般人って感じだね」
「…単刀直入に言って。
長話は嫌いだから」
「…そうだね、単刀直入に言うよ。
ボクとキミの立場を入れ替えない?」
「…は?」
立場を入れ替える…?
「…何言ってんの?
そんなことできるわけないでしょ」
立場を入れ替えるだなんてことは
できない。
一般人が有名なアイドルになんて
なれるわけない。
「言葉の通りだよ。
ボクは一般人に、キミはアイドルに。
肩書きを交換しようって話さ」
「世界で愛されるアイドルに、
なんの不満があるってのさ」
皮肉混じりに少しずつ言葉を発する。
「…笑顔を振りまくのが、
辛いだけだよ」
「…なに、言って…」
「画面の中で一生笑わなければ
いけないなんて、辛いよ。
ボクには感情がある。喜怒哀楽がある。
喜と楽だけじゃないんだ」
涙声になりながらもボクに
アイドルの辛さを伝えるけれど、
心の内が見える。
「でも、それって
ボクが可哀想だから代わりに
アンタがやれよって言ってるのと
変わんないでしょ?
何自分だけが辛いですアピールしてんの?
ボクよりも愛されてるくせに、
愛されようとしなくても、
愛されるくせに!」
「え?…違うよ。
ボクは…あれ?ボクは、アイドルが辛くて、
この人に代わって…え?」
「ほら、結局はボクに
押し付けてただけじゃん。
愛されてる自覚があるやつが、
愛されないやつなんかに近付くから
そうなるんだ」
「…ボクの顔、見てごらんよ」
「無理」
そう、無理だ。
きっと、見たら消えてしまう。
だって、ボクは⬛︎⬛︎だから。
⬛︎⬛︎がこの世界にいるなんて、
間違ってるから。
「キミはボクに…ずっと…
ずぅっと苦しめって言いたいの?」
「…そうだよ」
覚悟を決めて、ボクは瞼を開ける。
「自分のどす黒さに気付いて、
誰も救ってくれない事実にも気付く。
アンタは一生苦しんで、
地獄に堕ちるんだ」
目が合う。
とても驚いた顔をしていて、
やっぱりボクと同じ顔。
いつ見ても忌まわしいとしか思えない、
この目も。
この世界では個性として
世界中に評価される。
ボクだって、愛されたかったよ。
でも、違うんだ。
何億人に愛されたって、
ボクは報われない。
ボクは、
人に愛されたいんじゃなくて───
───ボクを産んでくれた、
ママに愛されたかったんだ。
一四side
「…消え、た?」
頭がパンクしそうだ。
ボクとそっくりなのに、
性格が違いすぎる。
…いや、逆に
合いすぎていたのかもしれない。
ボクは、自分の黒さに
気付いていなかった。
いや、気付いていたけれど
気付かないふりをした。
そうやって自分から逃げた結果がこれだ。
…彼には悪い事をしたな。
礼儀としても、
名前すら聞こうとしなかったボクは、
本当に愚かだ。
…交代だなんて、やめよう。
ボクは何もかも終わらせる。
アイドルも、人生も。
6side
一四さんとやらはその後、
どこかへ行ってしまった。
お兄ちゃんの所ならば、
僕はどうすればいい?
追う?止める?
いや、無理だ。
僕にできるわけが無い。
…おにぃちゃんと、合流しよう。
僕はとりあえず、
1番目のお兄ちゃんがいたところに戻った。
「…お兄、ちゃん?」
目の前には消えかけている
お兄ちゃんと、
血を垂れ流して倒れている
お兄ちゃんがいた。
「ど、どうしたの!?なんで!?」
消えかけていても
僕の声は届いているらしく、
瞼が開いた。
「あっは…6番目か。
わりぃな…しくじったわ」
ヘラヘラと笑いながら
淡々と伝えられる言葉には、
裏があるようには感じなかった。
「なんで、あの人も倒れてるの…?」
「…あっは。ホントは、
向こうの2番目を狙ったんだぜ。
でも、身代わりっつーか…
向こうのおれを盾に使いやがって、
互いを視界に入れちまったんだ」
そう言ってお兄ちゃんは笑う。
「見た目そっくりなくせして、
中身は違うのっておもしろいよな!
