テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
恵
344
#連載小説
観察者
161
星キラリ

1,755
美少女探偵は自分を励ますように、頬を軽く叩いた。
でも、何かが引っかかる。
庭の空気に、まだ微かに残っている匂い。
甘いような、少しだけネコの匂いが混じった、独特の匂いだ。
美少女探偵は鼻をひくひくさせた。
この匂い……どこかで嗅いだことがある。
つい最近も。
そうだ。
以前、この屋敷で起きた八尺様騒動のときだ。
あのときも、突然現れた背の高い女の影から、同じ匂いがした。
そしてさっきのヒゲの女からも、同じ匂いがした。
美少女探偵は目を見開いた。
あの匂いの主は、決まっている。
この屋敷に滞在している、いとこの双子。
ネコミミ美少女の二人だ。
二人はいつも甘い香水をつけていて、しかもネコミミだからか、ほんのりネコの匂いが混ざる。
その匂いが、八尺様のときも、ヒゲの女のときも、はっきりと残っていた。
美少女探偵はゆっくりと立ち上がった。
「……なるほど」
声に出して呟くと、自分でも驚いた。
事件は解決したのに、なぜか続いていた「タタリ」。
その正体は、妖怪でも呪いでもなかった。
ただの、人間の仕業だったのだ。
しかも犯人は、身近な双子。
美少女探偵は急いで屋敷に戻った。
居間には、ちょうどみんなが揃っていた。
八千代さん。
加賀美警部補。
そして、ネコミミをぴこぴこ動かしながらお菓子を食べている双子。
美少女探偵は深呼吸をして、みんなの前に立った。
「ちょっと聞いてください」
みんなが顔を上げる。
双子の二人も、お菓子の手を止めてこちらを見た。
美少女探偵はゆっくりと話し始めた。
「八千代毒殺未遂事件は、確かに解決しました」
「犯人もわかりました」
「でも、その後もおかしなことが続いていました」
「八尺様が出たとか」
「昼間なのに口裂け女みたいな人が現れたとか」
加賀美警部補が眉をひそめる。
八千代さんも不安そうな顔をしている。
美少女探偵は続けた。
「でも、あれはタタリじゃありません」
「全部、人間がやったことです」
双子の耳が、びくっと動いた。
美少女探偵はそこを見逃さなかった。
「犯人は、この双子です」
居間が静まり返った。
双子の一人が、慌てて首を横に振る。
「ち、違うよ! あたしたちじゃない!」
もう一人も同じように否定する。
「そうだよ! たまたま似てただけだよ!」
美少女探偵は首を振った。
「いいえ。匂いが証拠です」
「八尺様のときも、さっきのヒゲの女のときも、同じ匂いがしました」
「甘い香水に、ネコの匂いが混じった、あなたたちの匂いです」
双子の顔が、みるみる青ざめていく。
美少女探偵はさらに追い打ちをかけた。
「八尺様の正体も、簡単です」
「二人で肩車をして、背を高く見せていたのでしょう」
「上の人が長い髪のカツラを被り、下の人が足を隠して歩いていた」
「だから、急に消えたように見えたんです」
「影が長かったのも、肩車のせいです」
双子の片方が、小さく「うぐっ」と詰まった声を出した。
美少女探偵は視線をずらさずに続けた。
「そしてさっきのヒゲの女」
「あれは、双子の片方が一人で変装したものです」
「トレンチコートに黒いマスク、おしゃれな帽子」
「口元に付けヒゲを貼って、わざと笑わせて追いかけてきた」
「怖がらせるためです」
「あたしをこの屋敷から追い出そうとしていたんですね」
双子はもう、何も言えなくなっていた。
耳がぺたんと伏せられている。
美少女探偵は最後の決め手を言った。
「あたしが帰れば、加賀美警部補も帰ると思ったのでしょう」
「事件が解決した今、あたしが余計なことを調べ続けるのを止めたかった」
「だから、タタリを装って脅した」
「違いますか?」
長い沈黙が流れた。
やがて、双子の一人が小さく頷いた。
「……ごめん」
もう一人も、俯いたまま呟く。
「あたしたち、ただ……」
「八千代お姉ちゃんが、また怖い目に遭うのが嫌だったの」
「事件は解決したって言っても、加賀美さんがまだいるし」
「美少女探偵も、ずっと何かを嗅ぎ回ってるみたいで」
「だから、ちょっと脅かして帰ってもらおうかなって」
八千代さんが驚いた顔で二人を見た。
「そんなこと……あたしはもう大丈夫よ」
加賀美警部補が深い溜息をついた。
「まったく……子供じみたことを」
美少女探偵は少しだけ表情を緩めた。
「でも、やり方が悪すぎます」
「八尺様の肩車も、ヒゲの女の変装も、あまりに大胆すぎる」
「匂いを消さなかったのも、油断です」
双子は小さくうなずいた。
「もう、しない」
「本当にごめん」
美少女探偵は二人の前に歩み寄った。
「反省しているなら、いいです」
「でも、次に変なことをしたら、本気で怒るからね」
双子は勢いよく頭を下げた。
ネコミミがふにゃっと潰れる。
その様子を見て、美少女探偵は小さく笑った。
八千代さんも、ほっとしたように胸をなでおろしている。
加賀美警部補は腕を組んだまま、 Extinguished な顔で言った。
「これで本当に、事件は終わりだな」
美少女探偵は窓の外を見た。
庭の池が、午後の光を受けて静かに輝いている。
鯉たちは、今日も普通に泳いでいる。
誰も話しかけてこない。
さっきまでの奇妙な出来事は、全部人間の仕業だった。
タタリでも妖怪でもなく、ただの双子の悪戯。
美少女探偵は心の中で、そっと結論をまとめた。
八尺様も、ヒゲの口裂け女も、全部双子の変装。
肩車で背を高く見せ、付けヒゲで笑わせて追いかけてきた。
匂いでバレた。
ネコミミ美少女の甘い匂いが、すべての証拠だった。
美少女探偵はもう一度、みんなを見渡した。
「これで、本当に解決です」
居間に、やっと穏やかな空気が戻ってきた。
双子は恥ずかしそうに顔を赤らめ、八千代さんは優しく二人の頭を撫でている。
加賀美警部補は書類をまとめ始めていた。
美少女探偵は窓辺に立ち、庭を見つめた。
風が木々を揺らし、池に小さな波紋を作っている。
もう、変な声は聞こえてこない。
鯉も、ただ普通にパクパクしているだけだ。
美少女探偵は小さく息を吐いた。
「ふう……やっと落ち着ける」
そう呟いて、美少女探偵は後ろを振り返った。
みんなの笑顔が、そこにある。
これで、本当に終わりだ。
美少女探偵はそう確信して、静かに微笑んだ。
続く
コメント
1件
うわあ、なるほどそういう真相だったんだ。伏線の匂いの回収が綺麗で気持ちよかったです。双子が肩車で八尺様やってたって発想は読めてなかったし、付け髭の口裂け女も「怖がらせて追い出そう」という動機に合点がいきました。でも悪意がないのがまた双子らしくて、最後のネコミミぺたんと潰れるシーンで思わず笑顔になりました。解決後に鯉が普通に泳いでる描写で日常が戻った感じが出てて好きです。