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きょうだいの形って、あり方って色々あんるんだと想った。
ルクスとルフレ、アルベドとラヴァイン。仲のいいきょうだいもいれば、仲の悪いきょうだいもいる。それは育ってきた環境によっても異なるし、必ずしもきょうだいが仲がいいわけではない。平等に扱われていたとしても、自分に無いものに嫉妬したり、きょうだいよりも自分が特別視されることを望んでいる人もいる。
結局は自分の考え方次第なのだ。
私には兄妹がいたことが無いから分からないけれど、仲良くなれないすれ違ってばかりとかは悲しいと想う。
もし、自分にきょうだいが殺意を向けてきたとしても、それを受け止めてあげなきゃとは想った死にたくはないけれど。
『……起きて、…………起きて、巡!』
そう誰かに名前を呼ばれ、私はゆっくりと目を開いた。
「……ん」
「やあ、お目覚めかい? エトワール」
「ら、ラヴァイン!」
ぼやけていた視界は一気に晴れて、私はがばっと身体を起き上がらせた。
幸い、縛られていると言った様子もなければ、監禁為れているにしては豪華なベッドで寝かされているものだと私は辺りを見渡す。
目の前にいるくすんだ髪の男は、私を見てクスクスと笑っていた。
私を誘拐した犯人、ラヴァイン・レイ。そのフルネームを知ったのはさっき、ラヴァインの正体を知ったのがさっきである為、未だに実感がわかないが……
(そうだ、私こいつに……)
私とリースの目の前に、アルベドの姿に化けて現われたラヴァイン。精巧にその姿を真似、違和感は若干残る物の一目で私達はアルベドではないと見抜けなかった。それほどまでに高い魔力を持っているのだ。
そうして、本物が現われたことにより、こいつの正体が明かされる。彼は、私と最初にあったときヴィと名乗り、その胡散臭さと危険な香りを醸し出しつつも、私は彼と言葉を交した。貼り付けられた笑みは気味が悪く、あまりいい気がしなかった。
そんなヴィは、アルベドの弟のラヴァインだったのだ。
アルベドを何度も殺そうと使者を送っているという弟。何故命を狙うのかは、公爵の座を狙っているからだと言うが、理由はそれだけだろうか。
アルベドは、ラヴァインを弟でありながら警戒していたし、憎んでいるようだった。でも、ラヴァインから感じられない優しさからか、彼を殺せていないのだろう。ただ、二人がぶつかってどっちが勝つかは予想がつかない。
(まあ、攻略キャラが負けるって事はないだろうし……)
そんなことを考えつつ、私は何を考えているのか分からない、ラヴァインを見た。
「そう睨まないでよ。傷つくなあ」
「それが、傷ついている人の態度?」
私がそう強気で言えば、ラヴァインは驚いたように濁った黄金の瞳を丸くした。そして、可笑しいとでも言うように、腹を抱えて笑い出したのだ。
「何が可笑しいの?」
「ううん? いや、本当に君は面白いなと想って……兄さんが惚れるのも無理ない」
「アルベドが?」
「気づいてないの? 兄さん、エトワールのこと結構好きなんだよ。いいや、大好きなんだよ」
と、ラヴァインは言うと目を細めた。その言葉や動作の一つ一つからアルベドへの殺意や嫉妬が感じられた。
何を嫉妬しているのか、何がそんなに彼を突き動かしているのかは分からなかったが、それよりも彼の発言が引っかかる。
(アルベドが、私を好き? あんな、子供をからかうように私のこと弄ってくるのに?)
全くあり得ない事だった。ラヴァインは全然アルベドの事を知らないのではないかと思った。私達の会話を盗み聞きしていたとしても、そういう考えにはいたらないだろうと想った。
アルベドが私を好きなんてあり得ない。
彼とは、友人関係で、それ以上でもそれ以下でもない。もしかすると、友人というのもまた違うのかも知れないが。パートナー……その言い方が正しいのかも知れない。
私は、そんなわけない。とラヴァインに反論した。
「アルベドが私を好き? あり得ないでしょ、あんな私をからかってくるのに。私のこと、子供見たいって馬鹿にしてくるのに」
女性として見てないだろうと、私は思っているのだが。
「そう? 兄さん好きになった人には意地悪したくなるタイプでしょ。それに、これまで女性に言い寄られて燃え何とも想わなかった兄さんが、自分からアプローチかけたってことは、相当エトワールに執着心持ってるんじゃない? あの、他人に無関心の兄さんがだよ?」
と、ラヴァインは私に向かって言った。
その表情は何処までも楽しそうで、まるで新しい玩具を与えられた子供の様だった。
「それで、アンタは何が言いたいの?」
「エトワールは、助けが来るって想ってないの? それとも、諦めているとか」
ラヴァインはそういうと、座っていた椅子から立ち上がり私の方へ歩いてきた。
彼の正体が判明した以上、さらに彼に警戒心を向けざるを得ない。私は、ぐっと歯を食いしばりながらラヴァインを睨んだ。
彼は、私に近づくと、そっと頬に触れてきた。それは優しく撫ぜるように。
思わずぞわっとして、私は身を引こうとしたが、ラヴァインはそれを許さなかった。彼は、そのまま指先で私の唇に触れた。
その行動に、私は嫌悪感を抱いた。
しかし、彼はそれを気にせず、口を開いた。ラヴァインの吐息が、私の顔にかかる。
私は、それを払いのけようと手を動かそうとするが、いとも簡単に止められてしまった。
「俺に全てを捧げたら、楽になれるんじゃない?」
「誰が、アンタなんかに!」
