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山崎さんが特定した「監視役」
それは、かつて直樹が唯一「自分と同類の冷徹さを持っている」と認めていた、元秘書の加賀だった。
彼は直樹が隠し持っていた予備の資金を報酬に
詩織さんの生活を密かに記録し、刑務所内の協力者を通じて「白紙の手紙」のネタを提供していたのだ。
私は加賀を、かつて彼が私を脅したあの埠頭に呼び出した。
「……加賀さん。直樹からの報酬、いくらですか?」
私は無造作に、一束の分厚い封筒を差し出した。
「直樹があなたに支払っている額の3倍です。……ただし、これから彼に届ける『数字』は、すべて私の指定通りに書き換えてもらいます」
加賀は封筒の中身を確認し、皮肉な笑みを浮かべた。
「……流石ですね、詩織さん。直樹は『お前は俺の描いた図面の上で踊っているだけだ』と喜んでいましたが……。いいでしょう、より高い利率の方に付くのが商売人の道理だ」
翌日から、直樹の元に届く「監視報告」は狂い始めた。
『詩織:過労により入院。事業は赤字転落』
『陽太:不登校。直樹の名を叫んで泣いている』
白紙の手紙に浮かび上がる偽の数字。
直樹は檻の中で、それを見て歓喜に震えていたに違いない。
自分が壊したはずの女が、自分の不在によって再び壊れていく……
その歪んだ快楽が、彼の唯一の生命維持装置となっていた。
しかし、私はその裏で、直樹の「存在」そのものを社会から抹消する手続きを完了させていた。
「山崎さん、例の書類は?」
「はい。旧姓への復氏、ならびに陽太君の特別養子縁組の追記。そして……直樹被告に関するすべての商標登録および著作権、肖像権の買い取りが完了しました」
私は、直樹が将来「獄中手記」などを出版して一円でも稼ぐ可能性
あるいは彼をモチーフにした創作物が世に出る可能性をすべて封じ込めた。
彼の人生、彼の名前、彼の犯した罪の記録……
その「利用権」のすべてを、私という『敵』が買い占めたのだ。
「これで、彼は一円の価値も生み出せない、ただの『空っぽの番号』になったわ」
その夜、最後となる白紙の手紙が届いた。
私はそれをストーブの火にかざすことすらせず、そのままゴミ箱へ捨てた。
直樹、あなたが夢見ている『壊れた私』は、もうどこにもいない
(…そして明日、あなたは自分が信じていた数字が、すべて一円の価値もない『嘘』だったことを知るのよ)
私は、父の万年筆で明日の予定を書き込んだ。
明日は、ルーツ・ガーデンの新設校の地鎮祭。
直樹が「破滅」だと信じている場所で
私は新しい「命」を計上し続ける。
【残り28日】
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