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ー『また来てくれたんだね。』俺と琥珀はまた、あのお花畑に来ていた。
『他にできることなんて、そんなにないからな。』
暇だった。
『まだまだ元気だよ。』
もう、9月も半分が過ぎた。
でも、コスモスの花が咲き誇っている。
『今日は、俺たちが住んでる近くに行くか?』
俺は訊いてみた。
『行ってもいいの?』
『悪いことなんてない。まぁ、楽しめるところは少ないけど。』
瑠璃は少し考えて、
『行きたいな。』
そう言った。
『なら、こっち。』
瑠璃も連れて、ある場所へ行く。
そこには、沢山の木がある。
でも、
一部の木の葉っぱが、赤や黄色くなってきている。
『わぁ〜きれ〜』
大したことではないだろう。
でも、瑠璃は楽しそうだった。
『あの黄色の扇子みたいな形の葉っぱはイチョウ、あの赤い手のような形の葉っぱのはモミジだよ。』
葉っぱが赤や黄色になっている。
つまり、もう秋だ。
ということは、
『せん、す?』
もうここに来て、半年が過ぎた。
大変だった。
本当に大変だったけど、友達もできた。
二人の人狼と出会って、友達になれた。
そうか、友達か。
今までは、一人の方がいいと思っていた。
でも、今は違った。
友達といるのって、こんなに楽しかったんだな。
失いたくないな。
一人の時は、自分のやりたいことができる。
周りに合わせることなんてなかった。
でも、
友達といる時は、毎日が暇ではなくなった。困ることもあるけど、楽しくて、知らないことも知れて、
人生の良さを感じた。
まだ少なくても、きっといつか、
人狼でも心から楽しめる日が来るだろう。
幸せだと感じられて、笑える。
そんな日も、来るんだろう。
『甘ちゃん?』
琥珀が、顔を覗かせていた。
『すまん、ちょっとボーっとしてた。』
『大丈夫?』
瑠璃も、心配してくれた。
『あぁ、大丈夫。』
『ねぇねぇ甘ちゃん!これ、どんぐりだって!』
琥珀が、何かを見せてくる。
『どんぐり?ちょっ、近くて見えないんだけど…』
琥珀が、顔から離した。
茶色の、丸っこい何か。
これが…どんぐり?
『あそこに、たくさん落ちてるよ?』
琥珀が指差した先に、琥珀が見せてきたどんぐりとかいうのと同じものが落ちてあった。
一つ、拾ってみる。
『どんぐりは、木の名前はわからないけれど、木の実なの。』
『木の実…』
これを植えると、この木が生えてくるのか?
こんなに小さな実が、こんな、大きな木に…
俺の何倍も、何十倍も高い木になるのか。
すごいな。
『甘ちゃん!瑠璃ちゃん!こっちに何かある!』
琥珀が、俺たちを呼んだ。
『なんだ?』
『これ!』
そこには、
『な、なんだこれ…』
不気味な形をした何かが落ちている。
『それは松ぼっくりだよ。そこの木から落ちたみたいだね。』
瑠璃は植物について、本当に詳しいな。
この木の葉っぱは…これか?
細いな。
もう線だ。
木は、それほど高くはない。
そこにも、松ぼっくりができている。
松ぼっくりか、
拾ってみる。
思っていたより軽い。
『面白い形でしょ?』
『そうだな…』
変な形だな。
そう思った。
『たくさんとってきたよ。』
『えぇ…』
琥珀が両手いっぱい、どんぐりと松ぼっくりを持っていた。
『あ、一つ落ちちゃった。』
一つどころか、ぼろぼろ落ちていく。
『それ、どうするんだよ。』
『持って帰る?』
『そんなに持って帰るのか?』
それ、何に使うんだよ…
『うん!』
琥珀は、楽しそうだった。
『置いておくだけでもかわいいと思うよ?』
『そうかな…』
瑠璃も、いくつか拾っていた。
さて、
『もうそろそろ、弁当をもらいに行こうか。』
今日は、3人か。
いつも、タダでもらっているので申し訳ないとは思う。
でも、そこでしか食べ物はもらえない。
『お弁当、もらえるの?』
『うん、もらえるよ。いつも、そこでもらってるから。』
『親は、作ってくれないの?』
親か…
『本当の親はなくなった。それからは知らない人と暮らしてたけど、学校の先生が嘘をついたせいで家を追い出されたんだ。』
『そうだったのね、ごめんなさい。』
『気にしなくていい。琥珀も、親から暴力を振るわれてたみたいだしな。』
琥珀も、親から暴力を振るわれていた。
だから、帰らせるわけにはいかない。
『だから、あそこにはもう戻るつもりはない。』
『そうなんだ…』
瑠璃は、悲しそうにしていた。
そのまま歩いて、
『ついた、ここだ。』
いつもの弁当屋へ。
『ああ?今日は1人増えたな。3つか、ほらよ。』
おじさんから、弁当を渡された。
『いつも、ありがとうございます。』
『いいって、俺にできることはこれくらいしかないしな。』
俺は、頭を下げる。
『少なくともお前と銅色の髪の子は、家出でもしてるんだろ?』
『なぜそれを…』
『最近は、毎日2.3回くるだろ?親から飯をもらってないのか家出をしてるだろうってことはわかるよ。』
そうだな、
ずっと、ご飯はここの弁当をもらって食べていた。
『俺の知り合いに、宿屋をしてる人がいるが、お前たちを泊めてもいいと言ってたぞ?いくか?』
やどや…
よくわからないけれど、
『俺なんかが泊まっていってもいいのか?』
『泊めるどころか、住んでもいいと言っていた。俺の姉とは仲がよかったらしいから、人狼のことを悪くは思ってないさ。』
それは、とても嬉しいことだ。
だけど、怖くも思った。
『もう少し、考えさせてください。』
『わかった。』
俺は、もう一度頭を下げた。
住まわせてくれる場所。
とても嬉しいことだ。
でも人狼に対して、こんなに優しくしてくれる人がいるのだろうか。
近くの公園は人がいたので、人気のない場所で弁当を食べた。
午後は川沿いを歩く。
けど、やっぱり大したものはなかった。
でも、今は歩くだけでも、それだけでもいい。
1人でいるよりは、楽しいから。
ゆっくり、景色を楽しみながら歩く。
そして、
『また、会おうね。』
手を振って、瑠璃と別れる。
琥珀と、倉庫に帰る。
でも、
『え、』
その倉庫が壊されていた。
『家が…』
琥珀は悲しそうだった。
『・・・』
シロツメクサの冠も、そこにはなかった。
『次を探そう。』
俺たちがここに住んでいたのを知って、壊したんだろう。
でも、他にも似たものはあるはず。
そして、
物置として使われていたと思われるコンテナを見つけた。
しばらく人が出入りした形跡はない。
『ここにしよう。』
ここも、長くはいられないだろうけど、問題はないはず。
それに、
最終手段も用意されている。
どうしようもなくなるまでは、
それまでは、ここにいよう。ー