そう叫ぶと、ラヴァインはふっと笑みを浮かべた。その笑みは、やはり気持ち悪い。
この男は、危険だ。そう本能が警告する。
今すぐ逃げろと、身体が訴えている。だが、この状況ではどうしようもない。そもそもここが何処か分からない状況では、助けも呼べない。
ラヴァインの目的が何なのか、そこを探らないといけない。
私は一旦冷静になり、スッとラヴァインを見た。彼は、私の反応を楽しんでいるのか、何? と楽しげに聞く。此奴の思惑に乗るもんかと、私は口を開いた。
「アンタは、ここで何をしているの? 私を誘拐した理由は?」
「君は、本当に面白いね」
「答えてよ」
「答えるとでも?」
と、ラヴァインはそう言うと笑った。
私が黙って睨み付ければ、それすらも面白いというように彼は目を細める。
「いいよ、特別に答えてあげるよ。俺も暇だからね」
そう言うとラヴァインは私の隣に腰掛けて話し出した。彼は自分の髪を弄りながら、まるで子供が夢を語るように語る。
「俺はね、ヘウンデウン教の幹部なんだ。それで、混沌からの指示を受けて君を誘拐した。でも、ただで渡すのも面白くないし、混沌が何を考えているかは知ったこっちゃない。それに、俺の目的は混沌に従うことでも、災厄を起こして戦争を起こすことでもない」
なら何? と私が尋ねれば、ラヴァインは目を輝かせて私を見た。
「俺が一番になる事」
「は?」
そういったラヴァインはいたって真剣だった。真剣というか、大人からしたら大きすぎて叶わないと思っている子供の夢を聞かされているような感覚だった。
ラヴァインは私に理解できない?悲しいな……と言うように眉を下げながら、話を続ける。
「まあ、戦争が起って、俺が活躍してそれから混沌を倒せば、俺は此の世界のトップになれる訳じゃん。この国を滅ぼして皇太子の座を、皇帝になってもいい。公爵の座は勿論欲しい。けど、それは兄さんからその座を奪いたいからっていう理由だし……兎に角一番になりたい。俺は上に立つ男だから」
訳の分からないことをラヴァインは語る。まるで、子供を相手にしているようだった。
頭が良い……とはアルベドから聞いていたが、夢を語る様子は子供そのものだった。こんな奴に引っかかったのかと、自分を哀れんだ。
(アルベドとは全然違う……)
現実を見て、その現実の重さを知っているアルベドと、夢を語りそのためなら他を排除しようとする理想家のラヴァイン。両者が相容れないのは納得できた。
「俺は、人の大切なものを奪うのが趣味なんだ。屈服させて、絶望させて、俺が強いって証明すること、凄く楽しい」
「最低な趣味」
「理解してくれなくて良いよ。どうせ君には、この良さが理解できない」
良さなんて理解したくない。そう言いかけた口を私は閉じてラヴァインを見る。
彼の瞳は、何処までも濁っていて何も映していない。その目に、ゾクッとした寒気が襲う。彼の夢は希望あるものではなく欲望に満ちあふれている。
自分が一番になりたいから、自分の欲のためだけに人を踏みつぶせるような男。
私が彼に出会った時、感じた違和感や気味悪さはこれだったのかと今更ながらに思う。
「それで、私をどうする気? 混沌にまだ差し出す気がないみたいだけど……」
「勿論、使い道があるから誘拐して、別荘まで連れてきたんだよ」
と、ラヴァインは答えた。
慢心。完全に私を見下し、自分がこの場を支配していると思っているのか、彼は私の質問に何でも答えてくれた。私が、彼に魔力をぶち込んだらどうなるだろうと考えたが、そこまで阿呆ではないと思った。隙を見て攻撃をしたいが、その隙が感じられない。あんなに悠々としているのに、魔法を撃つタイミングを与えてくれないのは、さすがだとは思う。アルベドの弟だと。
(別荘……アルベドが言ってた、弟が不法占拠しているって言う?)
私は、彼の言葉を聞き逃さないように耳を傾ける。
自分がいるこの場所が、アルベド……レイ公爵が所有しているものだと知ることができた。だが、ここが帝国の何処かは分からない。分かったところで、逃げ場はないのだけれど。それでも、私の居場所が伝えられればと何か良い方法がないかと探す。
「ああ、そうだ、逃げられると厄介だから。これ」
そういうと、ラヴァインはふいっと指を動かし、私の首に向かって何やら魔法を掛けた。私は咄嗟にガードしようとしたが遅く、首元に何かがはめられる。
それは首輪のようで、鎖で繋がれていて、外せないようになっている。
「なっ!」
「これはね、君の行動を縛るものだよ。まあ、どれぐらい効力を発揮するか分からないけど、君は聖女だしね」
なんて、馬鹿にするようにいいながら、ラヴァインは立ち上がった。
何処に行くのかと叫べば、用事を。とまた親切に教えてくれる。言葉というか、教えてくれるのは親切心の塊だと思っているが、それが見下しているからこそ来るものだと思うと、あまりいい気はしない。
ただ、首にはめられたこれを魔力を使ってはずそうとして、首が吹っ飛ぶのも嫌だと、私は大人しくする。すると、ラヴァインは良い子。と私の頭を撫でた。今すぐに噛みつきたい。
「エトワールには、兄さんと皇太子をつる餌になってもらうから。大人しくしててね」
そう言い残すと、ラヴァインは部屋を出て行ってしまった。
(大人しく待っている気はないけど!)
私は、どうにかしてあの慢心野郎をなぐるため、彼が出て行った後の部屋で作戦を立てることにした。待っているだけじゃ、何にもならないと思ったから。リースとアルベドが来るかも正直分からないけれど……
(うん、きっと大丈夫! 何か、私メンタル強くなったから!)