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ふたりの非難するような視線に、私はたじろいだ。
「だ、だって」
「澪が話しかけてほしくなさそうだから、レイさん空気読んでたっぽいけどさぁ、絶対傷ついたよー」
「そ、そんな、大げさだよ」
「いや……俺もそんな気がするよ。
レイさん、ちょっと気の毒だったかも」
佐藤くんにまで言われて、私は言葉を呑まざるを得なくなった。
2対1じゃ反論するにも分が悪いし、なによりふたりはレイをいい人だと信じている。
(だって……仕方ないじゃない)
レイがなにも言わずに、急に来るのが悪いんだもん。
……いや、事前にわかってたとしても、とった態度はきっと同じだろうから、やっぱり私はひどかったんだろうか。
だんだんとわからなくなってきた時、休み時間が終わりを告げた。
「とにかく、次レイさんに会ったら謝りなよー!」
そう言って杏は自分の席に戻り、佐藤くんも「広瀬」と、弱ったような柔らかい目を向けた。
「大丈夫、レイさんならわかってくれるよ」
佐藤くんはもう一度微笑んで、斜め前の席に座った。
(……違うのに)
何度となく見つめた背中を眺めつつ、私は内心ため息をつく。
佐藤くんは元気づけているつもりだろうけど、やっぱり、好きな人にそういわれるのは複雑だ。
けれどもう私は佐藤くんの中で「杏の親友」でしかないとわかるから、心の整理はついている。
あとはこの胸の痛みが、少しずつ過去になればいいと思った。
そして放課後。
掃除当番だった私は、じゃんけんに負けてしまった。
ゴミを捨てて、中庭から教室に戻ろうとしていると、すぐ目の前の棟からだれかが出てきた。
その人と目が合った瞬間、どちらもほぼ同時に足を止める。
(レイ……)
彼は私を見て、すっと目を細めた。
その表情は余所行きというより、私のよく知るレイで、知らず知らずのうちに鼓動が速くなった。
彼は門へ向かっているようだった。
私の教室もそっちの方向だから、自然とレイと同じ方へ足が向く。
顔を合わせれば言いたいことはたくさんあったのに、いざ前にすると、言いたいことがまとまらない。
『……なんで言ってくれなかったの』
最初にこぼれたのはその問いで、レイはこちらを見ないまま、かすかに笑った。
『ケイコが話していないのに、俺が先に言うのはやめようと思っただけ』
『それはそうかもしれないけど……』
『ちなみに、ケイコは今朝話すつもりだったって。
けど話す前にミオが家を飛び出したから、言えずじまいになったらしい』
私は頬を膨らませた。
たしかに寝坊した私も悪いけど、けい子さんも当日の朝に話そうとしてくれなくてもいいのに。
それでも言い返せない私は、かわりに恨みがましい目を向けた。
『なら……どうしてさっきあんなこと言ったの』
『……あんなこと?』
レイの横顔はどこか楽しそうで、私の反応を楽しんでいるようだった。
『「どこから来たの?」っていう質問……。
あんな答え方しなくってもいいじゃない。
そりゃ私の態度も悪かったかもしれないけど、嫌がらせにしたってひど―――』
「あっ、見つけた!! レイさーん!!」
突如、私の言葉を遮るように大きな声がした。
驚きのまま振り返れば、3人の女の子たちがレイのもとに駆け寄ってくる。
リボンの色から1年生のようだけど、見た目と化粧の濃さに私はひるんだ。
「えー、ちょっとだれが言うの?」
「そりゃトモでしょ! 言いだしじゃーん」
巻き髪の子とショートカットの子が、私を押しのけるようにしてレイの左右をとる。
私のことははじめから眼中にないようだけど、知り合いだとばれたら面倒だ。
さっとその場を離れようとしたのに、聞こえた英語に足が止まる。
『レイさんは、彼女いるんですかー!?』
反応してしまったのは、自分の意志とは別だった。
思わずそちらを見れば、髪をシュシュでまとめた女の子が、レイの向いに立っている。
その子がちらりと私に目を向けるから、私は慌てて前を向き直った。
正直レイがどう答えるのか気になるけど、この場は離れたほうがいい。
歩き出す私の後ろで、レイの声はなかった。
困惑しているのか、それともかわし方を考えているのか、どちらだろう。
「……あれ、通じなかったのかなぁー。
まあいいや。この後予定あるかって、だれか聞いてー!」
「えー、それ英語でなんていうの?」
「もういいじゃん、このまま一緒について行っちゃえば!
もう帰るんだろうしさぁ」
「あーそれいいー!
家とか突き止めちゃう!?」
3人はさらにはしゃぎだし、私は内心「えっ」と声をあげた。
(えっ、ちょっと待ってよ、困るよ……!)
家なんて来られたら困る。
もう一度振り向けば、3人に囲まれたレイが、シュシュの子に腕を引かれるところだった。