この公園……久しぶりに来たな。
事故があって以来、
すっかり来なくなった公園だった。
というか、来るのが怖くなった
公園だった。
私がここにいたらもしかしたら……。
通知をオフにしていたためか、
スマホがずっとバイブで震えてる。
「……兄さんから?」
さっき電話を終わらせた兄から、
もう一度電話がかかって来た。
「もしもし?」
「味蕾!兄さんは怒っています!」
何に対して怒っているのかは
よく分かってる。
「何。」
それでも、知らないふりをした。
「なんで久弥に過去の話したの?」
「するつもりはなかったし……。」
「……味蕾あのね?
久弥だって思い出したいし、
味蕾と同じくらい、
久弥も苦しんでるの。」
私は黙り込んだ。
当たり前のこと言ってるのは分かってる。
でも……。
「急に言われても、久弥だって
戸惑っちゃうよ。」
「私だって……言いたかったわけ
じゃない。でも……
言わないと、怖いの……!」
涙で視界が歪む。
「久弥が、離れていきそうで?」
怖かったけど、認めざるを得なかった。
「うん……。」
流れる涙を制服の袖で拭いながら、
震えた声で話す。
「時間も時間だし、この話は、
夏休みにゆっくりしようか。」
「……うん。」
「後もう一つ、週末、
久弥が出かけようって。」
「……へ?」
まさか兄の口から出てきたのが
久弥先生の話だとは思いもしなくて、
突然涙も引っ込んだ。
「昔の事、行ったところ、
全部教えてほしんだって。」
「わ、私に……?」
「うん、俺も味蕾が最適だと思うから、
教えてあげて。」
「分かった。」
本当は教えるのが怖かった。
あの人は知ったら、私から
離れちゃうんじゃないか。
そう思ったから。
そんなことを考えていた時だった。
「じゃあ俺はこれで……」
「あれ、味蕾?」
後ろを振り返ると、そこには
久弥先生がいた。
あの日から全く話してなかったから
少し気まずい感じもする。
「あれ、久弥今帰り?」
「その声は幹兎?」
「さっき電話きったばっかだけど
やほー。」
「本当にさっき電話した
ばっかりだけど。」
「はは、あ、そうだ久弥、
週末の話大丈夫だってさ!」
「お、そうなの味蕾?」
「いや、むしろ私でいいんですか…?」
「勿論、むしろ味蕾がいいかな!」
その言葉が少しだけ嬉しかった。
味蕾がいい、その言葉が
良かろうと悪かろうと久弥先生から
出てきたのが嬉しかったから。
それに、久々に久弥先生が笑ってる
姿を見たから、それがとても、
懐かしい気がしたから。
「じゃ、久弥は味蕾のこと
家まで送っといて!」
「え?」
「え……待って切れたんだけど⁉︎
え、えと……ひ、一人で帰れます‼︎」
「いや、送って帰るよ。」
えぇ⁉︎何故そうなる⁉︎
「味蕾はさ…」
「はいっ!」
「俺と遊んだ事とかあんの?」
突然聞かれて驚いた。
そりゃあ……
「ありますよ。」
幼馴染だったし……。
「俺も、味蕾が笑ってるとこ見たら
懐かしく感じるんだよな。」
「へ?」
「小さい頃の写真見てると
いっぱい味蕾が写ってる写真
見つけて、申し訳ない気がしたよ。」
「私は何とも思ってないですよ!
先生のペースで思い出して
ほしいですし。」
本当は嘘だけど、久弥先生に
負担をかけたくない。
思い出すかも、分かんないのに。
「味蕾は、優しいんだな。」
私よりも大きな手が、
優しく頭を撫でてくれた。
昔も、こんなことあったっけ。
私が転んだ時に、撫でてくれて、
今日みたいに暖かくて、
おんぶして一緒に帰った。
待って、今になると恥ずかしいな……。
こうやって撫でられると、
久しぶりに甘えたくなった。
もう少しだけ、撫でていてほしいくらい。
人が怖かった時期も、久弥が
守ってくれて、妹みたいに扱って
くれたから。
私も久弥を大切にしたい。
守って……あげたい。
「ねえ、久弥先生。」
「ん?」
__好きだよ。
「ううん、何でもない。」
私は軽く笑った。
「何だよそれ。」
すると久弥も軽く笑った。
「呼んだだけです。」
そういう事にしておいた。
この時間を、どうしても、
壊したくないから。
もう少しだけこの思いは、秘密のままで。
「こんな服装でよかったかな……?」
日曜、午前10時。
仕事があるから軽く片付けて
来ると言ってたから、
少し早めにきて待つ事にした。
……んだけど……
「あ、ごめん味蕾、待たせた?」
待ち合わせ30分前なのに、
まさか来るなんて……!
「いや、本当に来たばっかりです……。」
「そう?よかった!」
待って……直視できない。
私服姿も新鮮だし……
それどころじゃない!
「で、どこ連れて行ってくれるの?」
「行く場所って言っても小さい頃の
話なので、行く場所は
少ないですが……とりあえず。」
「ん?」
「この前会った公園、行きましょ!」
あそこには、沢山私の、私たちの
思い出があるから。
コメント
1件
これ普通に家族さんとか何もカバーされてねぇのか。ありゃりゃ