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萩原なちち
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「ゆうたくんは一緒に帰ってくるの?」
なつきくんの問いに、俺は手元の資料を整理しながら答える。
「いえ、打ち合わせがまだ残ってるので、あと二、三日はいるって言ってました」
「え、それ危なくない? もう飲み会はないよね?」
だいきくんの言葉に、俺の指先が止まる。
そうだ。忘れかけてたけど、打ち合わせが終わってないなら、あの「見切れ野郎」とまだ顔を合わせる可能性があるってことだろ?
ゆうたさんのガードはゆるゆるだ。どうする? 俺、今から有給取って大阪行くか!?
「いっちゃん、心配しすぎ。だいきも不安煽んないの」
「はぁい。じゃあ本日も一日頑張りましょう!」
いつきくんに窘められ、だいきくんの機嫌良すぎる掛け声で強制的に仕事モードへ引き戻される。
……あー、俺もゆうたさんと遊びに行きたい。旅行して、ジェットコースター乗って、温泉入って、うふふ。
全然仕事モードに入れてねぇじゃん、俺。
「……いつきさん、ただいま」
「えっ!? なんで!?」
日付が変わる頃。そろそろ寝ようかとウトウトしていた時、突然鳴ったインターホン。
モニター越しに映っていたのは、まさかのゆうたさんだった。
「会いたくなって、帰ってきちゃいました」
「うぇぇ……!?」
大阪からここまで、新幹線でも三時間はかかる。
向こうでゆっくり休む時間なんて、ほとんどなかったんじゃないか。
「……おかえりなさい。お仕事、大丈夫なんですか?」
必死で気持ちを落ち着かせて、冷静を装う。
嬉しくて、心臓が爆発しそうなくらい跳ねているけれど、ゆるっゆるにふやけた情けないツラは見せられない。
「来週、もう一度大阪に行きます。今は、いつきさんに会う方が優先だと思ったので」
「……っ、ほんと。マジで……」
もう、大好きすぎてたまんない。
俺は頭の中で「行こうかな」なんてグジグジ考えていただけなのに、この人はこうも鮮やかに、男らしく行動に移してしまう。そのかっこよさに、胸の奥がぎゅっと締め付けられた。
「……いつきさん、ちょっと痛いです。お部屋、入っていいですか?」
気づけば、玄関先で彼を力いっぱい抱きしめていた。
「うわぁ、ごめんなさい! 愛おしすぎて、潰しちゃうところでした」
「……キュートアグレッション、とかいうやつですか?」
「そう。可愛くて、愛おしくて、大好きでたまんないんです」
「僕も。僕もいつきさんといる時、ずっとそう思ってますよ?」
「……なんか、年上なのに恥ずかしいです」
「ふふっ」
床に置いてあった彼の荷物を抱え、部屋へ招き入れる。
せっかくの準備を俺のせいで台無しにさせてしまった申し訳なさで、胸がいっぱいになる。
「あ、シャワー入りますか? 飯食いました? 明日はお店開けるんですか?」
「ふふ。いつきさん、僕のことは気にせず、明日に備えて寝てください」
「……そんな。こんな可愛い人が俺のために帰ってきてくれたのに、すんなり寝れるわけないでしょう?」
俺が少し拗ねたように言うと、ゆうたさんはふっと視線を落とし、熱を帯びた声で囁いた。
「……実は僕も。僕もいつきさんとえっちしたくなって、帰ってきました」
「うわぁ、いつもいつも期待を上回るお返事、ありがとうございます!」
「わぁいつきさん! 流石に僕、汗いっぱいかいて汚いですよ? ベッド汚れちゃうし、シャワーだけ……」
興奮のままにお姫様抱っこで拉致すれば、ゆうたさんが本気で焦りだした。
暴れる彼の首筋に顔を埋めて匂いを嗅いでみたが、石鹸のような、彼特有のいい匂いしかしない。
「ゆうたさん? えっちしたら結局、何かしらシーツについて汚れるんですよ。だからそんなの気にしない。……それに俺、もう我慢できない」
「……もう、仕方ないなぁ。いつきさんはわがままなんだから」
頬に添えられた彼の手が、熱い。
吸い寄せられるように、深いキスを交わした。
離れていた時間を埋めるように、ベッドの上でもつれ合い、肌を擦り付ける。
寂しかった。毎日、毎分、ゆうたさんのことしか考えていなかった。
……でも、よく考えたら最後にセックスしたの、たった三日前なんだよな。
どんだけお互い、忍耐力ねーんだよ。
「今日は楽しかったですか?」
嵐のようなひとときを終え、シーツの海に溺れながら彼を見つめる。
「はい、もちろん! ずっと遊びに行けていなかったから、すごく楽しかったです!」
無邪気に笑う姿は、本当に子供みたいだ。
さっきまであんなに破廉恥な言葉を連発して、俺に縋っていた人とはとても思えない。
「それは良かったです。写真、可愛くて何度も見直しちゃいました」
「ふふ。僕も、朝のいつきさんの写真がカッコ良すぎて、ずっと見てましたよ」
「りゅうせいみたいに怒ってないですか? 俺がいつきくんのスーツ、借りて着てたの」
一番気になっていたことを訊いてみる。
すると、ゆうたさんは少し意外そうに目を丸くした。
「え? 全然! 普段は無地のスーツしか見ないので、ストライプはすごく新鮮で……正直、興奮しちゃいました」
「うわぁ。じゃあ、もっと写真撮っとくんだった……」
「もう返しちゃったんですか? もっと近くで見たかったなぁ……」
こてん、と首を傾けて、上目遣いでおねだりモード。
……なんなの!? 反則級に可愛すぎるんだけど!!
「……興奮したってことは、俺を脱がせたかったってことですか?」
「えっ!? あ、いや、そんな意味じゃなくって……」
「じゃあ、スーツのまま押し倒されたかった?」
「……っ、意地悪しないで」
ぐあああ!! クッソ可愛いな!!
普段が敬語だから、甘えている時のタメ口の威力が半端じゃない。
ていうか、「えっちしたくて帰ってきた」って自白してるんだから、今さら恥ずかしがる必要ないだろ!
絶対、あざと可愛さを自覚してやってる。りゅうせいの「天然小悪魔」な部分を学んできやがったな!!
「……だめですよ? 流石に明日は早いので、これ以上えっちなことはお預けです。いつきさんも疲れたでしょ?」
「あ~! ゆうたさんがそういう話に切り替えたのに、そんなこと言っちゃうんだ?」
「言いますよぉ。だって、明日六時起きですよ? あと4時間しか眠れません」
「……ほんとだ。早く寝なきゃだ」