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「そんなに急ぐ仕事なの?俺、特に何もできないけど…」「できれば一日でも早く頼みたいと思って、少しイラついていた。リオの気持ちを考えていなかった。本当にすまない」
「あ…いや、そこまで謝ってもらわなくても大丈夫。俺も理由も聞かずに怒ってごめん」
「ふっ…」
ギデオンが頭を上げ、微かに笑う。
リオは先ほど謝ったばかりだというのに、笑われたと感じて|拗《す》ねた口調で言う。
「今笑ったよな?なんだよ」
「ああ、すまない。リオは見ていて飽きないと思ったのだ」
「バカにしてる?」
「してない。素直で良い子だと感心している」
「俺は子供じゃない」
「そうだな。冬には成人するんだったな。それまでに酒が美味しく飲めるようになるといいな」
バカにはされてないけど子供扱いされてる気がする。でも悪い気はしない。むしろ心地いい。母親が死んでから、こんな風にリオのことを気にかけてくれる人はいなかったから、少し嬉しくて照れる。
リオはゆるんでしまう顔を誤魔化すように身体を起こすと、「腹が減った」とギデオンを見上げた。
すぐさま顔の前に、あの変な匂いのグラスが差し出される。
|憐憫《れんびん》を誘うような悲しい顔をしてみるけど、ギデオンの心は揺るがない。
「食事の前にこれを飲め。疲労回復によく効く。医師の見立てでは、おまえは疲れが溜まっているそうだ。働きすぎなのではないか?」
「えー?大丈夫だよ。元気だし」
「とにかく飲むように。それを飲まない限り、出発しない」
「えー…」
突き出してピクリとも動かないギデオンの手から、リオは渋々グラスを受け取る。そして息を止めて一気に飲み干す。ゴクリと喉を鳴らし、匂いの割に|不味《まず》くはない味に、ほっと息を吐いた。
「はい…飲んだよ」
「よし。食事が運ばれてくるまで、休んでいろ」
「あ、食事ができたら呼んでよ。皆と食べたい」
「しかし体調が」
「だってさ、一人で食べても味気ない、だろ?」
「…そうだな」
ギデオンは、リオからグラスを受け取ると、さらりとリオの金髪を撫でて出て行った。
リオは頭に両手を乗せて首を傾ける。
「え?頭撫でたよな?俺はギデオンの使用人になるんだよな?なんか…すごく子供扱い、というか大事にされてる気がする」
何か裏があるのかと勘ぐってしまう。でも、先程のように接せられると心地よくて嬉しく思う。
ギデオンは何歳か知らないけど、たぶん二十代後半くらい?父親というには若いから、兄のように感じてるのかも。兄がいたら、あんな感じなのかも。
そんなことを思って、ギデオンが出て行った扉をぼんやり見ていると、もぞもぞとシーツが動き、アンが顔を出して「アン!」と鳴いた。