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「余はシトラス王国十三代目当主 バルザード十三世である。」
王は、静かにそう言った。
「近うよれ。」
その言葉を聞き、ナイト•クラウンは
瞬時に膝間付いた。
「っっっ!!!…….ははーーー!!!!!!!!!!!!」
ナイト•クラウンにこれまでにない
緊張が走る。これほど緊張するのは
女王ロカに始めて会い、
殺されかけた時だけであった。
「面をあげい。」
王にそう言われ、ナイト•クラウンは
バッと頭をあげる。
「お主が母上の雇った探偵であることは
間者から聞いておる。」
王は懐から二枚の手紙を取り出す。
探偵ナイト•クラウンは長年培った探偵の勘
からその手紙がこの事件の真相に深く関わる
ものだと察した。
(これは……!!!)
ドクン….ドクン…….とナイト•クラウンの
心臓が五月蝿く鳴る。
「チェスをしよう。そちが勝てばこの手紙を
渡す。負ければ私の願いを一つ、お主に
叶えてもらおう。」
ナイト•クラウンは王の顔色を窺った。しかし、極度の緊張状態にあったナイト•クラウンは王の言葉の真意を読み取ることが出来なかった。
「…….謹んで、お受けいたしますっ……!!!」
ナイト•クラウンは厳かに頭を下げた。
シトラス王国の作法にのっとり席へ座り、
シトラス王国の作法にのっとりチェス盤を
並べ
シトラス王国の作法にのっとり対局者に
向かい、頭を下げた。
そして王はそれを受け、シトラス王国の作法に のっとり頭を下げ返す。
「勝負は一回、時間は無制限。」
そう言ってバルザード十三世は盤上を見渡した。
「…….チェスをしながら、少し話をしようか。探偵 ナイト•クラウン。」
こうして、事件の真相をかけた
静かなる頭脳戦 が今、幕を明けた。
《騎士探偵vs王》
「まず始めに、私も母上と同じく堅苦しい礼節はあまり好きではない。だから堅苦しい口調はやめよナイト•クラウン。」
王はそう言いながら白のキングの前のポーンを 前に二手前に進めた。
「…….ありがてぇでさぁねぇ。」
そう言って、ルークは黒のキングのポーンを
二手進めた。
「……..探偵であるそちにひとつ問おう。
……..なぜ私は今まで婚約者を作らなかったと 思う?」
そう言って王は白のビショップの前のポーンを 二つ前に進めた。
このオープニング(チェスの序盤の戦略)は
キングズ•ギャンビットと呼ばれ非常に
攻撃的で好戦的な戦術だった。
ナイトクラウンのキングの前のポーンと
王のビショップの前のポーンが睨み合う形と
なった。ルークは王の手の内を読みながら、
同時に王の問いに答えるために一分ほど熟考した。
そして、これまでの王宮内での会話、お茶会での王の様子を思いだしながら熟考し、熟考し、熟考し……そして答えを絞り出した。
「……女性が怖いから、その原因は王宮内での暮らし、そして女王陛下……..違ぇやすかい?」
そう言ってナイト•クラウンは黒のキングの前にいたポーンで白のビショップの前にいた
ポーンの命を刈り取った。
両者に緊張が走る。
王はしばらく黙り込み、
「まぁ……及第点だ。」
そうやって王は次の一手を打った。
ナイト•クラウンは安堵した。緊張がほどけて 心に余裕の出来たナイト•クラウンは
正面の王の顔をまじまじと見た。
シトラス王国において、高貴な身分でないものが王の顔を見ることは不敬罪として
重く罰せられていた。
それでもナイト•クラウンは女王ロカに
情報を与えるためにその禁忌を破った。
生き延びるために女王ロカに忠誠を誓った
ナイト•クラウンはすでに女王のために
命を捨てていた。
王は、バルザード十三世の顔は、とてもロカの顔に似ていた。
王の威厳を保つため、大量に 宝石のついた王冠や、長い髪や、サンタクロースのように伸ばしたヒゲがあったが
目、鼻、口元が女王ロカにそっくりだった。
つまりものすごいイケメンだったのだ。
(これはっッ…….!!!!!髪型と髭さえ整えればこれはっっッ…………!!!!!!!!!!)
