テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
にここ
90
#ファンタジー
comi
585
19
#ファンタジー
ある日の夜、シャロンは診療所の屋根の上に座っていた。そこにレンザンが、酒を持って上がってくる。
「月見かな? ……ああ、今日は良い月だ」
「ええ、そうですわね」
レンザンは小さなグラスに酒を注ぐと、シャロンに手渡した。そして自分にも酒を注ぎ、ふたりで静かにグラスを鳴らす。
「そろそろ、故郷も恋しくなるだろう?」
「最近……そう思えるようになりました。オルトゥスもようやく安定してきましたし……」
「そうだな。しかし、無理はしない方がいい。こういうときこそ、無理をしてしまうものだからな」
レンザンとシャロンは静かに語り合った。酒がまわったのか、シャロンは舟を漕ぎ始め、レンザンの肩にもたれ掛かってくる。しばらくそのままでいると――夜の空に、何かの存在を感じた。レンザンはシャロンの身体を抱きかかえ、診療所のベッドに運んで寝かせる。
「……こんな夜に空からなんぞ、無粋にもほどがあるわい」
レンザンはひとり、何かに向かって走り出した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
レンザンが森に着くと、ひとりのエルフが地面に倒れていた。その近くの樹の上から、男の声が聞こえてくる。レンザンが戦いを教えているエルフのひとりで、森の巡回を担当するロアンという若者だった。
「レンザン先生!!」
「おう、ロアン。今はどんな状況だ?」
「空から急襲を受けて……! ナロウはやられてしまって……!!」
ナロウというエルフも、レンザンが戦いを教えている若者だ。軽い性格ではあるが、真面目な人物だった。今は既に、地面で息絶えてしまっている。
「……仇は討つぞ。敵は2体か?」
「はい――ぐぁっ!?」
ロアンは声を上げると、そのまま地面に落ちた。肩には矢が刺さり、顔は苦痛に歪んでいる。
「お前は少し休んでいろ。我が片付けてやる」
そう言うと、レンザンは樹の幹を駆けあがり、宙に飛び――そして敵の1体を刀で斬り裂いた。レンザンはそのまま地面に降り、絶命した敵の姿を確認する。
「……こいつは、天使種族か?」
背中の翼に、金色の髪。診療所で一緒に働いている、シャロンと同じ種族――……レンザンが空を見上げると、もうひとりの天使種族の男が、禍々しい力を矢に込めていた。
「右腕が本調子ではないが、たまには我の技も見せてくれよう」
レンザンは刀を握り直し、祈るように集中した。刀身は熱を帯び、空気が揺らめき、炎が全体を包み――そして赤い刃を作り出す。再び樹の幹を駆けあがり、高く跳躍して、男との距離を一気に詰める。
「――舞えよ炎。桜花斬月ッ!!」
男の身体は一刀両断された。断面は黒く焦げ、そしてそのまま……爆ぜるように、宙へ霧散していく。その様は、桜の花びらが散るようでもあった。
地面に戻ったレンザンは、冷静な声でロアンに告げる。
「終わったぞ」
「さすがレンザン先生……。お見事です……!」
「実戦から離れていたせいか、いまいちだったわ。さて、それではお前の怪我を――」
「あ……! 先生――ッ!!」
その瞬間、レンザンはヒルのような魔物に襲われた。シャロンから何度も聞いていた、彼女の故郷を襲った魔物――
「――ぐぅッ!!?」
魔物はレンザンの右腕を襲い、そのまま内部に喰い入ろうとする。振り切ろうとしても、刀で斬りつけても、腕から離れる気配がまるで無い。ロアンもどうして良いか分からず、見ていることしかできない。
「……ったく、仕方ねぇなぁ……ッ!!」
レンザンは左手で刀を持ち、そのまま――自分の右腕を斬り飛ばした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――ドンドンドン!!
