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※エルドアーク地下宮殿――王の間。
「…………フム」
創主ノクティスは玉座に腰掛けながら、モニターにて闘いの行方を見届けていた。
不意に扉を開けて、王の間へと入って来る者――
「やあ、意外と早く片が付いたね」
ノクティスは確認する事も無く、その者を労う――入って来たのは霸屡だ。
「ええ。彼等が分断さえすれば、ネオ・ジェネシス等、所詮は烏合の衆。狩るのは造作もない事です」
霸屡はノクティスの下へ歩み寄りながら、事の顛末を伝えていた。
霸屡が幸人等と別行動を取った理由――今回の件の後始末とは、ネオ・ジェネシス三柱神以外の殲滅にあったのだ。
「流石はハル。君の前では当然とはいえ」
それでも僅か数刻の間にそれが出来る事、これが如何程なのかをノクティスは讃えているのだ。
霸屡もノクティスと共に、モニターへ目を向ける。
「真に脅威なのは、あの三人のみ。いえ、もっと極論言えば、本当に脅威なのはユキ――エンペラーのみです」
「そうだね。元SS級の二人は何とかなっても、ユキだけは何ともならないだろう」
それはこの闘いが、最初から勝ち目無しな事を言っているのか。
モニター内では、まだ闘いが始まっていない両者膠着状態。
「ええ……。何故なら彼は――」
そして霸屡はエンペラーの姿を見据えながら、その訳を誰にともなく語り始めた。
「生身で唯一、あの壁を超えた存在ですからね……」
エンペラーが唯一、特別とされるもの。そして霸屡の言う、あの壁とは。
霸屡は更に続ける。
「人を超えた証し、臨界突破レベル『100%』超え。これが所謂、S級に分類されし者。そしてその超越者を、更に超えた証しなのが――臨界突破第二マックスオーバー、レベル『200%』超。現在、悠莉以外のSS級に分類される、エンペラーを除いたあの全員がそれですね」
狂座が定めるレベルが持つ、その本当の意味を。
つまり狂座の指標では、レベルがそのまま位階ランク付けへと直結する。
「それでも第二マックスオーバーまで到達出来るのは、先天性でも一握りだけどね」
ノクティスもそれに同調しだした。
「そうです。『200%』超からその先は、魂が干渉する正に禁断の領域。この領域ではレベルが『1%』上がるごとに、相剋の反作用により魂への負荷は莫大なもの……。その為『1%』の差は第二以下の比ではありません。それ故に、生体は『200%』前半が個体レベルの限界点。それは彼等も例外ではありません。そう、ユキを除いて……ね」
「フフ……臨界突破“第三マックスオーバー”レベル『300%』超。モードエクストリームーーオーバードライヴ。判定――SSS(トリプルエス)級。そう……ユキは正に、生体では無く神にも等しき存在だ」
これが彼等の言う、エンペラーには絶対に勝てない理由の一つか。
※臨界突破第三マックスオーバー、レベル『300%』超――これが如何程の数値か。
「その通り。神の前では全てが無力。そもそも本来ならユキ一人のみで、全てが事足ります」
極論言えば第三と第二の間には、例えるなら雫がA級相手に闘う――等、極端だがそれ程の如何ともし難い差が、このレベル間にはあるのだ。
「――さて、戦況は極めて絶望的な訳だが、ハル。君はこの闘いの行く末をどう見る?」
それでも何処か危機感に乏しいながらも、ノクティスは一番重要な事を振っていた。
それは狂座に於ける、勝算の程を――
「……彼等との総合戦力を比較し、ざっと計算に掛けた所――余り芳しいとは言えません」
霸屡は言い出し難いのか、逸らし気味。
「いいから言ってみなさい」
だがノクティスは構わない。
「……彼等――狂座がこの闘いで敗北を喫する確率は、コンピューターによると『99.999%』を示しています」
霸屡は少し迷った後、明確な数値を提示した。それは“ほぼ”この闘いは、先が見えているという事。
「勝率に置き換えると、万に一つという訳か……。それでも『100%』を示さなかっただけでも、明るい判断材料ではないか」
ノクティスは勝率がゼロではない事に、一筋の光明を見出だしていたが、可能性としては絶望しかないままだ。
「ですが悠莉が現時点で戦力にならない以上、この万が一を起こす可能性があるとするなら――」
二人はモニターを凝視する。彼等の眼に留まったのは――雫だった。
「……彼は特別だからね。だが惜しむらくは――まだ“若過ぎる”という事」
「ええ……」
――雫が特別。意味深な二人を他所に、モニター内では動きがあった。
「……それでもあの三人に共闘されると、その万に一つの可能性さえ潰える」
「ええ……只でさえ遠く及ばない総合戦力差に加え、融合異能でも使われた時には――」
それは勝敗云々の問題ではなくなり、地球全体への影響を及ぼす。
動きのあったモニター内。
「もし、万に一つの可能性。それこそ奇跡を起こすとするなら――」
時雨はチャリオットの背後へ。そして薊はハイエロファントの背後へと、同時に一瞬で回り込んでいた。
瞬間、弾けるように散らばる両雄。そしてエンペラーの前には雫と、その背後には琉月と悠莉の姿が。
「各個別撃破――以外に無い」
ノクティスの目論見通り、モニター内の映像では――『時雨×チャリオット』。『薊×ハイエロファント』。
そして『雫&琉月×エンペラー』と、両雄三者三様の対戦構図の様相となっていた。
雫達も同様だったのだろう。事前に打ち合わせる事無く、自然とこの形式へと移行したのだ。
だが御互い睨み合ったまま、映像では膠着状態が続いていた。
「因縁の対決……か。さて、どうなる事やら」
その構図に感慨深く、ノクティスは目を見張る。
「それでも彼等には、何としても万が一を実現して貰わねば……」
「彼等の決議案は、もう出たのかい?」
霸屡の危惧に、ノクティスがその意味を問う。
「……はい。表の世界評議会は、今回の闘いで彼等が敗北を喫した場合、核の一斉照射による日本消滅で彼等ごと葬る事を決定致しました」
霸屡は事も無げに言う。
この日本で再び、核による悲劇を繰り返す。
裏首脳会議で総理が危惧していた事。他国首脳達の『辛い決断』とは、この信じ難い程の裁定にあったのだ。
そこまでして、日本を犠牲にしてまで葬り去らねばならない今回の件。
「そうか……。相も変わらず、人間というのは心底愚かな存在だね」
ノクティスはその暴挙を懸念しながらも、嘲笑った。
「核を使った所で、滅びるのは自分達だけだという事に気付いていない。そもそも、神を人が産み出したもので倒せる訳が無いというのに……。人が神を超える事等、烏滸がましい上に、決して出来はしないのだよ」
「歴史は繰り返す……いえ、繰り上げる――ですね」
「フフ……見届けようか。彼等が如何な答を出すのか。私達はそれを知る義務が有る――」
二人が対談し、モニターにて行く末を見届ける中、場面は闘いの渦中へと。