とてつもなく不敬なことを考えながら
ナイト•クラウンの股間はとてつもなく勃起
した。
ナイト•クラウンは次の一手を打った。
ナイト•クラウンの一手を受けて
王は次の手を打った。そしてシトラス王国として生まれた王の過酷溢れる生活を話し出した。
《ひとりぼっちの王》
結論から言うと王は男色家ではなかったし、
ナイト•クラウンの推理は六割ほどしか当たってなかった。
王は全ての人間を怖れていた。
「はじめて好きになった召使いは、私に毒を
盛ろうとする暗殺者だった。その女は捕らえられ、女王陛下の気まぐれで発情した熊に食われながら肉塊になって死んだ。次に好きになった 料理長マカロンの弟子、ビショップ•キャンディーは我が父バルザード十二世毒殺の嫌疑が かけられ、全身の服をひんむかれた後、拷問官によってふたつの乳房を引きちぎられ、謎の薬を飲まされ、しばらくした後よだれと糞尿を 垂れ流し、わけのわからない奇声を発し笑いながらながら痙攣した。その後、ビショップ•マカロンが調理したふたつの乳房のステーキを手足をしばられながら自ら食い、終いには ビショップ•マカロンの手で 屠殺されハンバーグにされてしまった。
……..私はあれ以来、肉が食えない体になってしまった。」
ぶるぶるぶるぶると体を震わせて王は
過呼吸を起こした。
(かわいそうに。)
ナイト•クラウンは素直にそう思った。
シトラス王国の誰よりも裕福で幸福である筈の 王は、皮肉なことにシトラス王国の誰よりも 孤独で不幸な男だったのだ。
王は次の一手を打とうと駒を持とうとする。
しかし手の震えがいつまでも、いつまでも
止まらないようだった。王の呼吸はとても浅く、今にも壊れてしまいそうだった。
ナイト•クラウンは王の手をとった。
高貴な身分でないものが王の手に直接触れることなど、当然シトラス王国では不敬罪にあたり 一族全員拷問の後に死刑されるほどの重罪であった。
だがナイト•クラウンは王の手を取った。
女王ロカに少しでも情報を持ち帰るため
…….ではなかった。
「ここからは私が女王陛下の探偵としてでなく、あなた様の友人としてチェスの相手を
いたしやしょう。国王陛下……いえ、
バルザード十三世殿。」
そう言ってナイト•クラウンは王に笑顔で語りかけた。王の手の震えが 収まるまでしっかりと王の手を握っていた。
《チェックメイト》
「…….実は私は誰にも言ったことのない
秘密がある。」
次の一手を打った後、
バルザード十三世は服を脱いだ。
バルザード十三世の男性器は自らの手で
去勢されていた。
ナイト•クラウンは驚愕した。
つまり、シトラス王国の正当なる後継者は
王一人であり、シトラス王国は事実上すでに
崩壊していたのだ。
【解説】
なぜ王である
彼が男性器を去勢しても
誰も気づかれなかったか。それはシトラス王国のある法律が関わってくる。
《シトラス王国憲法第6条 》
王の裸はこの世の何よりも尊ばれる存在であり、身分の低い者、決して見ること、触れることあたわず。此を罰するもの、一族全員を拷問ののち処刑し、打ち首を城下町の中央広場に晒すべし。
そのため王の身体を洗う従者たちは皆五重に目隠しがされ、口にペストマスクをし、手が鬱血するほど革の手袋を重ねて洗うきまり
となっていた。
更に付け加えるならシトラス王国では基本風呂は多くて数日に一回、入るか 入らないかの頻度でしか入らない国柄だった ため革袋についた血から王の去勢がばれることはなかった。
(ちなみに女王ロカはこの法律を普通に無視していたためバルザード十二世が皇太子だと分かった後も普通にめちゃくちゃセックスして いた。そしてロカは 実の息子と距離を
取り、およそ二年、バルザード十三世の身体を調べていなかったのである。)
この法律はシトラス王国憲法立案からずっと
施行されてきた。
そのため国中の誰一人として、
あのルーク•グリッツファーでさえ、
誰も王の去勢を止められなかったのだ。
「………私は母上が怖かった。母上は私に
暴力をふるうことなどはなかったがいつ私が母上の逆鱗に触れ殺されるか、いつ私が母上の色香に狂いおかしくなるか気が気でなかった。」