夜中、リディアの家の扉が強く叩かれた。しばらくすると、家着のアルマが姿を現す。
「こんな夜中に、どなたですか? ……あ、レンザン先生にロアンさん!?」
「眠っているところ、すまんな。お嬢ちゃんはいるかい?」
「しょ、少々お待ちください――いえ、家に入ってお待ちください!!」
アルマは彼らの身体を見て、緊急事態であることを察知した。家の中に向かって大声で助けを呼び、自身もリディアを呼びに行く。しばらくすると、寝間着姿のリディアが現れた。
「レンザンさん!? 右腕が――」
レンザンの右腕は、肩の下から綺麗に無くなっていた。その横にいるロアンも、肩に矢が刺さったままだ。
「我は大丈夫だから、先にロアンを診てやってくれぬか? シャロンは今、眠っているのでな」
「聞きたいことは山ほどありますが……そう言うなら、そう進めますよ!?」
リディアはロアンの状況を見つつ、止血をしながら傷を癒した。体力も消耗しているため、弱めの睡眠剤も与えて……ロアンの処置は完了とする。
その後、目を覚ましてきたシオンに、エルフたちへの連絡を依頼した。ロアンが怪我をしたこと、ナロウが亡くなったことを伝えるためだ。
「――それでは、次はレンザンさんの番ですよ!」
「ははは、血はもう止まっているだろう? そう慌てることはないさ」
「痛くないんですか!?」
「トカゲの尻尾切り、という言葉もあるだろう? 我は火蜥蜴族だからな」
「はぁ……」
「そんなわけで、お嬢ちゃんが持っている一番強い治癒薬をくれんか? 代金は、我の陶器で支払おう」
レンザンの言葉を受けて、リディアは最も高価な薬を持ってきた。ただ、レンザンの陶器がいくつかあれば、十分に賄える金額だ。
「それをどうするんですか?」
「治癒薬は、治癒をするものだろう?」
そう言うと、レンザンは右腕の切断部分に治癒薬を掛けた。そのまま揉み込むような動きを続けていると――右腕が再生した。
「えぇ……? すごく心配したんですけど、そんなにすぐ再生するものですか……?」
「我はこんなものだぞ?」
「そうなんですね……。必要であれば、食事もしていきますか? タンパク質とか、たくさん消費したでしょうし」
「ふむ。シャロンは眠っているし、我も少し休みたい。ありがたく申し出を受けさせてもらうよ」
使用人を全員起こし、早速レンザンの食事を作ってもらう。余りものがいくらかあったので、それをベースにしつつ、森の周辺で狩った獣肉を調理していく。レンザンの前には、できた端から料理が並べられていった。
「――うむ。お嬢ちゃんの家のメシは、やはり美味いな」
「アルマを中心に、料理には本格的に取り組んでもらっていますからね。オルトゥスで一番を自負していますよ♪」
リディアは明るく言うが、それにしても森で何が起こったのかが気になる。食事中ではあるが、リディアは早々に聞いてみることにした。
「それで、森で何があったんですか?」
「森の外から、天使種族がふたり、攻撃を仕掛けてきたのだ。それを倒したあと、ヒルの魔物に襲われてな」
「ヒル……ですか」
リディアの声が少し低くなった。レンザンは構わずに話を続ける。
「そいつが、我の右腕に喰らいついたんだよ。どうにもならんかったから、右腕を斬り飛ばしたというわけだ」
「まぁ……再生ができるなら、それが最善だったかもしれませんね。本当に、最初見たときは驚いたんですから」
「すまんな。ロアンの傷も深かったから、そっちを急いで診てもらいたかったんだ。おかげであいつは助かったよ。ありがとう」
「いえいえ。レンザンさんがいなければ、ナロウさんと同じ結果になっていたかもしれませんし……」
リディアはレンザンが食事するのを見ながら、気になったことを聞いていく。
「――それで、襲ってきた敵は最終的にどうなりました?」
「全員、焼いたぞ」
「あ……、そうなんですね」
「我の腕が魔物に喰われるのは、さすがに見たくもないからな。天使種族のふたり目は、斬った時点で焼け死んだし――」
レンザンは言葉を止めて、お茶をゆっくり飲んでから……真面目な声で続けた。
「――そもそも、アレは誰にも見せるべきではないと判断した。だから、ひとり目も最後に焼いたのさ」
「レンザンさんが判断したなら……きっと、それが正しいんでしょうね」
「ただ、お嬢ちゃんには伝えさせてもらうぞ? 今後、大きな話になりそうだからな」
「はぁ……。何となく予想は付きますけど、参っちゃいますね……」
「酒でも飲みながら話すか?」
レンザンの提案に、リディアは困ったように笑い返した。
コメント
1件
うわ〜〜第20話、めっちゃ重くて熱い回だった…!😭💦 屋根の上で酒を酌み交わす静かな夜から一転、天使種族の急襲でレンザン先生が右腕を自ら斬り落とす展開にマジで息止まった。。 「トカゲの尻尾切り」って笑い飛ばすところ、渋すぎて痺れるけど、シャロンの故郷を襲った魔物がまた出てきたってのがめっちゃ気になる…! 最後のリディアとの「焼いたぞ」の会話も含めて、これから大きな話になりそうな予感がヤバい。続きが気になって夜しか眠れない😭💕✨