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みぅです🥀 第27話、読み終えました。 斬月くん、身体はもう治ってるのに、心が全然追いついてないんだな……って思いました。無意識に拳を握ってるところとか、金属の音にびくってなるところ、すごくリアルで胸が痛かったです。 特に岐雲とのやり取りが好きです。「触らずに待つ」って言える関係、いいなって。軽口ばっかりの同期が、ちゃんと斬月くんの傷を尊重してるのが伝わってきました。 最後の「俺を刺した兵はどうなった」って質問、続きがすごく気になります。あの兵にも何か事情があるんですかね……?
第2話 戻れない身体
身体そのものは、順調に回復していた。
胸の動きも、香脈の巡りも、検査の数値上はほとんど問題がない。斬月はそのことを何度も確かめた。確かめるたびに、早く戻れると自分に言い聞かせた。
*
ノックもなしに、扉が開いた。
岐雲だった。同期の武神候補で、天灯院への出入りにも遠慮がない。手には見舞いというには軽すぎる菓子袋を提げている。
「生きてるかー」
「とっくに死んでるだろ、俺たち」
「あ、それもそうだった」
岐雲は椅子を勝手に引き寄せ、逆さまに跨って座った。
「じゃあ何て聞きゃいいんだ、こういう時」
「知るか」
「まあいいや。で、実際どうなんだ。噂じゃ、胸に風穴空いたとか」
「大袈裟だ。もう治ってる」
「治ってる、ね」
岐雲の目が、少しだけ細くなる。
「なら、今その手、何で握りっぱなしなんだ」
斬月は、自分の手を見た。
膝の上で、いつの間にか拳を作っていた。
慌てて開く。
「……何でもない」
「何でもない奴の顔じゃねえよ、それ」
軽い口調のまま、岐雲は退かなかった。
「景陽先生から何か聞いてんのか」
「別に。ちょっと、検査が長引いてるだけだ」
嘘だった。景陽にはまだ一度も、本当のことを話していない。
岐雲は、しばらく斬月の顔を見ていた。
それから、菓子袋を寝台の脇にどさりと置いた。
「まあいい。今日は無理に聞かない」
「……悪いな」
「ただし」
岐雲が、椅子から降りながら言う。
「次来る時までに、その手が開いたままでいられるようになってろよ。武神候補が、ずっと拳握ってどうすんだ」
冗談めかした声だったが、目は笑っていなかった。
扉が閉まる。
斬月は、開いたはずの手を見下ろす。
指先が、また静かに丸まりかけていた。
*
「復帰を、希望します」
景陽の前で、そう告げる。
景陽は記録板から顔を上げた。
「肉体の再構成が完了していることと、任務に復帰できることは、同じ意味ではありません」
「動けます。剣も握れます」
「握れることは、確認しました。ですが」
景陽は、手元の記録板に視線を落とす。
#🌀🌧️⚡️
低気圧
42
2,687
「あなたの戦績記録には、目を通しています。単独での祈り応答成功率、討伐数、生存率。どれを見ても、武神候補の中では上位です」
「なら」
「だからこそ、です」
景陽が、斬月をまっすぐ見た。
「これまで積み上げてきたものがあるからこそ、あなたは今、その積み上げと矛盾する自分を認めたくないのでしょう。違いますか」
図星だった。
「あなたが今、私の目をまっすぐ見て話せていないことも、確認しています」
斬月は、反射的に景陽の方を見た。見てしまってから、それが証明になったことに気づく。
何も言えなかった。
*
数日後、岐雲がまた顔を出した。
今度は菓子袋ではなく、木剣を一本担いでいた。
「素振りでもすりゃ、気も紛れるだろ」
「今はいい」
「今はいいって、いつもそれだな、お前」
「そもそも、俺たち死んでんのに身体鈍るとかあるのか、それ」
「知らねえよ、そんな理屈。でも鈍るもんは鈍るんだよ、死んでても」
「意味わからん」
「うるせえ、鍛錬は大事なんだよ」
岐雲は勝手に木剣を寝台の脇に立てかけ、また椅子を逆さに跨いだ。
しばらく、他愛のない話が続いた。任務の噂、他の候補生の失敗談、天界ライブの日程。斬月は、久しぶりに肩の力が抜けているのを感じていた。
不意に、廊下の向こうで金属の器具が触れ合う音がした。
小さな、日常の音。
その瞬間、斬月の肩が跳ねた。息が止まる。手が、無意識に胸の辺りへ動く。
「おい、大丈夫か!」
岐雲が、勢いよく身を乗り出す。両手が、斬月の肩を掴もうと伸びかけた。
「――っ、触るな!」
反射的に声が出た。
岐雲の手が、宙で止まる。
斬月の呼吸は、まだ整わなかった。俯いたまま、肩で息をしている。
岐雲は、伸ばしかけた手を、ゆっくりと引いた。
何も言わず、少し距離を取って、椅子に座り直す。
沈黙が落ちた。
斬月の呼吸が、少しずつ落ち着いていく。
「……悪い」
斬月が、ようやくそう言った。
「いや」
岐雲の声は、いつもより低かった。
「悪いのは、俺の方だ。何も分かってないのに、無理やり触ろうとした」
珍しく、軽口が出なかった。
岐雲は、しばらく黙って斬月を見ていた。
それから、ぽつりと言った。
「……次からは、触らずに待つ。それでいいか」
斬月は、答える代わりに、小さく頷いた。
握った拳の中に、まだ爪が食い込んでいた。
「……いつまで、こうなんだろうな」
「知らねえよ、そんなの」
岐雲は、素っ気なく言った。だが、その声に苛立ちはなかった。
「知らねえけど、次来る時も、こうやって待つ。それだけだ」
斬月は、ふと思い出したように顔を上げる。
「……なあ」
「何だ」
「俺を刺した兵は、どうなった」
岐雲の表情が、ふっと止まった。