…だから、笑えよ」
僕は気付かぬうちに泣いていた。
「あっは!
おれ、最後くらいはかわいー弟の
笑顔を見て消えたいな」
お兄ちゃんは、そろそろ消えてしまう。
「いやだ…いやだよ…!」
「最後くらい兄ちゃんの願いを
聞いてくれたっていいだろ?
ほら、笑えよ」
お手本だ、とでも言うように
笑顔になるお兄ちゃんの目には
涙が溢れていた。
僕はそれを真似して、頑張って笑った。
「…それでこそ、おれの弟だよ」
2番目のお姉ちゃんが言ってた。
1番目はアホだから、
矛盾したことをすぐに言うって。
その通りだ。
お兄ちゃんは、願いを二つも言った。
「絶対に近くでお前のこと
守ってやるから────
──すぐこっちに来るんじゃねぇぞ!」
お兄ちゃんが消えた。
そんな余韻に浸る暇もなく、
声が聞こえる。
「まじで二奈性格悪いね、
流石って感じ!」
「なんで?
使える駒を使ってるだけだよ」
「そーいうところだよ」
笑い声が聞こえる。
2番目のお姉ちゃんと、
3番目のお姉ちゃんじゃない、
同じ声の人たち。
「あいつどう振ろうか困ってたから
役立ったわー。
持つべきものは男って感じ!」
「なにそれー!」
…お兄ちゃんの偽物も、
利用されたんだ。
お姉ちゃんの偽物に。
「僕、絶対に生き残らないとなぁ」
「6番目?」
後ろから声が聞こえた。
「…おにぃちゃん?」
真っ黒な瞳に、僕と同じ髪型。
顔だって、双子だから僕とそっくり。
でもそんな顔は、とても困惑していた。
「えっと…大丈夫か?」
「なにが?」
「だって、お前……
いや、なんでもない」
おにぃちゃんは表情を変えずに
目を逸らした。
なにか悩んでる?
なら、助けないと。
「おにぃちゃん。
困ってるならなんでも言ってよ、
力になるよ」
「そうか?なら、…お前──」
「いたぁ!オレの偽物!」
「もしかして…」
「動かないで!!」
おにぃちゃんの後ろには、
おにぃちゃんに似た”なにか”がいた。
おにぃちゃんだけは、守らないと。
「…ふーん?随分仲良いじゃん。
ま、オレたちも仲良いけどな!」
「オレたち…?
まさか…!
おい!6番目!目閉じろ!」
咄嗟に覆われた視界に驚きつつも、
その後に起こった出来事で冷静になる。
「あはは、ほんとだ。
五識(ゴシキ)にそっくり」
「…なぁ、6番目。
目だけ閉じて聞いてくれ」
「な、なに…?」
顔は見えないけれど、
真剣な雰囲気なのは感じ取れる。
「…お前だけでも、逃げろ」
「…え?なん…え?」
言っている意味がわからなかった。
だって、おにぃちゃんだって
置かれている状況は同じ。
なのに、どうして?
「…オレはお前の顔が見えるから
言うけど、すげー困惑してるな」
「なら、尚更どうして──」
「結局は、
お前しか生き残れないからだ」
…僕しか?