ナイト•クラウンは驚いた。驚いて驚いて驚きはしたが、少し頭を上げ…..そして自分も
服を脱いで自分の男性器を王に見せた。
シトラス王国にて王に男性器を見せることは
極めて身分の高いものでも極刑になるほどの
重罪であり、もしそのようなものがいれば
シトラス王国史に永遠に悪名を刻むほどの
大重罪であった。
「失敬、ナイトを取らせてもらいまさぁ。」
そう言ってナイト•クラウンは黒のナイトで
王の白のナイトを取った。
バルザード十三世は驚いた後、
クククと屈託なく笑った。
「去勢を張っていられるのも今の内だぞ。」
そう言ってバルザード十三世は白のポーンで
ナイト•クラウンの黒のナイトを取った。
その姿はまるでシトラス軍人養成所の中で
仲の良い青年達が集まって馬鹿なことをして
笑いあっているようであった。
二人は、とっくのとうに親友であった。
《そして、全ての謎は集まった。》
【女王の寝室から通じる地下室にて】
「それで?もちろんあなたが勝ったのよね、
ナイト•クラウン?」
ふわりとあくびをして女王ロカは探偵
ナイト•クラウンに尋ねた。
「いんや、引き分けでさぁ。」
ナイト•クラウンとバルザード十三世の勝負は
引き分けであった。お互いの駒をとりつくし、 同形三複(チェスのルール、同じ駒の動きを 三回繰り返すことで引き分けとなる。)
で引き分けだった。
「あっそ、じゃあ陛下の願いってなんだった
わけ?」
女王ロカはナイト•クラウンに尋ねた。
「内緒でさぁ、姫様の復讐には関係のないということだけ教えて差し上げまさぁねぇ。」
そう言って、ナイト•クラウンは
女王ロカに二通の手紙を渡した。
「…..あっそ。」
ロカはナイト•クラウンの顔を見ずに
パシッと二通の手紙を受け取った。
ロカはそれほど、この探偵を信用していた。
ロカは二通の手紙を読んだ。
一通はざっと目を通した後ビリビリと破り捨てた。
二通目を読んだロカは目を見開き、しばらく読んで放心し、その手紙をぎゅっと抱きしめた。
ロカの涙はとっくのとうに枯れていた。
そうしてナイト•クラウンの推理を聞いた後、 女王ロカはそれが六年間ありとあらゆる方法で 調べあげた結果推測していた事件の真実と 合致していることを確信した。
事件を解き明かす全てのピースは
ここに全て揃った。
「でかしたわ、報酬の領地とイケメン100人よ。あなたが事件を調べてる内に用意させたわ。国中は面倒だったから王宮内からざっと見繕ったけど、まぁ同じことでしょ?」
そう言って、ロカはナイト•クラウンに
王家直属の印が記された小切手を渡した。
「いやーまさか本当にもらえるとは
思いやせんでしたよぉ。」
とナイト•クラウンは驚いて見せた。
「当然よ、言ったでしょう。私は金払いが
いい方なの。」
「それに私は嘘がきらいなの。」
そういって女王ロカはニヒルに笑った。
かくして役目を終えたナイト•クラウンは
シトラス王国の流儀に乗っ取り女王ロカに
跪いた。そして、
「ご武運を」
といって彼が生まれた国の流儀にのっとり
女王ロカの武運を祈った。
女王ロカはふわりとあくびをして
「そういうのいいからさっさと行きなさい。」
と言った。
こうしてナイト•クラウンは王宮内から
姿を消した。
【最後のヒント】
•このお話にチート魔法は存在せず
なるべく現実に即した範囲で物語が進むよう
努め上げることをここに宣言する。
•バルザード十二世の死因は自殺ではなく
バルザード十二世が生きていることはない。
•この事件の実行犯はマカロン、そして
計画犯は今まで出てきた人物(ギャンビット、ルーク、王)の内の誰か一人である。
(ロカ、ナイト•クラウンは犯人でなく
複数犯ではない。)
【謎解きタイム終了】
《最終決戦前夜》
その日は12月31日、明日は1月1日だった。
それは、奇しくもシトラス王国が建国された日であり、バルザード十二世とロカが結婚した日であった。六年と二日をかけて証拠は
十分に揃った。六年間と二日をかけて勝算は
十分にあった。そうして、女王ロカはいつものように周囲を警戒し、間者などがいないことを 十分に確認した後、浅い眠りについた。
明日はシトラス王国滅亡の日
《クイーンズキャッスルの変》
の開幕である。