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恵
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#連載小説
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星キラリ

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加賀美警部補と美少女探偵のデートは、山を下りた時点で終わっていた。
姫神姫は夜遅くにタワーマンションの自室へ戻り、制服をハンガーにかけ、シャワーを浴びてミントグリーンの下着のままベッドに沈んだ。
加賀美の体温の残像と、温泉の湯気と、車のエンジン音が、まだ耳の奥に残っている。目を閉じると、すぐに深い眠りに落ちた。
朝。
目覚ましが鳴る前に、薄く目が開く。
カーテンの隙間から差し込む光が、金髪のゆるふわを照らしている。
七時。学校に遅れないための時間だ。ベッドから起き上がり、パジャマ代わりに着ていたTシャツを脱ぎ、全裸で浴室へ向かう。
シャワーを出し、ぬるま湯で髪を濡らし、ハチミツ入りのシャンプーでゆるふわ癖毛を洗う。
リンス、トリートメント。身体を泡で包み、昨日の旅の汗も、残留した緊張も、湯と一緒に流す。タオルで拭き、鏡の前で自分の顔を確認する。まだ少し、加賀美の胸に顔を埋めた夜の熱が残っている気がした。
朝食は簡単だ。牛乳をかけたシリアルと、苺ジャムを塗ったパン。
コーヒー牛乳を一口飲んで、歯を磨く。ミントグリーンのブラとパンティを身につけ、白いブレザーの制服に袖を通す。夏用の半袖シャツ。ミニスカートの丈を少し気にしつつ、カバンを肩にかける。玄関を出て、エレベーターではなく非常階段を hops で下り、エントランス前でエアスケボーに乗る。浮遊する乗り物が、朝の風を切って学院へ向かう。校門前で茂みに隠し、息を整えて校門をくぐった。
——いつもと、雰囲気が違う。
廊下を歩く生徒たちの声が、どこか低い。ホームルーム前なのに、ざわつき方が尋常ではない。誰かが「中庭」「十字架」と囁いている。姫は足を速めた。
中庭に出た瞬間、息が止まった。
中央に、古い木製の十字架が立っている。そこに、一人の美少女が吊るされていた。緑髪のボブ。高橋詩織だった。超能力を持たない、おっとりした癒し系のクラスメイト。
制服のブラウスははだけ、スカートは腰まで乱れ、白い肌に赤い薔薇の蔓が絡みついている。薔薇の花弁が、鎖骨と太腿に沿って落ち、朝の光を受けて濡れたように輝いている。衣服は乱れているのに、構図だけを切り取れば、どこか絵画のように綺麗だった。詩織の目は薄く開き、意識はあるらしい。
「詩織さん!」
姫は駆け寄り、十字架の紐を解いた。薔薇の棘が指に刺さるのも構わず、詩織の体を支え、芝生の上に降ろす。詩織は小さく咳をし、緑の髪を振り乱して姫に凭れた。
「……姫、さん……?」
「大丈夫でごぜぇやすか? 誰にやられたんです?」
詩織は首を横に振った。目が虚ろで、記憶を探るように眉を寄せる。
「……わからない。不思議ないい香りがして……甘い、花みたいな……。気がついたら、ここにいて……」
香り。十字架。薔薇。意識の途切れ。姫の背中を、冷たいものが走った。タタリでも、猫神家の悪戯でもない。新しい、別の何かだ。
周囲に集まってきたクラスメイトたちに、とりあえず保健室へ運ぶよう指示を出す。詩織は「痛いところは、あまり……」と弱々しく言い、薔薇の花弁を指先で摘まんだ。花弁には、まだ朝露のような水滴が残っていた。
姫はスマホを取り出し、加賀美の番号にかけた。呼び出し音が続く。繋がらない。もう一度。留守番電話にもならない。ただ、無機質なコール音だけが、中庭の空気に溶けていく。
「……通じませんでごぜぇやす」
画面を見つめたまま、姫は呟いた。加賀美が出ないことは、珍しい。旅の疲れか、別件か。それとも——。考えを打ち消し、詩織の肩を支える。
新しい事件の幕が、静かに上がっていた。
十字架と薔薇。記憶を奪う甘い香り。超能力を持たないクラスメイトが、なぜ選ばれたのか。美少女探偵の朝は、シリアルの甘さとはまったく違う味で、始まった。
続く。
コメント
3件
デートの余韻がまだ残る朝の日常から、一転して中庭の衝撃的な光景にゾッとしました。詩織さんを襲った甘い香りと薔薇の十字架、加賀美さんが通じない不気味さ…。また新たな闇が始まる予感に、胸が締め付けられます。次が気になって仕方ないです😢