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恵
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#連載小説
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星キラリ

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タタリは、双子の猫神うめと猫神さくらがやっていた悪戯だった。
もう、あの白い影も、肩車の長い影も出ないであろう。屋敷の空気が、ようやく本当に軽くなった。
猫神八千代は金色の瞳を細めて笑った。
「よくやってくれた! おかげで妾の具合も、かなりいい」
二股のしっぽが、機嫌よく揺れている。毒の一件も、タタリ騒ぎも一段落し、広間には再び食卓が並べられた。作ったのは、いつものように猫見こまである。今日は群馬の特産をふんだんに使った、送別のごちそうだった。
まず目を奪われたのは、上州麦豚の厚切り生姜焼きだ。甘辛いタレが照りを帯び、箸で割ると肉汁がじゅわりと滲む。下仁田ネギをたっぷり添えたネギ味噌焼きは、ネギの甘みと香ばしさが口いっぱいに広がる。みなかみの岩魚を塩焼きにしたものは、皮がパリッとして身がふっくらしている。嬬恋キャベツの千切りサラダに、高崎のだるま風赤飯、富岡のこんにゃくを使ったおでん風の煮物。締めには草津寄りの手打ちそばが、熱い出汁とともに運ばれてきた。
姫神姫が生姜焼きを一口含み、目を細めた。
「……肉が柔らかくて、タレが染みていますでごぜぇやす。大盛りパスタのときとはまた違う、家庭の味がします」
加賀美も短く頷き、岩魚をほぐした。
「魚が新鮮だ。山奥とは思えない」
猫神みおが「こまが朝から頑張ってたニャ」と耳をぴこぴこ動かし、猫神あかねが「熱いからゆっくり食べて」と妹をたしなめる。うめとさくらは、昨夜の反省からか少し遠慮がちに箸を進めつつも、「おいしい……」と素直に声を上げた。八千代は小さな口で赤飯を運び、「群馬のものは、やはり腹にたまる」と満足げに言った。こまは自分の分を後回しにし、皆の皿が空になるのを静かに見守っている。
食事が終わると、名残惜しそうな空気が流れた。
加賀美が警察手帳を懐にしまい、姫が浴衣から普段の服に着替えて戻ってくる。八千代が上座から少し身を乗り出した。
「本当に、ありがとう。命も、家の恥も、守ってもろうた」
あかねとみおも、揃って頭を下げる。
「ありがとうニャ」「また来てほしいニャ」
姫と加賀美も、丁寧にお礼を返した。
「お世話になりました。また来てもよろしいでしょうか」
「ぜひとも! また来てね!」
みおが手を振ると、あかねもうめもさくらも、耳を立てて見送る姿勢になった。こまだけは、少し離れた位置で、静かに一礼している。
愛車のフェアレディZに乗り込み、加賀美がエンジンをかける。ガルウィングが閉じ、パトランプは消えたまま、山道へ向けて発進する。助手席の姫が窓から振り返ると、縁側に並んだネコミミたちが「ばいばーい!」と手を振っていた。しっぽが、風に小さく揺れている。
車内で、姫がほっとした声を出した。
「事件も解決して、よかったでごぜぇやす」
「食事も温泉も、かなり良かった」
加賀美の答えは短かったが、否定ではなかった。事件が起きたり、縛られたり、八尺様に怯えたり——あれやこれやあった旅だった。それでも、二人きりのドライブと、湯気の中で交わした言葉と、朝の食卓は、確かに「デート」の残り香を残していた。山を下り、ナビが再び安定して都市部の道を示す頃には、窓の外の景色も、いつもの日本の昼に戻っていく。
——誰も知らなかった。
分家筋の猫見こまには、本家への深い恨みがあった。
母親の代から仕えてきたのに、血の濃さだけで見下され、遺産の話でも「分家」と切り捨てられる。
その怨みが、静かに、長く、積もっていた。
こまには、人の心を操る超能力があった。
叔母の猫神おりんが箸に毒を塗ったのも、双子がタタリを装って脅かしたのも——表向きは彼女たちの意志に見えたが、その奥で、こまの力が糸を引いていた。
怒りを増幅し、行動を促し、自分は「疑われやすい位置」に立ちつつ、決して決定的な証拠を残さない。八千代が生き返り、探偵が匂いを嗅ぎ分け、警部補が箸のトリックを暴いたあとも、こまの能力だけは、誰の視界にも入らなかった。
黒のメイド服の背中が、縁側の影に溶ける。
手を振る孫たちの後ろで、こまはただ、穏やかに微笑んでいただけだった。
車は山を離れ、群馬の空を後にする。事件は終わった。タタリは消えた。食事は美味しく、温泉は温かかった。二人のデートは、こうして一区切りを迎えた。
だが、猫神の家には、まだ誰にも見えない糸が、細く残っている。
コメント
3件
第78話読み終わったよ〜!🍀最後の食事会のシーン、群馬の特産品の描写がめっちゃ美味しそうでお腹空いた…!😭💕姫と加賀美の距離が自然に縮まってる感じもエモくて…!でもまさかのこまさんの真実に震えた…ふわっとした温かい気持ちで終わったと思ったら最後の一文でゾッとするの、ずるすぎる…!真相は闇の中ってタイトルまさにこれだね…次が気になりすぎる…!✨