翌日、太陽がまだ真上にくる前。
「竜の名前を決めないとな」
僕は職場の工房で、革細工をしながらそんなことを考えていた。
親方が今日は店じまいというとで、仕事終わりの僕は最後の給料をもらった。
「これからどうするんだ?」
「旅に出るつもりです」
「お前さんのことだから、何か言っても聞きやしないだろうけど、くれぐれも自分の身は自分で守れよ」
竜はこの国では討伐対象だ。なので、この国では竜を育てることは出来ない。もし万が一、竜の存在が明るみに出たら、竜は騎士によって屠られ、僕は牢獄に入れられる。人は竜を恐れる。過去には竜はいくつかの国を滅ぼしたこともある。
なので、竜を育てるために人里離れた土地で暮らそうと思った。旅に出るとはその方便だ。ちょうど、仕事も人手が足りていたので辞めるつもりだったし。まず隣国レピ共和国に移ろうかと思っている。レピ共和国は土地が広大なゆえ、地価が安い。僕のなけなしの貯金でも一戸建ては建てられる。のんびり竜を育てるにはちょうどいいし、仕事も選ばなければありそうだし。それに首都の図書館で竜についての資料を探そうと思っている。なにか竜を育てるのに手がかりがあるかもしれない。
僕は家に帰ると竜の名前を決めることにした。買ってきた焼き豚を綺麗にたいらげた竜は、目をつむって寝始めた。昨日より一回り体が大きくなっている。
「君の名前はカナル」
白い綺麗な花が八月になると咲く植物、カナル。幻の花と呼ばれているけど僕は何度か山で見たことがあるから、それほど珍しくもない。白い竜だしたぶん女の子だと思うんだよね。なので花の名前をつけた。本人が気に入るといいんだけれど。
翌日、朝早くに僕は荷物をまとめてレピ共和国へと旅立った。見送りは誰もいなかったけれど、途中の教会で献金箱に金貨を数枚入れた。旅の無事を祈る意味も込めて。
背中の鞄にちょうとカナルが収まったので、周りからは見えないだろう。横の穴から空気も入るし、首を出さなければ大丈夫。しばらく街道を進み、草原を抜けて小高い丘を通過した。舗装された平坦な道なので、早ければ2日で隣国レピ共和国に着くはずだ。
途中、翼竜が遠くに飛んでいた程度で、魔物とは出くわさなかった。魔物はかなり駆逐されているので、このあたりだとあまり見かけない。剣もないので魔物にあったら逃げるしかない。戦うというのは最初から選択肢にない。
歩いているうちに、だんだん暗くなってきた。野宿をするために火を焚いた。
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