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管野アリオ
875
#オリジナル
重田💋(omoda)
886
男は画面を見るなり何の躊躇もなく通話に出る。
「んー? 今? 歩いてるとこ」
随分と慣れた口調に相手は明らかに女性だと直感する優來。
「これから? 悪ぃ、今日は無理」
そんな男に構わず優來は歩く速度を速めるも、男は気にする様子も無く電話を続けながら優來のペースに合わせて歩く。
「つーか俺が誰とどこで何しようが関係なくね? 束縛されるの無理だって言ったよな? はぁ、もう切るわ」
会話は次第に不穏なものへと変わっていき、男は電話を切ってしまう。
優來は顔を顰め、
(何この人、チャラいし、不誠実……)
関わりたくないと本能的にそう思ったのだが依然として後ろから足音はついてくる。
そして、とうとう我慢出来なくなった優來はその場に立ち止まった。
「あの!」
「何?」
「どこまで着いてくるつもりですか!?」
「……アンタが無事に帰るの見届けるまで」
「はあ? っていうか、知らない人に家知られたくないんですけど」
すると男は悪びれもなく笑った。
「俺、蘇枋 至。三十二歳、独身。これで知らない人じゃないだろ?」
「いや、あの……名前言われたところで貴方がどこの誰か分からないのは変わらないので……こういうのは困ります」
「これから知ればいいじゃん。それで、アンタ名前は?」
「だ、だから……」
「教えてよ。俺は教えたし」
「いや、それは貴方が勝手に……」
そこで優來は悟った。
この人に何言っても無駄だと。
「……上條 優來、です」
渋々名乗ると至は満足そうに笑った。
「優來か、良い名前だな。つーかこのまま歩き続けるの怠いし、駅前でタクシー拾おうぜ」
「いや、だから……」
「ほら、行くぞ」
「あっ、ちょっと……!」
至の勝手な提案に断る間も無く半ば強引に腕を引かれた優來はそのままタクシー乗り場へ連れて行かれ、気付けば相乗りする流れになってしまう。
もはや言い返す気にもなれなくなった優來はぐったりした気持ちでシートに身体を沈めていった。
「住所は?」
「……××町」
住所を問われて番地までは言わないものの、至はそれだけを運転手に伝えると優來の隣でスマートフォンを弄り始めた。
(意外……もっとしつこく聞いてくるかと思ったのに)
タクシーが走り出すと車内には沈黙が落ち、ようやくひと息吐けた優來は窓の外の景色を眺めていた。
やがてタクシーは優來の答えた町へと辿り着き、運転手がどこまで行けばいいのか再び尋ねると、
「あの、そこのコンビニで大丈夫です」
少し先にあるコンビニを指差しながら優來が答えると、指定された通り運転手がコンビニの駐車場に車を停めたところで至はスマートフォンから窓の外へ視線を向けた後で優來へと視線を移し、
「気をつけて帰れよ」
とだけ言って運転手へ別の行き先を告げる。
「あの、お金……」
「金は纏めて払うから必要ない」
「そんな、それは申し訳ないですから……」
「いいんだよ、そもそも俺が強引に乗せたんだから」
そして軽く笑いながら、
「またな、優來」
至が言うのと同時にドアが開いたので優來は降りるしかなかった。
「……すみません、ありがとうございました」
ペコリと頭を下げる優來に至が軽く手を振るとタクシーはコンビニの敷地から出て行った。
優來はその場でタクシーを見送りながらぽつりと呟いた。
「……変な人」
そして何故か少しだけ胸がざわつく中、優來はコンビニの裏手にあるマンションの方へ歩いて行き、エントランスをくぐってエレベーターで部屋まで帰っていくのだった。
コメント
1件
うわ、この蘇枋至って人、最初はホントにチャラくて不誠実で「関わりたくない」って思うタイプだなって思ったんですけど、最後の「気をつけて帰れよ」の一言でガラッと印象変わりますね。タクシー代も纏めて払うって言うし、住所もしつこく聞かないし…「変な人」で片付けるには何か引っかかる優來の気持ち、すごく分かります。この「またな」が次にどう繋がるのか、気になりすぎます!