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国王との謁見から一週間が経過した。
その間、俺は国の施設にある魔導装置に魔力を補充する仕事をしていた。
「ミナト、今日はこれで最後よ」
「おっ、了解。今日も疲れたぁ」
この世界では魔力があれば大抵のことはできるらしく、現実世界での電気と同じくらい生活に浸透している。
魔力を溜めておき、各所に配魔する魔導装置のお蔭で生活に必要な火や水を魔導具から生み出すことができ、不自由ない生活を送っている。
「それにしても、まさかここまで引っ張りだこになるとは思わなかった」
電気と違って、魔導装置への充魔は魔導師や錬金術師が行っている。
普通の魔導師は魔力を使い切ると回復するには、回復魔法陣がある施設に一週間籠る必要があった。
魔導師の魔法は有用なので、生活に使う魔力が足りているのならインフラを整えたいという悩みもあるようだ。
これまでは、魔導装置の魔力を切らさないようにしてはいたが、稼働はギリギリで、道路の整備や壁の補修などなどに費やす魔力が足りなくなっていた。
ところが、俺が魔導装置を満タンにすることで事情が大きく変わった。
一時的に、他の魔導師が自由に魔法を使えるようになったのだ。
そのせいもあってか、現在王都の周辺では生活を改善するための整備が急ピッチで進められているらしい。
事業が動けば仕事も増えるとばかりに活気づいており、行き交う人々には笑顔いが浮かんでいる。
「皆感謝してるわよ。だって。千人どころか、今の段階で一万人分の魔力を充魔しているのよ」
ちなみに、アリサは俺の秘書として働いてもらっている。
王国内の施設の場所がわからなかったり、現場の人間とコミュニケーションがとれなかったりと不安が残るので、仕事を引き受ける際に俺は彼女に助けて欲しいと頼み込んだのだ。
「ちなみに一万人分の魔力って、国の重要施設が三年はもつ魔力量なんだけど……」
このまま国中にある魔導装置すべてを充魔すれば数年は何もしなくても大丈夫らしい。
「だからあんなに報酬額が高いんだな」
俺は国王から提示された報酬額を見て驚いた。
すべての施設を充魔した時にもらえる報酬は、地味に冒険者稼業を続けていてはとても稼げない額だったからだ。
「明日は鍛冶ギルド、明後日は錬金術ギルド、最後は……魔導ギルドだけど、まあここは……一週間くらい休んでからでいっか?」
アリサは、今後俺が回る順番を読み上げていく。これまでは魔力が尽きかけてきた施設を中心に回ってきたので、最後に残っているのは余裕がある場所となっている。
「何か、私情を挟んでないか?」
俺はアリサに突っ込みを入れる。
「べっつにー。ミナトのことを売ったからって恨んでないわよ」
俺が国王に謁見した背景には、魔導ギルドの訴えがある。
もしあのまま錬金術ギルドに引き籠っていれば、枢機卿やヘンイタ男爵に復讐できていないので、結果だけ見れば感謝すべきなのだが……。
魔導ギルドと錬金術ギルドは仲が悪いので、そんなことを言い出したら俺も白い目で見られるだろう。
俺は余計なことは口にせずアリサの後ろについて歩いていると……。
「あっ、ミナト。この後なんだけど……」
先程まで怒っていたとは思えないくらい満面の笑みを浮かべて彼女が振り返った。
「何?」
あまりにも早い変わり身に、俺の中で警鐘が鳴り響く。
というのも、彼女の恨みを一番買っている可能性が高いのが俺だと気付いたからだ。
よく考えて見れば、魔導装置を勝手に起動して事件を起こし減俸させ、行方不明になって迷惑を掛け、半ば強引に秘書に任命して休みも与えず働かせている。
俺はエリクサーを飲んで充魔していれば良いので簡単なのだが、彼女は矢面に立ち、役人や貴族、ギルドマスターと交渉をしているので相当大変に違いない。
「何でそんな怯えているのよ?」
そんなことを考えていると、アリサは怪訝な表情を浮かべ俺に近付いてきた。
覗き込むように顔を近付ける。整った顔が間近にきて、美少女耐性が低い俺はそれだけで動揺してしまった。
「いや、すっかりアリサを巻き込んでしまってるなと思って、本当に俺の秘書をやってくれてよかったのか?」
「何よ今更、そんなの嫌なら断ってるわよ」
俺の質問に、アリサは間髪入れず答えた。どうやら俺に対して恨みはもっていないらしい。
「それで、この後が何だって?」
彼女が嫌がっていなかったことにほっとした俺は、遮ってしまった用件を聞きだした。
「ああそうだ、この後は施設に戻って休むだけじゃない?」
「そうだな」
いつも通りのことだ、ゆっくりと身体を休めて明日に備える。今日の仕事が終わっているのだからそうなる。そんなのはアリサもわかっているはずだが?
俺は、アリサが何を言いたいのかいぶかしむと彼女の透明な瞳を覗き込んだ。
すると、アリサはとても魅力的な提案をする。
「だったらさ、この後一緒にご飯行きましょうよ」
そう言って手を引くと、繁華街へと向かう。
夕日のせいでなければ彼女の耳が赤くなっている気がする。
「そう言えば……」
そんな彼女の後姿を見ながら、俺は以前から考えていることについて近々行動を起こさなければならないと思うのだった。