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出社すると山田課長が私を見つけるなりすたすたとやってくる。彼はまだ妊娠もしない私に何か希望を持っているのかすごくここ最近は良くすり寄ってくる。
彼の下に付いた部下はすぐ妊娠したり育休を取ってもすぐ産休や時短に切り替えてしまいコロコロ変わる直属の部下に山田課長は辟易しているようだった。
私も妊娠するリスクがあるのにリーダー二つ掛け持ちさせて。
普段は男尊女卑やセクハラ言動は無いんだけど無言の圧力にしかない。今はリーダーやっているから妊娠するなってことかしら。
これもセクハラ、いや超えてパワハラよって……私も私。
「サギモリの話は聞いているか」
「ええ、今他の部でもその名前聞きます」
肝心なことを忘れていた。サギモリというのはうちのライバル企業で色々と張り合っている。
どうやら代表同士が大学の同期で不仲なんだとか。
そんな私情を会社でしないで欲しいとか思いつつ。私達の部署にも一定数の迷惑やストレスの元になっている。
「次期の未発表のデザインが駄々洩れしているらしいんだ」
そういえばそういうことがあった。結局は解決しないまま営業部の人達がうなだれている姿をみていた。
「それで上層部の人達がさらにシステムのセキュリティを早急に上げろと」
そうそうこっから忙しくなるのよね。それも夢と同じじゃない。人がただでさえ少ないのに専門外の事押し付けられて。
私は子供がいないから。
でも他にだって独身の社員も派遣もいる。うまく断っている。
私が断るのが下手なんだ。それ分かっているのにできなかった。だからいろんな仕事を課長だけでなく他の社員たちに押し付けられる。
これは子供のころからの悪い癖だ。これだから自分は。
「さぁやろうじゃないか」
と山田課長がみんなに声をかけ始める。
そこに私が立ちふさがる。このままではいけない。
「なんだ?」
私よりもとうに高い190㎝超えの山田課長を見上げ彼は私を見下ろす。
「私以外の人になんで頼めないのですか。こうやってリーダーに選任していただいたことはありがたいのですが人員が少なすぎる」
「それはしょうがないよ。営業部にも応援出しているし。サギモリ対策で。それに残った人材は妊娠、出産、育児……フルで働ける人は限られていてなぁ」
彼の目が泳ぐ。いや、それに該当していない社員は他にも数人いる。それに社員でなくても派遣社員でもいるのに。
うまく断ってこの仕事から逃げている若い子だっている。責任は抱えたくないのだ。
私だってそう。でもこれが上手くいけば評価されるだろう……と言いたいけどデザインやスキルには関係ない物だし今後もこういう面倒ごとを押し付けられる可能性もあるのだ。
「みんな断るもんで君しかいないんだよ」
「社員全員に声をかけたんですか? それに社員に限らず派遣社員さんにも」
「その、社員には全員に断られて」
私は下から眉をひそめて目を合わせない山田課長を見上げる。
「社員がいなかったら派遣社員の人もいるじゃないですか。全部私に押し付けて、自分はただ指示すればいいってことですか」
「派遣の子は契約とかあるだろ」
「その言い方だと声かけてませんね」
ギクっとした顔をする山田課長。彼は派遣社員を下に見る傾向がある。露骨にはしてないけど明らかに社員に仕事を振り、雑務は派遣社員にと回している。
派遣社員だって能力高いんだってば。私もきっと派遣でここに入ってたらそういう冷遇を受けていたのだろう。だがやはり山田課長の言う通り契約もあるだろうし、なにせ彼の無茶ぶりだったら私みたいに受け入れる人ってあまりいないのであろう。
でも私は一人、分かっている。
大城さんだ。彼女はもっと仕事をこなしたい、看護師をしていたからいろんな仕事でこの業界になじんで経験を少しずつ積んでい行きたいと。
そんなことを一度それをぼやいていたことを。あまりしゃべらなかったけど一度給湯室で一緒になった時にそう言っていた。
「わかったよ、派遣社員にも声をかける」
「私が声を掛けます」
「なんで」
私はつい「課長が声を掛けたら断られます」って言いそうになったのをうまくこらえてニコッとその場を去った。
しかしやはり玉砕、課長の言う通りそれぞれの派遣社員の契約上のルール内での職務になるため断られたりそれを盾にこれ以上働きたくないという……この物価高、不景気なのに全く肉食じゃないのね。
片手間なのか、なんなのか。私だったら手を……ってやっぱり私ったら。
「私、やります」
大城さんがはにかみながらもうなずいた。彼女だけは違った。
「派遣会社の方には私の方から連絡して……それに私でもいいのですか」
私は首を縦に振った。
もちろん、もちろんよ。あなたがいないと……私は過労とショックで死んでしまう。いやまだ謙太の死は夢であろうが。