「味蕾?ねえ味蕾ってば!」
「えっ?あ、はい……。」
「あ、やっと喋ってくれた!
ずっと話しかけてたのに……。」
「すみません気づかなくて……。」
「どうしたの?上の空で。」
「……になったんです。」
「ん?」
「久弥先生のこと、
好きになったんです。」
「……知ってたけど、
昔から好きじゃなかったの?」
「好きでした。でも……。」
好きになる資格なんてない。
何度も何度も考えたけど、
きっと、私が好きになっては
いけない相手なんだ。
それに、相手は先生、私は生徒。
教師と生徒の恋愛なんて
絶対に許されない。
睦月先生は私の様子を見て、
口を開いた。
「自分のせいで、
記憶を無くしたって?」
私は、数秒の静寂の後に頷いた。
「味蕾、いつ、誰が、
そんな事言ったの?」
「でもっ……!」
「味蕾が、あの時一緒に帰ってたら、
君が事故にあってたかもしれない。
もしかしたら、二人ともだったかも
しれないんだよ?
久弥がどんな風に事故に遭ったのかも
分からないままだったかも
しれないんだ。」
「……そうでしたね。」
その話は、事故が起きたあの日に遡る。
あの日、久弥は先に帰ると言って、
私は公園に残っていた。
でも一人で帰るとなると怖くなって、
久弥を追って、家路についた。
目の前では、横断歩道を渡る久弥。
……そんなことも知らず
横から猛スピードでやってくる車。
その時の私も久弥も、
全く気づいてなかった。
久弥はこっちを見て笑いかけてくれた。
私は声をかけようとした。
その、ほんの数秒だった。
ぶつかる音
人が地面に落ちる音
私の隣の店にぶつかった車の音
私はそんな音も感じず、
絶望を感じっぱなしだった。
15歳だった彼が、7歳の私の目の前で
事故に遭った。
あの光景は、きっと何年経っても
忘れられない。
知らない人の家に急いで入った私は、
涙で、声も出なくて、ちゃんと説明が
できていたのかも分からない。
─アンタのせいだ、アンタのせいだ
分かってる。分かってる。
何度も心の中の私が責めてくる。
でも本当に、そうかもしれない。
それからしばらくは、
家から出るのも怖かった。
中学生になってからは、
不登校が続いた。
でも勉強は続けて、
何とかこの高校に入って
高校生になって、久弥先生の
顔を見た時、
最初は怖くて、震えて、
声も出なかった。
あの時から、私は久弥先生に
期待を持つのをやめていた、
はずだった。
そして、今がある。
目の下が腫れるまで
泣いたのだって覚えてる。
「……やっぱり、私のせいだよ……。」
「え?」
「あの時……車に
気付けてれば良かった……。
そしたら……久弥は事故になんて……。」
「味蕾それは違うよ‼︎」
「違わない……何も違わない‼︎」
「味蕾……。」
味蕾を追って着いた保健室で、
自分の事故の全てを、知ってしまった。
でも……思い出せない。
味蕾との仲を、関係を。
しばらく静寂に包まれた後、
保健室を離れた。
「……ただいま。」
「おかえり味蕾。」
「お母さん、幹兎兄さんの
連絡先教えてくれない?」
「いいけど、何か用事?」
「……ちょっとね。」
数学で難しいところがあるんだけど……
久弥先生に聞くのも気まずいし……
幹兎兄なら教えてくれるかな。
「もしもし?」
「あっ、兄さんお久しぶり。」
「味蕾?珍しいねどうしたの?」
「数学でわかんないところが
あってさ……。」
数学というと、兄には
バレてしまうだろうか……
そう感じてしまった。
「あー……はいはい。
どこか言ってみな?」
「あ、えっとね……。」
「幹兎誰から?」
「味蕾から数学教えてほしいって。」
突然の言葉に、霧矢も疑問を持った。
「……んん?数学?」
「やっぱり……おかしいよね。」
「だって数学ならお得意の久弥が
いるから……教えて貰えば良くない?」
「……だよね。
喧嘩でもしたのかな……。」
「まさか、昔のこと……
まだ思い出してっ⁉︎」
「……しょーがないなぁ、
大事な妹のために一肌脱ぐかぁ〜。」
「仕事終わらせてからね幹兎君。」
「うっ……。」
いつも使っていたスマホが
鳴り始める。
相手は、珍しい人だった。
「はいもしもし。」
「久弥やっほ〜!」
「幹兎……どうした?」
すると幹兎は、一瞬黙った。
「味蕾と、何かあった?」
その言葉を聞いた瞬間、俺は黙り込んだ。
─大切にするって、約束したくせに。
そんな事言われて、
“何もなかった”なんて嘘はつけなかった。
「その様子だと、
何かあったみたいだね。」
「俺も……俺の為にも味蕾の為にも
思い出したいんだよ……。」
「やっぱその話かぁ〜。
味蕾が変な事言ったみたいでごめんね?」
「いや、大丈夫。」
「本当に?何かあったら言ってよ?」
「過保護かっての。」
そんなことを話していた時、
ある一つの疑問が出てきた。
「てか、急にそんな事聞いてどうした?」
「いや、味蕾が突然数学の問題が
分からないから教えてほしいって
言ってきたから、
何かあったのかと思って。」
その話を聞いた時、
味蕾が俺に気を遣ってることが
充分に分かった。
「……そうか。」
「まぁでも気にする事ないよ!
味蕾には俺から言っとくね。」
「……あぁ。」
「……味蕾に何か、
伝えたい事でもあった?」
幹兎は何かと鋭い。
電話越しでも何かを
察してくることが多い。
何も隠せないと思った俺は、
幹兎に言って貰う事にした。
「伝えといてくれるか?」
「……何を伝えたらいーの?」
「今度さ……。」
コメント
1件
1日に三話投稿びっくり 思い込みって色々とややこいな