「オレ、気付いたんだ。
兄貴たちと、オレの共通点」
「共通点って、なにそれ…
僕にはないの?」
「あぁ、6番目だけない。
お前の兄ちゃん姉ちゃんだけの
共通点だ」
「…あ!なぁなぁ、
オレたちが向こうに近付けば
アイツら消えんじゃね!?」
「確かに!今のところ、
あっちが言うところの
『偽物』が全員生き残ってるからね。
一人はまぁ、残念でしたってことで」
向こう側も僕たちを
待ってはくれないようだ。
「そのまま後ろ向け…
…ほら、なにしてんだよ。走れ。
逃げろ、全力で」
おにぃちゃんは僕を急かす。
──でも、そういうことなら…。
「…ならもう、いいよ」
僕は目を開けた。
瞳が真っ赤に染っている
おにぃちゃんには、こんなことしたら
怒られるんだろうなぁ。
でも、絶体絶命なんだよ?
おにぃちゃんは。
だから、せめて苦しまないように──
「──ごめんね、おにぃちゃん」
僕はおにぃちゃんの心臓を
鉄パイプで一思いに刺した。
一つのシーンかのように、
スローモーションで視界が写り変わる。
それでも鮮明に残っていて
最後に見えた景色は、
複雑な表情をしたおにぃちゃんだった。
「…は?バカなの…?
オレが目を合わせたら、
向こうが消えるんじゃねーの…?」
「…もしかして、あれじゃない?
仲間割れってやつ?」
「まじか!えー!オレ自分の顔
見てみたかったんだけどなー!」
「あはは!
絶対五識より性格良さそ…う…」
向こうの自分は驚いている。
それもそうだろう、
自分の身体が消えかけているんだから。
「なんで…!?おかしいだろ!
なんで僕なんだよ!
消えるなら…
消えるならそっちだろ!?」
「別に、そっちの世界で
キミが消えようと誰も気にしないよ」
「ふざけんなよ…おかしいだろ!
なんで他のやつらは消えて、
お前だけ残って、僕が消えるんだよ!」
消え際に僕は、
僕自身に助言をしてあげる。
「それが、共通点ってやつだよ」
「───い、──おー、──!」
「おーい!!!」
「ん…んん?」
目を覚ますと雑音のうるさい場所にいた。
「やっと目が覚めたか、
どんだけ寝てたんだよ?」
「あはは…ごめんごめん」
「ったく…しょうがねぇやつだな」
「───!」
あぁ、いつも通りだ。
これが僕の日常。
「───おい!
早く来ねぇと置いてくぞ!
ショウタ!」
「置いてったら足引きちぎるよ」
「こえーよ!」
そう、これが───
──僕、ショウタの日常。
『虚像は映す』
を読んでいただき、
ありがとうございました。
前二作と比べて
倍以上の文字数があったノベルですが、
最後まで読んでいただけて嬉しいです。
本作品で明かされなかった、
・なぜ5、6番目に手足があるのか
・⬛︎⬛︎の文字
・6番目以外の共通点
・どうして6番目のみ消えなかったか
この四点については
答えを言ってしまおうか悩みましたが、
折角なら皆さんの考察を聞いてみたい、
そう思ったので、
このあとがきで答え合わせをするのは
やめておきます。
答えがほしい場合は
コメントしていただければ
お答えしようと思います。
そして実は題名にも
少し意味を持たせているので、
題名のみ解説します。
今回の物語の軸となるのは
『ドッペルゲンガー』です。
この物語では
「ママにあいたい」のキャラクターを
主人公として見ているため
もう一人の自分を
『偽物』と呼んでいますが、
実際、私たちがあちら側だったら
なんと呼ぶでしょうか?
きっと今と変わりませんよね。
このように、
私たちが主として見ていた視点も
別の角度から見てみると、
実像は虚像へと変わります。
そして虚像(ドッペルゲンガー)は、
主人公たちに『 』を写します。
この世界を生きるべきは
お前ではなく私だ、と。
『 』は
サムネに答えが載っているので、
良ければもう一度ご確認ください。
説明が難しく
不足してしまっている箇所が
あるかもですが、
あとがきはここらで終わります。
改めまして、最後まで
『虚像は映す』を読んでいただき、
ありがとうございました。
次の作品は投稿するかも
決めていませんが、
できればしたいと思っています。
それでは。