テラーノベル
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カフェフルールには重い空気が漂っている。
「……そうか。秋山男爵に断り入れたのか……」
中村が静かに言った。
「すみません……」
咲子も気まずそうに頭を下げる。
「いや、お咲、気にするな。どのみち話はなかったことにするつもりだったんだから」
秋山男爵とのことを聞いて皆、一様に表情が固くなっている。
「中村さん。その男爵、お咲ちゃんのこと諦めるんですかね?」
ジェームズが言う。
とたんに、常連たちは渋い顔になった。
「……なんかさ、嫌な予感がするんだよ。このまま黙って引き下がる様な奴じゃねぇのは見てわかった」
京太郎の一言に、皆も小さく頷いた。
──すぐにわかる時が来ますよ。
別れ際の言葉が京太郎には引っかかっていた。
「……あいつ、やけに余裕があったんだ」
京太郎は考え込む。
「まあ、仮にも男爵だ。余裕ぶってただけじゃないのかい?」
「そうよ。きっとそうだわ」
青山と園子マダムが口を揃える。
「そういうことにしとけ。気にするな……」
中村が口重く言って、京太郎を見た。
「……とはいえ、当面様子見だ。京太郎、すまんが、もう暫くお咲の許嫁になってくれないか?」
「ああ、わかってる。任しとけ!なっ、お咲!」
京太郎は、弾んだ声をかけた。咲子が塞ぎきっているからだ。
「……はい」
咲子の返事は重かった。
「まあ、なんとかなる!」
中村も、咲子を思って明るく振る舞った。
「それに!お咲、次の公演が控えているぞ。気持を切り替えろ!」
「あっ、そ、そうですね。公演がありますものね」
言われて咲子もはっとする。自分の役目に目覚めたようだった。
──それから数日後の花園劇場。
中村がバイオリンを奏でる手を止めた。
「よし、お咲。今日はここまでにするか」
「ありがとうございました」
咲子が神妙な顔つきで頭を下げる。
次の公演へ向けての練習が進んでいた。
咲子がデビューした時からの習慣で、練習は中村自らがバイオリンを弾き伴奏する。今日も、ひと区切り付いたところだった。
「おつかれ、お咲!差し入れ持ってきたそ!」
京太郎がアンパンを持って現れた。
「……お前、また、授業サボったのか?!」
やれやれと、中村が肩をすくめる。
「俺はお咲の許嫁だぜ?練習にも立ち会わなきゃそれらしく見えねえだろ?」
「坊っちゃん。だから、私をだしに使わないでください!」
「お咲、連れないこと言うなよ!」
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280
#普通
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#女主人公
京太郎は、注意してきた咲子へ勢いよく言い返す。
「許嫁、というより、やっぱり姉弟のじゃれ合いだな」
中村が、二人の掛け合いに呆れ果てた。
「だが京太郎。お咲の言う通りだ。岩崎の授業から逃げてばかりも、埒があかんだろ?」
「別に逃げてる訳じゃねぇーよ……」
京太郎は、咲子の事が心配なのだと言い張る。
「乗りかかった船だ。許嫁として役目はたさなきゃいけねぇだろ!」
「良く言うなぁ。まったく、誰に似て口達者になったんだか」
やってられんと、中村はバイオリンを仕舞う事で立ち去ろうとするが、ピタリと足を止めた。
「……二代目?どうした。慌てて」
「どうしたもこうしたもねぇよ!中村の兄さん!一大事だぜ!」
血相を変えた二代目が駆け込んできた。
手には新聞を持っている。
「早刷りの夕刊だ。これ、見てくれっ!」
二代目は、新聞を広げて皆に見せる。
『帝都の歌姫・花園咲子、華族令息を誘惑か』
そこには太字の見出しで咲子の事が書かれてあった。
「……なんだこれは……」
「中村のおっさん!」
中村と京太郎は驚きを隠せない。
側では、咲子が顔を引きつらせていた。
コメント
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ああっ、これは…第8話、めっちゃ不穏な空気になってる…!🥀 秋山男爵に断りを入れた後の、カフェフルールの重い雰囲気、ゾワッとしたよ。特に京太郎の「あいつ、やけに余裕があったんだ」ってセリフが胸に刺さった…。ただの脅しじゃなくて、本当に何か仕掛けてくる予感がして、怖い。 そしてラストの新聞記事!「帝都の歌姫・花園咲子、華族令息を誘惑か」って…許せない。咲子ちゃんの引きつった顔が目に浮かぶよ。次どうなるの?早く続きが読みたい…!