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※花吐き病注意
「お疲れ〜」「お疲れ様でした〜!」
いつもの様に動画撮影を終え、終わりの挨拶が飛び交う。時間に余裕があるのだろう、ぼんさんが雑談でもし始めようとした所、不意に甘い香りが鼻をかすめ、その直後に喉から不快な物が突き上げてくる。
喉にへばり付いているような、それでいてまだ奥の奥からも底知れない不快感が渡っている少し痛みも感じるそれに、普通なら何事かと慌てふためくだろう。ただおらふはいつものか、と慣れきった物にため息をひとつ吐き。適当な嘘を付いてdiscordを抜けた。
「すいません!用事あるんでお先に失礼します!」
「お疲れ様〜」
「がんば__
頑張れ〜、とでも言いかけたであろう言葉がブツリと切れる。その声に、喉の違和感は更に酷くなり、気が遠くなるような不快感にう”っ、と声を漏らした。
ひらり、と欠けた所が1つも見つからない美しい花が舞い落ちる。黄色に咲き誇るミモザやマリーゴールドに水仙、緑色のカーネーション。その花々を見れば誰を思って吐いたかなんて少なくとも、2人を知っている人ならすぐ分かるだろう。眉を顰めてしまいそうな花々の芳香が鼻腔を満たし、この不快な匂いまで、おんりーの様で、おらふくんにとっては縋りたくなるほどに愛しく自身を掻き回した。
「嘔吐中枢花被性疾患」。通称「花吐き病」片思いを拗らせすぎると稀に起こる奇病で、感染した人の吐いた花に触れた人も感染する。花を吐くなんて奇怪な事だがこの世界では珍しくなかった。治療法は片思い相手と両思いになること、そうすれば白銀の百合を吐いて完治するらしい。が、 叶うはずのない自分からしたら治療法などないに等しかった。
袋に入れ、ゴミ袋へ投げ入れるのは、彼自身を手にかける様で少し気が引けたが、勘違いするなと自分に言い聞かせる。この花は彼自身ではなく、醜い自分の心なのだと。
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胸の中にある沢山の花の種、それらは十分な養分と自身の胸の高鳴りに、醜い片思いの心に合わせて少しつづ蕾を開かせる。そして最後には美しく咲き誇り、想い人に見せたい、早く出してくれ、とおらふを急かした。
最近は、撮影の間おんりーと話しているだけで、その花々が早く出してくれと喉を突き上げてくる。そろそろケジメをつけるべきだとそう思う反面、彼に告白するとなると絶対花を吐いてしまう、そうなれば、きっと優しい彼だから、同情で思ってもない愛の言葉を並べるだろう。もうこれ以上彼に迷惑をかけたくなかった。
「どうしようも無いなぁ..」
ため息と一緒に漏れ出た言葉は行き場を失って静かに消えていった。