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「もう少しかな…」
スマホで時間を確認した慎太郎が言う。
「あそこのゲートだよね?」
北斗に訊く。
「うん。国際線」
アメリカから帰ってくる3人を、慎太郎と北斗の2人で空港に迎えに来た。樹は病院だ。
辺りを見回しながら待っていると、ゲートから背の高い3人が歩いてくるのが見えた。
慎太郎が手を振ると、ジェシーも振り返す。
「おかえり!」
ただいま、と2人は答える。
「お疲れ。どうだった?」
北斗が訊くと、
「話したようにまあいっぱい収穫もあったし、すごい色んなことがわかったよ」
だよな、と相槌を打つ。飛行機に乗っている途中に、優吾から秘書の話の説明を受けていた。
それと大我がさらわれかけた、ということも。
「大我、大丈夫だった? 怪我とかしてない?」
北斗に眉をひそめて心配され、大我はうなずく。
「そこは大丈夫。だけどあれはほんとに怖かったと思うし、またトラウマになってなければいいけど」
「やっぱ…アルビノってことだけで連れ去られかけたのかな」
慎太郎がつぶやく。
「…そういうことだと思う。あっちでも、すごい苦しそうに『あんなの嫌だ』って言ってた。たぶん施設でされてたこととか狙われたことが、だろうな」
優吾が言った。
疲れただろうし帰ろうか、と5人で空港を出る。
車に乗り込んで出発しようとしたところ、
「待って」
小さく声を上げたのは大我だった。
持っていたリュックからメモ帳を取り出し、1枚のページを破り取る。
恐る恐る、というように差し出されたそれを慎太郎が受け取る。
「あ、飛行機の中でなんかメモに書いてたわ。でも何を…」
優吾とジェシーものぞき込む。
そこには、走り書きで全部が平仮名だが色んなことが書いてあった。
「遺伝子研究…血液検査…ゲノム編集…」
慎太郎が読み上げ、「これは?」と尋ねる。
「ホームで聞いてた言葉。意味、わかんないけど」
そう言ったあと、捨てていい、とつぶやいた。
「え? 捨てる?」
大我は唇を噛んだ。
「そうだね。書いてくれてありがとう。でも俺らが持っておくから」
それは、大我が取り戻した記憶を書き記したメモ。でも嫌な記憶だったのだろう。そのことを察したのか優吾はそう優しく言った。
「もう…っ、あんなことされたくなかったから、出たかった。全部終わりにしようって…」
苦しげに絞り出した。それを聞いて、北斗は目を見開いた。その脳裏をあの睡眠薬がよぎる。
「わかった。そうか、嫌だったんだね。でももう大丈夫だよ」
ジェシーが柔らかく言った。
数日ぶりに家に帰ってきた3人は、安心したようにソファーに身を沈める。
樹も夜に帰宅して、嬉しそうに「おかえり!」と笑う。
「大変だったでしょ? 色々大丈夫だった?」
まあね、と優吾はうなずく。「樹もお疲れ様」
その日は、久しぶりに6人で食卓を囲んだ。
大我も落ち着いた表情で頬を緩めている。
ここが、いるべき場所のように。
続く